私たち、幸せになります
一つない空には雲の代わりに真白の鳩が舞っていた。
ウェディングドレスを脱ぎ、お色直しの用意をする。
神の御許の、正式な婚礼の場では帝国のブランドのウェディングドレスを纏ったが、今回着るのは領民が作ってくれたものだ。
ヒューゴ様の瞳の色と同じ、淡くも澄み切った青色のドレス。温かみを感じる刺繍が施され、見ているだけでも心が和やかになる。
それに袖を通し、先程よりもカジュアルな服装をしたヒューゴ様と再会する。
互いの左手薬指に嵌められた銀色の輝きに改めて、今日という日を持って彼と私、ライラ・コーデルは夫婦として結ばれ、家族になったのだと感慨に耽る。
「先程、姉上を見ました」
「はい」
「……涙を、流していました。生まれて初めてです。クロエ姉上の涙を見たのは」
俯いてそう呟く彼の太い二の腕に、そっと手を添える。
「嬉しかったのですね。弟の晴れ舞台が」
「そうですね。侯爵様、あ、義父殿もここまで来られて良かったですね」
「ええ。色々ありましたが……あそこまで回復して本当によかったと思います」
ふと、控室で会った時に父とした会話を思い出す。
『お前たちに親らしいことをしてやれなかった私を今日招いてくれて、許してくれて、ありがとう。今更だが私に出来る事はなんでもする』
それに「父様が健やかで、私たちの家族でいてくれれば、それでライラは幸せです」と答えた。
それが本心だ。大丈夫です父様。
母様に肩を抱かれ泣いている父様を見て、ロザムンデ姉様も満足そうに微笑んでいた。
「夫婦に、なったのですよね。私たちは」
「そうですね。幸せです。ライラ、様」
「ですから、その、敬称は外しませんか? 家族、なのですから」
私の言葉にヒューゴ様は綺麗な瞳を見開いて、あらぬ方向に目を向ける。
「つまりは呼び捨てですか?」
「……はい」
「確かにそうですね」
「ヒューゴ」
「……ライラ」
「…………」
「…………」
そこからしばらく、重い沈黙が流れる。
ああ、もう。言い出しっぺの私まで恥ずかしくなってしまったわ。
化粧が手袋にうつらないようにしながら、赤くなった顔を隠し、ヒューゴ様を見上げる。彼もまた真っ赤になっていた。
二人とも同じ気持ちなようだ。
「まだ、早かったですね」
「え、ええ。焦らずに行きましょう」
そう。焦らなくていい。
私たちはこれからずっといるんだから。
「ヒューゴ様」
「はい。ライラ様」
「幸せです」
「私もです。今日という日をずっと、ずっと夢に見てきましたから」
「私は、こんな日が来るなんて夢にも思ってなかった。愛する人と一緒になれるだなんて」
「ライラ様……愛しています」
「ヒューゴ様……」
「す、すいません……今日は、先に自分から気持ちをお伝えしたくて」
「うふ、ふふふ。では私は、これから毎日お伝えしますね」
「え! 待ってください、それでは、私の心が――」
「さ、いきましょう。皆が待っています」
戸惑う彼の手を取り、私は皆が待つ広間に向かった。
家族、親しい領民、友人たち。
きっかけはツラいものだったけれど、おかげでベミリオン領で幸せな生活を送る事が出来た。
そしてその幸せはこれからも続いていくのだ。
いつまでも。




