没落寸前の貴族令嬢
いえーい、オタクくん、見てるー?
こんな状態、見られたくないから、どうかお前は転生してくるな。
俺は溜め息を吐きながら、自室の姿見の前に立つ。
⋯⋯うん。どこからどう見ても、麗しの貴族令嬢だ。
ロングストレートの金髪に、憂いを帯びた薄青の瞳。
ハの字に垂れ下がっている眉毛と、小さく愛らしい唇は、いかにも気弱な優等生だ。
青いリボンとエーデルワイスを象った髪飾りが清純な雰囲気を出している。
彼女が俺の転生した先。
かつては魔導師の名門とまで讃えられた一族の、たった一人の跡取り娘。
没落寸前の貴族令嬢、エルシー・マッドリバー嬢だ。
清楚な顔面とは裏腹に、胸はとてつもなく大きい。
⋯⋯俺、本当に女に転生させられたんだな。
ギャップで脳みそがどうにかなりそうだ。
「まあ、なっちまったモンは仕方ない!
せっかくだから、男の体に戻るついでに、イケメンのインキュバスにでもなるか!!」
俺は自分の頬をパチン!と叩いて、気を取り直す。
神様は悪魔を滅ぼせ的なことを言っていたような気がするが⋯⋯。
わざわざ異世界くんだりまで来て、可愛い人外の女の子たちと遊ばないなんて大損じゃん!!!
俺、エルシーとして過ごしてきたこれまでの人生で聞いちゃったんだよ。
この世界のインキュバスには、どんな女の子でもメロメロにして、イチャイチャできちゃうチートスキルが存在してるって!
だから俺、今からインキュバスになりまーす!
やり方にはもう目星がついてるんだよね!
エルシーの家系が魔術にめっちゃ詳しくて良かった~!
俺はウキウキとした足取りで、屋敷の書庫へと向かっていった。
本棚の中から引っ張り出すのは、憑依術の魔導書だ。
それに、ネクロマンシーと、ゴーレム作成の本も少々⋯⋯。
これで上手いことインキュバスの体を作って、その中に俺の魂を移せば、種族リロードの完成だ!
失敗したらエルシーの家系が途絶えるが、んなもん知ったこっちゃない!
どうせ没落寸前だし、復興させるのとかも興味無いし!
「待ってろよ、異世界のカワイコちゃん!
立派なインキュバスになって、たっぷりイチャイチャさせてもらうからな~!」