果たすべき役目
「では私はアズールとともに先に行く! お前たちはミリィたちの警護を頼んだぞ!」
ランドルフが颯爽と馬にまたがり、こちらを見やった。国からついてきてくれた護衛騎士と警護役として残していく数名にミリィたちを任せ、王宮へと向かうために。
「いってらっしゃいませ。ランドルフ様……。アズール様。ご無事と幸運を! 王都は私たちにお任せください!」
昨夜ふたりで過ごした時間と約束を胸に、ミリィは精一杯の微笑みを浮かべランドルフたちを送り出した。
「……あぁ。頼んだぞ。ではいってくる。ミリィ」
「はいっ……!! ランドルフ様、皆様もどうかご無事に!! 幸運をお祈りしております……!!」
一瞬熱く視線を交わし、ランドルフたちは砂を巻き上げ颯爽とかけていった。
そしてミリィたちも、寂しさと不安に心を揺らす間もなくすぐに王都へと向かう準備に取りかかった。
「ミリィ! この町に残していく分を除いたありったけの薬を荷馬車に運び入れてくれ! ミランダが村から王都に着くまではまだ時間がかかるっ。それまでなんとかある分で乗り切るぞっ!!」
「はいっ!!」
ミランダが不足しているメギネラなどの材料と薬を作るための人手を確保するためにあの村へと発って、半日が経過しようとしていた。おそらく採取の時間と往復にかかる時間を考え合わせると、王都に到着するのは早くても今日の夕方にはなるだろう。
ミリィは残りわずかな薬を見やり、ぐっと口元を引き結んだ。
「よしっ……!! 私も頑張らなくちゃ……!!」
そして気合を入れるために、ポケットから国を発つ時にリーファ会の面々をはじめ皆からもらった髪飾りを取り出した。それで髪をぎゅっとひとまとめにし、大きくうなずいた。
「さぁっ!! では準備が整い次第、私たちも王都へと行きましょう!! 皆さん、どうぞよろしくお願いしますっ。最善を尽くしましょう!!」
「「「はいっ!!」」」
こうして、ミリィたちもバタバタと王都へと出発したのだった。
王都の状況は、想像以上だった。おそらくは随分前から食料や物資の供給が滞っていたのだろう。満足な食べ物どころか飲み水にも困る町人すら多くいた。これでは病は悪化し広まる一方だ。
「……とにかくまずは重症者から優先的に病院に運び込め! 軽症者は教会へ! 薬の不足分が用意できるまで、なんとか持ちこたえろっ!!」
オーランドの指示で、皆一斉に動き出した。治療の手はずはすでに村と町での経験から皆わかっている。けれど王都は広い。患者たちを全員探し出し、症状別に隔離するだけでも大変な作業だった。
手元にある特効薬と代用薬は、ざっと見ただけでも到底全員には行き渡らない。
ミリィは今すぐにでも薬を投与しなければ命が危ぶまれるほどに弱りきった民たちを見やり、唇を噛みしめた。
けれどそのわずか数時間後――。
「オーランド様!! ミリィ様っ!! お待たせいたしましたっ!! 薬ですっ」
馬の音と荷馬車のゴトゴトという車輪の音に、ミリィたちはざわめきたった。
「ミランダさんっ!? どうしてこんなに早くっ……!? 到着は早くても今日遅くかと!?」
なんとそこにはミランダと村で出会ったジング、数人の見覚えのある村人たちがいたのだった。荷馬車に大量のメギネラとその他の材料、飲み水や食料を積んで――。
「こんなに短い時間で、どうやってこんなに用意を……!? それに飲み水まで……!!」
村人総出で森に採取しに行くだけでも半日はかかってもおかしくない。なのにどうやってこんなに早く、しかもこんなに大量のメギネラを? とミリィとオーランドは目を丸くした。
するとジングが得意げに鼻の下をこすりながら、笑った。
「へっへーん!! 俺が前もって皆に頼んでおいたんだ! きっと他の町や村でも特効薬は必要になるから、それに備えて準備しとこうって!! この間オーランド様たちがきた時、長期保存する方法も教えてくれてたからさ」
ジングに続き、ミランダが口を開いた。
「あの村には井戸がありますからね。村長が王都はきっと飲み水にも困っているだろうから、水も汲んで持っていけと! 他にも村の皆が協力してたくさんの物資を提供してくれたんですっ!!」
「まぁ……!! 皆が……!?」
「そうだったのか……!!」
驚くミリィとオーランドに、ジングが得意げに笑った。
「どうだっ!! 役に立っただろ? オーランド様!! これならもう弟子入り確定だよなっ!! へっへーんっ!!」
オーランドはしばしそんなジングを見つめ、破顔した。
「……ふっ!! くくっ! あぁ、そうだな。確かに役に立った! 見事だ、ジング! なら弟子と見込んでさっそく働いてくれるか!! 要領はこの間と同じだっ! 急ぎ特効薬と代用薬を作る用意を頼むっ」
「やったぁっ!! おうさっ! 任せといてっ」
オーランドに認められたことがよほど嬉しいのだろう。ジングはぴょんっ、と飛び跳ねると破顔してすぐに村人たちとともに行動を開始したのだった。
その勢いに背中を押されるように、ミリィもオーランドと顔を見合わせ力強くうなずくと急ぎ薬の用意にとりかかったのだった。
その頃アズールとランドルフたち一行は――。
なぜか人気もなく空っぽになった王宮の中を、国王がいるはずの最奥へと向かっていたのだった。




