森の泉へ
いえ~い! オタクくん、見てる~?
俺は何事もなく王都を抜け出して、近くの森へと来ていま~す!
秋にはドングリみたいな木の実がいっぱい拾えるんだけど、今は春だから何にも無いぜ!
数日前に、救世主様と騎士団が魔物退治をしてたから、無害な小鳥くらいしか見当たらない。
悪魔の隠れ家を探したいんだが、どこに行けば会えるかなー。
俺は適当に、森の奧へと進んでみた。
洞窟に隠し階段があって、その先に──なんてのがゲームでは定番らしいが、ここは山じゃなくて平地だ。
洞窟も無ければ、崖も滝も無い。
⋯⋯となると、隠れ家に使えそうなのは泉か。
俺はなんとなく水がありそうな方向へ、直感のままに進んでいった。
鱗で覆われている足は、靴が無くても土の感触が気にならない。
これまで俺は、インキュバスの体に憑依することだけを目指していたが⋯⋯。
研究をもっと深めれば、鳥や魚の肉体に入ることも出来るかもしれない!
水中で活動できるようになれば、マーメイド探しで役に立つし、空が飛べれば一夜のうちに遠くの山までも遊びに行けるだろう。
これは、研究する価値があるな。
そんなことを考えながら歩いていると、パシャパシャと水の音がした。
テキトーに歩いてただけなのに、やっぱり俺ってラッキーボーイだ!
俺は音のするほうへ向かって歩き始めた。
木々の間を抜けると、そこには小さな泉が湧いている。
透き通った水面に、陽光が反射して輝いていた。
泉の中には、女性の人影がひとつ。
日に焼けた褐色の肌を惜し気もなく晒し、冷たい水で身を清めていた。
⋯⋯人間だ。
残念なことに、なんど見直してみても、あれは人間だ。
エルシーと同世代くらいの体格で、手足もバストも枝のように細い。
年頃の娘の水浴びをジロジロ眺めるのも良くないので、俺はそっと視線を外した。
泉の畔の岩には、体を拭くためのバスタオルと、彼女が着ていたらしき服が広げて干されていた。
ピンク色のロリータドレスだ。
オタクくんの好きそうな半袖ミニスカ丈の衣装には、たっぷりと白いフリルがあしらわれている。
⋯⋯ああいう服って、丸ごと水洗いして無造作に干しても良いのだろうか?
異世界だから、特殊なシワ防止の魔法とか使われてるのかな。
だとしても、風で飛ばされないように、ドデカいハンマーを重石にしてるのはどうかと思う。
フリルがぐしゃぐしゃのぺっしゃんこだぜ⋯⋯。
「てかアレ、聖雷槌じゃん⋯⋯!」
俺は思わず声を上げてしまった。
聖雷槌、通称セイントハンマーは、神聖教会が独自に開発した武器だ。
教会で専用の修行を受けた者にしか所持が許されていない。
つまり、水浴びをしている女性は、高確率でエクソシスト。
人外の体に憑依してるこの状況で、関わってもいい相手ではない。
俺はそっと足音を殺してその場から立ち去ろうとした。
「──獣ッ!?」
女性が俺の気配に気づいて、素早くハンマーの柄に手を伸ばす。
ぶんッ、とハンマーが振り抜かれ、雷を纏った風圧が森を駆け抜けた。
一瞬のうちに飛び出した衝撃波により、俺の胴体が一閃。痺れが弾ける。腹部が痛い。
快晴の下で、一拍遅れて雷鳴が轟いた。
「ヴギャアア!」
「えっ、うそ、人間⋯⋯!? ごめんなさーい!」
女性が慌てて謝罪する。
彼女はバタバタと泉から上がって、タオルを体に巻きつけ、そのまま俺のほうへと駆け寄ってきた。
「怪我しましたよね!? 見せてください!」
まずい。エクソシストに半竜人の腕を見られたら、どんな反応をされるかわからん。
また悪魔認定されて、やり直しになるのは困る!
俺はマントの合わせ目をきつく握って、彼女の申し出を断った。
「い、いや、ぞんな大じた怪我じゃないんで⋯⋯!」
「いやいや、そんなに遠慮しないでください! アタシ、収穫の神ルベルトハイスの加護厚き、神官のメグエラです!
簡単な治癒魔法なら使えますから、さあ、どうぞ怪我を見せてください!」
メグエラがずいっと近寄ってくる。
⋯⋯こうなったのなら、仕方ない!
どうせ人外だってバレるなら、インキュバスの魅了魔法で引き下がるよう命令しよう!
この子にはモフモフの毛皮も、四つ足の骨格も、何も無いけど! 背に腹は変えられない!!
俺はエルシーの知識から、魅了魔法の術式を引っぱり出した。
体内魔力が豊富な悪魔族でなければ、まともに起動することも出来ない、異種族限定の魔法。
そこにインキュバス特有の魔力属性が重なることで、どんな女の子でも一瞬でメロメロにしてしまう!
まさに反則的な魔法!
俺は魔力を練り上げて、瞳に魅了の魔法陣浮かび上がらせた。
次回! イチかバチかのチート魔法!!
俺の成功を祈っててくれよ、オタクくん!




