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取り戻した平穏

 

 国に戻ったミリィたちは、戦争を終わらせ病から両国の民を救った恩人として大歓声で迎えられた。その圧倒されるような歓喜の渦の中、ミリィは顔を引きつらせひたすらに身を強張らせていた。


「な……なんだかすごいですね! さすがランドルフ様、人気がおありです!! で……でも私、なんだか冷や汗が止まらなくて……」

「ふっ! 大変なのはこの後だ。ミリィ。きっと息をつく間もないくらい夜会だの祝賀会だのに引っ張り回されることになるんだよ……。それが嫌でできるだけ王都にはいないようにしているくらいだからな……」


 げんなりした顔でため息を吐き出すランドルフに、心の底から同情の眼差しを送ればミランダが笑った。


「ふふふっ! おふたりとも今からそんなに逃げ腰では、とても体が持ちませんよ? それにどこへ行ったっておふたりご一緒には違いないんですから、デートだと思えばよろしいじゃありませんか?」


 冷やかすようにそうミランダに言われ、思わずふたりそろって顔を真っ赤に染めた。でも言われてみれば今まで一度もふたりで出かけたことなどないのだから、いい機会だと言えなくもない。人の視線があり過ぎるけど。


「もう……ミランダさんったら! デートだなんて、こ……困ります……!」

「えっ!? デートは困るのかっ??」

「へっ?? あ、いえ、別にそういう意味じゃなくて……」


 どうにも噛み合わない会話に、ミランダが肩を震わせ声もなく笑いをこらえていた。

 そしてその後のミリィたちはといえば――。



 ◇◇◇


「ミリィお嬢様! ランドルフ様がいらっしゃいましたよっ!!」

「はぁいっ!! すぐ行くわっ!!」

 

 国へ戻ってきて以来、ランドルフは連日戦後の後始末に追われている。けれどその合間を縫っては会いにきてくれる。それが嬉しい。

 そして今日も――。


「ランドルフ様っ!!」


 その姿を見るなり、ミリィの胸が大きく跳ねた。


「ミリィ! 遅れてすまない。陛下にあれやこれやと呼び止められてな」

「いいえ! こうして会いにきてくださるだけで十分嬉しいですっ。……少し歩きましょうか?」


 すっかり平穏を取り戻した町をランドルフと歩く。すれ違う人々と明るく言葉を交わしながら、そんな何気ない日常にミリィは幸せを噛み締めていた。


「二か月後にはまた隣国へ出立ですね! なんだか実感がわかなくて……。ついこの間帰ってきた気がするのに、あれからもう二ヶ月もたったんですね。アズール様の戴冠姿も、想像がつきませんし。アズール様も村の皆も元気にしているでしょうか?」


 隣国でオーランドたちとともに走り回った日々が、遠い昔のように感じられる。ついこの間のことなのに。


「あいつのことだ。文句を言いながらもしっかりやっているだろう。……そういえば、オーランド殿は即位式が終わっても、そのままあちらに残るつもりだと聞いたが?」

「はい。隣国にしか生息していない植物の研究がしたいからと、ジングと一緒に国内を回るつもりなんだそうです。さすがは研究熱心なオーランド様ですよね!!」


 隣国から戻ってきてから、オーランドとは王宮で二度ほど会ったきり。助手生活が終わった今、顔を合わせる機会もないけれど、きっと相変わらずあの魔窟のような研究室で植物相手に研究に没頭しているのだろう。

 思わずその光景を思い浮かべ、ミリィはくすりと笑った。


「そうか……。しばらく隣国に……」


 なぜかランドルフが複雑そうな顔でつぶやいたのを見て、ミリィは首を傾げた。


「オーランド様がどうかしましたか? ランドルフ様??」


 けれどなんでもない、とランドルフは首を横に振った。


「そうだ……! 君に伝えておかなければならないことがあるんだ。実は明日から一週間ほど所要で時間が取れなさそうでな……」

「お仕事が大変なんですね……!! 国へ帰ってきてもゆっくりできなくて、体は大丈夫ですか? ランドルフ様」


 いくら屈強な体の国の守り神とは言え、こうも連日忙しくては体調は大丈夫だろうかと思わず不安を顔ににじませれば、慌ててランドルフが言い直した。


「あぁっ、いや! 仕事というわけではないんだが……、ちょっと急ぎ押さえておきたいものがあってな……。その話し合いでバタバタと……」

「押さえておきたいもの……ですか??」


 怪訝そうな顔で見上げるミリィにランドルフは「まぁその……近い内に……」と曖昧に笑ったのだった。


 それから一週間が過ぎたある日のこと――。

 ミリィはランドルフに誘われ、王都の外れへと出かけることになった。



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