憑依用ゴーレム・改
いえ~い、オタクくん見てる~?
今日はいよいよ二度目のインキュバス化を試す日で~す!
カーラ様は、俺がインキュバスの体に乗り換えるのを嫌がってたんだけど⋯⋯。
魅了魔法を打ち破るほど、俺にとっては重要なことだから、条件付きで許してくれた。
前に言ったか覚えてねぇけど、「一時的な憑依」ってやつね。
一夜の過ち程度の火遊びは、スパイ活動の報酬として容認してくれるんだとさ。
そういうわけで、今日は楽しいチートデー!
俺はわくわくしながら、屋敷の食堂で朝食を取っていた。
忘れないうちに、メイドのヘレンにも声を掛けておく。
「ヘレン。食べ終わったら庭でゴーレム作るから、ちょっと手伝ってー」
「かしこまりました。儀式中の安全は、このヘレンがお守りいたします。例え悪魔が現れようとも、撃退してみせますよ!」
ヘレンがグッと力こぶを作ってみせる。
格闘の心得があるだけあって、頼もしい。
まあ、この屋敷の中に悪魔が出るとするならば、それは確実に俺のゴーレムなんだけどね。
俺は朝食のパンとスープを平らげて、両手を合わせた。
「ごちそうさまでした!」
さあ、いよいよ種族リロードのお時間だ!
シャベルを担いで庭へ出る。
俺は鼻歌を歌いながら庭の土を掘り返した。
「まずは土に水を混ぜて、そこに岩トカゲの鱗を少々⋯⋯」
魔法を使いながら、シャベルでザクザクと素材を混ぜて、良い感じの粘土を作る。
それをこう、指の赴くままに人型にしたら、第一段階は終了だ。
俺の作業を見守っていたヘレンが、戸惑いを浮かべた顔で言う。
「お嬢様、これは⋯⋯。ゴーレムにしては、精巧すぎでは⋯⋯?」
「今回はこれで良いんだよ。ちょっと特殊な魔法を使うから」
俺は塑像の出来を確かめながら、ヘレンからの質問に答えた。
やんわりとした指摘だが、気になっているのは下腹部だろう。生々しい造型のアレを、ヘレンの視線がチラチラと見ている。
確かに、普通のゴーレムの場合は、動かしたときにパーツが割れてしまうので、とても大雑把な体型になる。
けれど、いま俺が作ってるものは、種族の壁を越えるために必要な新しい肉体だ。
インキュバスの証とも言える「美しい外見」を再現しなければ、意味は無いのだ。
ゴーレムのチェックを終えた俺は、次の行程に入る。
「下がってろ、ヘレン。今から魔法でコイツの材質を変えるから」
俺は前回と同じやり方で、土の塑像を生身の肉体へ置換する。
茶色かった表面の色味がどんどん薄まっていき、質感が人のそれへと近づいていく。
手足は黒い鱗で覆われ、尾てい骨の辺りから細長いトカゲの尾が生えた。
「あ、あれぇ⋯⋯? 思ってたのと、なんか違うぞー⋯⋯?」
もしかして、強度増加のために混ぜてみた鱗が、良くない進化を遂げたのだろうか。
出来上がったゴーレムは、どう見ても半竜人の姿をしていた。
ヘレンが塑像の変貌に、信じられない、という顔をする。
「お⋯⋯、お嬢様⋯⋯! 何ですか、これ⋯⋯! 私、こんなにもリアルな半竜人の像は見たことがありません!」
「ああ、俺もだよ。⋯⋯てか、ヘレン。こういうのイケる系? 鱗とか生々しくてヤバいけど」
「はい、イケる系でございます。お嬢様にはお話しする機会がありませんでしたが⋯⋯。
実は私、子供の頃から、童話に出てくる聖竜の騎士が大好きなのです」
ヘレンはうっとりとした顔つきで、半竜人ゴーレムの鱗を撫でる。
「ああ、凄い⋯⋯。触り心地も、まるで生きているトカゲの革を張ったみたい⋯⋯」
ヘレンが好きだという騎士の童話は、北のほうにある国の話だ。
邪竜を退治した若者が、竜の呪いによって段々と人の姿を失っていく。
やがて完全に竜の姿となった英雄を、人々は邪竜の末裔と誤解し、退治してしまった⋯⋯といった感じの話である。
ヘレンは半竜人ゴーレムの手を持ち上げて、すりすりと頬擦りをしてる。
「えっと⋯⋯、実験はこれからなんだけど⋯⋯」
「⋯⋯ハッ! も、申し訳ございません、お嬢様! ヘレンは一歩下がってお嬢様を見守っております!」
ヘレンがゴーレムから距離を取る。
彼女と入れ替わりに、俺はゴーレムの前にしゃがんだ。
予定してたのとは、だいぶ違う見た目になっちゃったけど⋯⋯。
まあ、インキュバスとして作ったんだから中身はインキュバスだろう。
うん。まさか別の種族として扱うなんて、あるわけないさ。
⋯⋯本当に頼むぞ?
俺はインキュバスにしか使えないチート魔法で、人外ちゃん達をメロメロにしてやりたいんだ!
俺がカーラ様の魅了魔法に完全に屈伏しちゃう前に! 人外娘ハーレムを完成させたいんだよ!!
「ヘレン。今から魔法で、そっちの体に俺の魂を憑依させるから見といてくれ」
「え。今からここで、ですか? これはゴーレムなのですから、歩かせて工房の中で試されたほうが⋯⋯」
「⋯⋯確かに、そうだな」
俺はネクロマンシーを使って、半竜人ゴーレムを立ち上がらせてみる。
ゴーレムは、のたり⋯⋯のたり⋯⋯と、ぎこちない動きで地面に手をついた。
⋯⋯遅っせぇ。
顔はめっちゃイケメンなのに、動作がびっくりするほどノロマ。
魂を入れやすくするために生成術式を弄ってるから、普通のゴーレム操作術とかネクロマンシーとの相性が良くないんだろうな⋯⋯。
これなら、俺が憑依して動かしたほうが早い。
「⋯⋯お嬢様、申し訳ありません。ゴーレム自身に歩かせるのは、魔力の無駄だったかもしれません。ここは、私が担いで運びましょう」
「ああ。頼む、ヘレン」
俺は操作術を切った。
半竜人ゴーレムの体が、起き上がりかけの状態でそのまま停止する。
ヘレンが「では、失礼します」とゴーレムの下に手を差し込んで、ひょいっと軽く持ち上げた。
ちょうど、お姫様抱っこの体勢だ。ゴーレムが曲げていた膝と背中の角度が偶然ジャストフィットしている。
「ああ、なんと素敵な肌触り⋯⋯! 芸術品として買い取ってしまいたいくらいです⋯⋯!」
ヘレンが楽しげに呟きながら、工房へ向かって歩き出す。
⋯⋯そんなに気に入られるとはなぁ。
使い終わったら、状態維持の魔法を掛けてプレゼントしても良いかもな。
え、なに、オタクくん。
中古のフィギュアにはブラックライト?
あー、なんか、前に言ってたね。
その言葉だけ覚えてて、意味とか全然覚えてないけど。
笑顔のヘレンを横目に見ながら、俺は工房へと向かった。