花開く準備
「モーリア侯爵夫人、お願いがあるのですっ。どうか……私に自分の磨き方を教えていただきたいのですっ! 私、ランドルフ様にいただいた、この首飾りが似合うような大人の女性になりたいのですっ!!」
ミリィは、ランドルフから贈られた例の首飾りを夫人に見せた。
「これは……??」
「実はこれは、ランドルフ様から婚約が決まった折に贈っていただいたものなのですが……。でも以前の私は、これがユリアナ様を思って買い求めたものなのでは、とおかしな勘違いをしてしまってずっとしまい込んだままで……」
夫人は首飾りをしばし見つめ、なんとも言えない顔で首を傾げた。
「これを……ランドルフ様が、ねぇ……」
その何か言いたげな様子が少し気にはなったものの、ミリィはランドルフのために変わりたい一心で頼み込んだ。
「でも先日の一件で、ユリアナ様が嘘をついていたとわかって……。その時わかったんです。なぜ私があんな勘違いをしてしまったのか……! 私……自信がないんです。女性としての魅力に欠けるというか……子どもっぽいし、顔立ちも平凡だし……」
しょんぼりと肩を落とししゅるしゅると身を縮めていくミリィの肩を、夫人が優しくなでた。
「ええとつまり……、あなたはユリアナを見て自分に自信をなくしてしまったことで嘘を信じ切ってしまった……ということね? だから、この首飾りが似合うような女性に磨き上げてほしい、と?」
ミリィは決意をにじませて、コクリとうなずいた。
「なるほどね……。そういうことだったの……。ふふっ! なんともかわいらしいこと」
「……??」
夫人はしばし首飾りを見やったあとしばし考え込んで、にっこりと微笑んだ。
「まぁ……この首飾りは一旦脇においておくとして。……多分何かこれには事情があるのでしょうし!」
「はい……??」
「いいえ。まぁそれについては後々わかるでしょう。……わかったわ。そういうことなら、喜んでお手伝いさせていただきましょう! なんだかとっても楽しそうだし!!」
「本当ですかっ!? ありがとうございますっ。モーリア侯爵夫人」
安堵の表情を浮かべるミリィに、夫人は続けた。
「よろしいこと、ミリィ様? 女性の美しさとはもちろん外見だけを指すのではないわ。たとえばこの首飾りが似合うかどうかは重要ではないの。内面からにじみ出る美しさや心の持ちようが何より大事なのよ」
「はい!」
「でも、自分がまわりからどう見られているかを意識して、美しさを追求することも大切なことよ。そのためにはあなたにはこれから覚えなければいけないことが、山程あってよ? 覚悟はできているかしら?? ふふっ!!」
夫人はそう言うと、ミリィの肩を優しく励ますように叩いた。
「はいっ!! 私、頑張りますわっ!! ランドルフ様のために……! 帰ってこられた時に、少しでもランドルフ様にふさわしい女性になれるよう精進しますっ!!」
「その心意気よ!! さぁ、じゃあさっそくはじめましょうかっ。そうと決まれば……。エマ! ここに今すぐエマを呼んでちょうだい!」
夫人の行動は早かった。
てきぱきとあちらこちらに連絡を取るようメイドたちに指示すると、楽しげにコロコロと笑った。
「ふふふふっ!! なんだか腕が鳴るわねっ! あぁ、そう言えばそろそろ次の季節用のドレスも仕立てなければね! 急いでロぺぺ様との約束もとりつけてちょうだい!! 守り神の婚約者様のお着替えの時間よって言えば、すぐにきてくれるはずよ!!」
「ええっ!? つい先日あんなにドレスを注文したばかりなのに!?」
夫人のガーデンパーティに招かれた直後、社交用の華やかなドレスをすでに五着は仕立てたはずだ。それに町歩き用のものもいくつかと。それなのにまだ必要なのか、とあんぐりと口を開いた。
すると夫人は。
「あら? ドレスは季節や用途によってどれを着るかは異なりますからね! 当然のことだわ。少なくともそうねぇ……。一年に新しいドレスを最低でも五着、毎年仕立て直しておかなければとても足りないわよ?」
「ええええええ……」
どうやら自分には、まだまだ知らないことが山程あるらしい。
こうしてミリィは、女性として一歩前進するための新たな努力の日々がはじまったのだった。




