あとがき
この作品は「30分読破シリーズ」の本編を呼んでくださった方への感謝の気持ちとして執筆したものです。
物語の性質上、この『あとがき』にて作品内の裏話やネタバレを含んだテーマの核心に触れるため、本編の最終話までが未読の方は先に小説本編をお読みいただくことをおすすめします。
ネタバレを含む解説や僕自身の考察は、本文読了後にじっくり味わってもらえたら嬉しいです。
まずはここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
この物語は、最初にタイトルが先に決まり、「正反対の二人を書きたい」というところから生まれました。そこに夏祭りというエッセンスを加えています。
「からかい合う天敵」が、ひと夏の夜にだけ同じ方向を見上げる――。
委員長で真面目な灯花と、場を和ませる不真面目(に見える)な日ノ原。今回はあえて重い裏テーマは設けず、二人の等身大の甘酸っぱさだけを書きました。思春期のもどかしさは、大人になるとつい忘れてしまいがちです。そんなむず痒い気持ちを少しでも思い出していただけたなら嬉しいです。
夏祭りは、気になり合う男女にとって最高の舞台です。
夜の闇と人混みが二人を学校という檻から解き放ち、匿名にしてくれるから。今回はさらに「お面」という小道具を加えました。
迷子、スマホの電池切れ、下駄の鼻緒の故障、掌のすり傷――“委員長”としての鎧が次々とはがれていく中、日ノ原の背中が現れる。背負うという行為は、言葉より先に信頼を渡すものであり、ここは最初から決めていた見せ場でした。お面をかぶるのも、「助けたい」と「照れくさい」の両立を描くための装置です。
日ノ原が浴衣姿で伏せっていた灯花を見分けたのはもちろん偶然ではありません。日頃から彼女を見ていたからこそ分かった、という描写にしています。そして後日、浴衣姿に対して「似合ってた」のひと言だけを残す――言葉少なめのやさしさは、まさに日ノ原らしさです。
その他の小ネタ
●月野と日ノ原の名前はそれぞれ月と太陽をイメージ
●天狐のお面は、灯花の“月っぽさ”を象徴。対する日ノ原は“太陽”の特撮ヒーロー。
●バッテリー切れは偶然のご都合ではなく、高校生らしい「あるある」を物語の導線に変えたかったところ。
●一年の夏でいったん物語を閉じ、「副会長就任」で二年へ続けるラストは、投げっぱなしではなく、月と太陽はずっと追いかけ合ってほしいという願いからです。短編なのでこれ以降は想像に委ねますが……きっと波乱が起きないはずがない。転校生による三角関係だってありえるかもしれません(笑)。
最後に、人はしばしば、月と太陽のように素直になれないときがあります。
だからこそ、言葉以外のやり方で気持ちを伝えるのだと思います。背中で語り、写真で残し、差し入れのペットボトルで示す――そんな小さな優しさの積み重ねが、誰かの夏や人生を変えることだってある。
この物語が、あなたの記憶のどこかに、花火の残り香のようにふっと残ってくれたなら幸いです。
他にもさまざまなテーマで30分読破シリーズを更新していますので、ぜひ、あわせて読んでみてください。きっとまた別の優しさに出会えるはずです。
また、ブックマークや評価、感想を頂ければ次回作への参考や励みになりますので、良ければよろしくお願いいたします。