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新たな不安

  

 目の前に広がる光景に、ミリィもオーランドも息をのんだ。


「これは……回復までには時間がかかりそうですね……。オーランド様……」


 思わず隣にいたオーランドにそう語りかければ、オーランドも表情を曇らせうなずいた。


「あぁ。……だがなんとかするしかない。よし……! さっそく治療をはじめるっ。手の空いている者は手伝ってくれ!!」

「「「はいっ!!」」」


 オーランドの一声で、皆一斉に動き出した。もはや一刻の猶予もない。ミリィも袖をまくり上げ、治療に取りかかったのだった。



 あっという間に一週間余りが過ぎ――。


「ふぅ……。とりあえずはこれで様子見ですね。オーランド様」


 ミリィは額に浮かんだ汗を手の甲で拭い、ほっと息をついた。ランドルフとの再会を喜ぶ間もなくすぐに治療に取りかかった甲斐あって、町はとりあえずの落ち着きを見せていた。感染者は多いものの、あの村で特効薬と代用薬をたっぷり用意できたおかげでなんとかなりそうである。


「……大丈夫か? ミリィ。疲れたようなら遠慮せずに休んでいい。君はすぐに無理をするからな」

 

 あいも変わらずぶっきらぼうなオーランドの言葉に、ミリィは苦笑した。無愛想な言葉の割に、その顔にはありありと心配そうな色が浮かんでいるのがオーランドらしい。


「ふふっ! まだまだ大丈夫ですよ。……でもこの町がこんな状態となると、もしかすると王都にはさらに患者がいるかもしれませんね……。たくさん薬を用意してきたつもりですけど、このままいくと足りるかどうか……」


 薬が恐ろしいほどの早さでなくなっていくのを見て、ミリィは不安を募らせた。この町の辺りにはメギネラが生息している場所はおそらくない。かといってまたあの村に戻って採取していたら、とても間に合わない。

 どうやら同じことをオーランドも考えていたようで。


「あぁ……。こうなったら、またあの村人たちにメギネラの採取と精製を手伝ってもらうしかないかもしれないな……」


 ようやくランドルフと再会を果たし、喜んだのもつかの間。ランドルフはあとからきたアズールという赤茶色の髪の男とともに、すぐに王都へと出立していった。そのせいでこの町以外の状況は、いまのところミリィたちには伝わっていなかった。


「そうですね……。ジングや村の人たちなら、私たちが向かわなくても必要なものもわかりますし、いざとなったらお願いしなきゃいけないかもしれませんね……」


 その時だった。背後に突然現れた人の気配にミリィは飛び上がった。


「お? もしかしてその村って、国境近くの村のことか? ランドルフたちが助けたっていう……??」

「び……びっくりした……!! ええっと、あなたはアズール様でしたよね……?? 王都からお戻りになったのですか??」


 振り向いてみれば、そこにはアズールがいた。

 赤茶色の髪に形の良い目、精悍な顔つきながらどこかその面立ちには品がうかがえる。それにその目の色――いや、正確に言えば目の中に散った金色が印象的だ。ランドルフとはまた違った意味で強さを漂わせるアズールを、思わずまじまじと見つめていると。


 アズールが口元に意味ありげな笑みを浮かべ、ふむふむとうなずいた。


「あぁ、驚かせてごめんよ! この間はろくに挨拶もせずに失礼した。あらためて、私はアズール。一応この国の王族の血を引く人間だよ。よろしくね。ミリィちゃん! あぁ、ランドルフもまもなく顔を出すはずだよ」


 興味津々に顔をのぞき込まれ思わずのけぞる。するとその間にオーランドがぐいっと体を割り込ませ、アズールをじろりとにらみつけた。


「……私の助手に近づき過ぎだ。用件があるなら私が聞く」

「オーランド様??」


 その様子に首を傾げれば、アズールがくくっとおかしそうに笑った。


「くくくっ!! ロイドが言っていた通りだな。オーランドと言ったな。別にお前の助手を取って食うつもりはないから安心しろ。……にしてもまったく君は不思議な女性だな。ランドルフといい、オーランドといい……すっかり」


 そう言いかけた時、背後からもうひとりの人物がにゅっと顔をのぞかせた。その瞬間、ミリィの頬がほんのりと染まった。


「ランドルフ様!! おかえりなさいませっ。王都の様子はどうでした?」


 一週間ぶりに対面を果たした喜びといまだ慣れない気恥ずかしさに顔を真っ赤に染めるミリィに、ランドルフの顔がへにょりと緩んだ。


「やぁ、調子はどうだ? ミリィ。ろくに事情も説明できないまま、慌ただしく出立してすまなかった。……だいぶ患者たちの容態は落ちついたようだな。……少し疲れたのではないか? ちゃんと食事や休憩は取っているか? あまり無理をして君まで何かあったら……」


 心配そうな顔でじっと顔を見つめられ、さらにミリィの頬がぶわりと染まった。それを見たアズールがぶはっと吹き出した。


「くくくくっ!! これはまた……初々しいな。守り神がまさかそんなだらしない顔をするとは……、これはなんともおもしろいものを見た。こっちはこっちで目を吊り上げているし……。くくっ!!」


 アズールがランドルフとオーランドを交互に見やり、さらに肩を震わせた。そんなアズールの腹に一発拳をめり込ませると、ランドルフが真剣な表情で口を開いた。


「……ところで王都の状況だが」


 ランドルフの顔に走る緊張の色に、オーランドもミリィも息をのんだ。


「ここ以上に事態は深刻だ……。人口の多さと密集度のせいか、感染者の数も多く栄養事情も最悪だ。なぜかあるはずの薬もまったくなく、医者もいない……」


 最悪の予想が当たってしまったことに、ミリィは表情を翳らせオーランドと顔を見合わせたのだった。


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