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あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう!  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO


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特効薬ができました!


 ミリィが目を覚ましたのは、それからしばらくしてからのことだった。見慣れない天井と体にかけられていたオーランドの上着に、慌てて飛び起き研究室をのぞき見れば。


「あぁ。気がついたか。もう少しで実験が終わる。その間に帰り支度をしていろ。……屋敷まで送っていく」


 ぶっきらぼうなオーランドの物言いに、自分が倒れて運ばれたことを理解した。研究の邪魔をした申し訳なさと情けないところを見せてしまった恥ずかしさから、思わずミリィは身を縮こまらせ慌てて頭を下げた。


「申し訳ありません……。ご迷惑をおかけして……。もう大丈夫です……! すぐに研究の続きを……」


 けれどその言葉にオーランドの鋭い目が一瞬ギロリ、と向いた。


「いいから素直に言うことを聞いて、しばらく休養しろ。無理をさせてしまった自覚はある。……すぐに終わるから、そこにある回復薬を飲んで待っていてくれ」


 有無を言わさないその様子にミリィはさらに小さく縮こまり、机の上に置かれた一本の瓶を見やった。オーランドは態度こそ一見ぶっきらぼうだが、実は優しい人間であることをミリィは知っていた。ならば心遣いを無下にするわけにはいかないと、薬瓶を手に取り一気に中身を飲み干した。


 そしてオーランドから数日間の休みを言い渡されたミリィは、家族にもアルミアたちにもこってりと絞られ一時の休息を取ることになったのだった。



 それからしばらくして――。


「ミリィ、これを見ろ! ついにやったぞ!!」


 研究室に、オーランドの歓喜の声が響き渡った。


「これは……まさかっ!?」


 オーランドが差し出した小さな瓶の中に入った粉末状の薬を、ミリィは驚きの目で見つめた。


「あぁ、そのまさかだっ!! ついにできた……。あの病の特効薬が完成したっ!!」


 そう叫ぶオーランドの目はキラキラと輝き、その顔にはやり遂げた達成感と自信とが満ちあふれていた。


「オーランド様っ!! やりましたねっ! 良かった……。本当に良かった!!」


 助手とはいっても、特別何かの役に立てたとは思えない。けれどそのほんの少しのお手伝いをできただけでも誇らしい。完成の瞬間に立ち会えたことも。

 ミリィはオーランドの希望にあふれた顔を見やり、目を涙でにじませながら大きくうなずいた。


「君の勘は正しかった!! やはりあの病は、呼気や体液からの感染以上に発疹の症状を抑えることが肝だったんだ。そしてメギネラの根のコブこそが、その救世主だったんだ……。この薬が完成したのは、君の発想と熱意ゆえだ」


 ミリィは気恥ずかしさとやり遂げた喜びに、頬を染めた。


「じゃあこの薬を服用すれば、これ以上の爆発的な感染を抑えることができるんですねっ!?」

「その通りだ! 発疹症状が出る前にこれを服用すれば早期に感染力を抑え込むことができるし、まだ感染していなくとも予防効果もある! 症状の重い者には合わせて熱を抑える別の薬を併用すれば、治癒も早まるだろう」 

「やりましたね……!! オーランド様……!! これで国を……たくさんの患者さんたちを救えますっ。この国だけでなく……隣国も……!!」


 いつになく興奮した様子のオーランドと顔を見合わせ、声を上げて笑い合った。

 研究が、ようやく花開いた瞬間だった。

 


 でき上がったばかりの薬は、すぐさま入院中の患者たちに投与され絶大な効果を上げた。効果が立証されたことでオーランドの特効薬は瞬く間に国中に行き渡り、この国の爆発的な感染を抑え込むことができたのだった。

 そして――。


「これは君の分だ。婚約者にすぐ届けてやるといい。そのために君はひたむきに頑張ってきたんだからな……。君は実に優秀な助手だった。ありがとう……。ミリィ。君とこの薬を作り出すことができて、とても楽しかった……」


 そう言ってオーランドは淋しげな笑みを浮かべ、静かに手を差し出した。

 

「これは、世話になった友人としての握手だ。……これくらいならランドルフ殿も許してくれるだろう?」

「オーランド様……。こちらこそ、とてもお世話になりました。オーランド様のおかげで、目的を無事果たすことができました。……不躾なお願いだったのにお力を貸してくださって、本当にありがとうございました。このご恩は忘れません……」


 そっと重ねた手に一瞬力が込められ、オーランドの口元が何かを言いたげに動いた気がした。けれど何も言わずオーランドは少し淋しげに笑い、数ヶ月に渡る助手生活は幕を閉じたのだった。


 ミリィはすぐに、隣国にいるランドルフへと薬を送った。いつものように一通の手紙とともに。そしてそれは、ランドルフのもとに到着したのだった。まるで奇跡とも呼べるようなタイミングで――。


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