帰宅
やっほー! オタクくん、見てる~?
俺は無事にエルシーの体に戻ってきました~!
目を覚ました瞬間に、メイドのヘレンが駆け寄ってきてハグしてくれたよ~!
⋯⋯物凄い勢いで体の上にダイブしてきて、復活早々死ぬかと思った。
こんな犬みたいに飛び込んできて、肋骨折れたらどうしてくれるんだ!
お詫びにスケベな漫画みたいなことしてくれるのか!?
俺はいま女の体だから、されたとしても旨味が無いですね! 南無三!!
とまぁ、茶番はこのくらいにしておこう。
「ヘレン! 痛い!」
「も、申し訳ございません、お嬢様!」
お嬢様からの苦情に、ヘレンが慌てて飛び退いた。
⋯⋯コイツ、よく見ると美人だな。
あのダサい丸眼鏡を変えたら、結構イイ線いくんじゃないか?
あーあ! インキュバスになってた時に、誘惑の魔法使えば良かった!
そしたら退治もされなかっただろうし、人外じゃないけど可愛い女の子とイチャイチャも出来たかもしれねぇ!
⋯⋯なんだよ、俺の脳内のオタクくん。
相手の気持ちを考えないで、無理やり魔法で洗脳するのは良くないよ~、だって?
オタクくんってば真面目だねぇ。
ハイハイ、もちろん。洗脳が犯罪行為なのはわかってますよー。
この国の中じゃあ、問答無用の斬首刑だってことも。
⋯⋯同意を取らないのは、神様が勝手に俺を転生させたのと同じだろってことも。
でもさ、やっぱ憧れるじゃん。
イケメンで、皆からチヤホヤされて、うるさい大人は魔法で黙らせるみたいなの。
道徳だとか、常識だとか、そんなのウゼェ~って思っちゃうじゃん。
ここはゲームの世界じゃないし、自己中に生きるのも許されてないけど⋯⋯。
こんなの「人間」として間違ってるって、オタクくんだって俺の脳内でブーイングして引き留めようとしてくれるけどさ。
きっとこれが、若さってやつだと俺は思うんだよね、オタクくん。
──俺は前世からずっと、優等生ヅラ、辞めたかったんだ。
てなワケで!
第二の種族リロード計画を始めま~す!!
絶対にハーレム作ってやっから、オタクくんは黙って俺がモテまくるのを見てやがれ~!
俺は改めて、メイドのほうを見た。
前回のインキュバス化計画で障害になったのは、エルシーのお世話係のヘレンだ。
お嬢様の体から魂が抜けて、ゴーレムに憑依していたなんて、彼女には考えもつかなかったのだろう。
だから、まずは、コイツを味方にする必要がある。
「なあ、ヘレン。俺が倒れてた時のことなんだけど──」
「お、お嬢様!? どうなさったのですか、そんな下町のような喋り方をされて!
まさか、私の想像以上に、お嬢様の心の傷は深かったというのですか⋯⋯!?」
おいたわしや、私がしっかり見張っていれば、とヘレンが涙ぐみ始める。
彼女からすると、インキュバスに襲われたショックでエルシーの気が狂ったかのように見えているらしい。
「そんなんじゃないって。落ち着けよ、ヘレン」
「落ち着いてなぞいられません! 今すぐにお医者様を手配いたします!
浄化のハーブ湯にも浸かりましょう!
大丈夫、例えインキュバスに純潔を穢されたとしても、お嬢様は何も失いはしません⋯⋯!」
ヘレンがぎゅっとエルシーの体を抱き締める。
⋯⋯現在進行形で、ヘレンからの正しい認識が失われているのだが⋯⋯。
どうにも、話を聞いてもらえそうな雰囲気ではない。
ヘレンは俺を抱きかかえ、あれよあれよと、風呂場まで運んでいってしまったのだった。