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つかの間婚約者の頑張り

 

 とある日の社交で――。


「ミリィ様が慈善に励まれているとはお聞きしてましたけど、まさか学院の頃からそんなに熱心に……!! 驚きましたわ」

「たとえ非力でも、少しでも誰かの力になりたくて……。ランドルフ様のように剣で国は守れなくても、別の形で国を守ることはできると思うんです!」

「まぁ! さすがはランドルフ様のご婚約者様だわ!」

「先日は汗だくになって、一日中草取りを手伝ってらしたとか!! 家を失った方たちに暮らす場所を提供するためなんですってね!」

「はいっ! 家だけでなく、いつかは誰でも自由に基本的な教育や職業支援を受けることのできる施設も作りたいと思っております!!」


 ミリィの熱のこもった言葉に、ご婦人方が感嘆の声をもらした。

 見た目にはまだ幼さが残るこれといって目立つ風貌の令嬢ではないけれど、なんと生き生きとした夢を持ったひたむきな令嬢だろう、と。


 そしてまた別の日の社交では。


「あら、ミリィ様ったらランドルフ様のこととなると途端にお顔が赤くおなりで……! ふふふっ! 微笑ましいこと」

「まだ一度もお会いではないというのは本当ですの? それはお寂しいことね! ……え!? 文通をなさってますの? まぁまぁまぁまぁっ!!」


 ランドルフの話題になると、ミリィは途端に気恥ずかしさにもじもじとしてしまう。いまだランドルフの婚約者と呼ばれ慣れていない上につかの間の身だと思っているせいかもしれない。


 けれどその初々しさと文通なんていう奥ゆかしいやりとりが、なんとも言えずほのぼのとした印象を周囲に与えていた。

 そのためか、気がつけば周囲の目は変わりはじめていた。


「ランドルフ様は剣で、ご婚約者であるミリィ様は慈善という活動で国を守ろうとなさっているのね! 素敵だわっ!!」

「ええ、本当にっ! ぜひ私も協力させてくださいませ。今度、古くなったドレスやらをお持ちしますわね」

「まぁっ、それは大変に助かりますっ!! ありがとうございますっ」

「私もっ!! お力になれることがあったら、なんでもおっしゃってくださいましなっ!!」

「皆様、ありがとうございますっ。本当に……!!」


 いつしか打算と嫉妬にまみれた視線は、好意的なものに変わっていた。

 それとともに、ミリィは次第に社交にも慣れモーリア侯爵夫人がいうところの武器と防具、つまり貴族社会の乗りこなし方を身につけつつあった。

 

 そして今日もミリィは、社交に励むのだった。

 

(ランドルフ様……! 私、ランドルフ様のお力になれるよう、しっかり社交に励みますねっ。つかの間の婚約者だって頑張りますっ!!)


 自分の中で気づかぬうちに、抑えられないほど大きな愛が育ちはじめていることにはまだ気づかずに――。

 


 ◇◇◇


『敬愛する婚約者様


 お変わりございませんか?

 先日モーリア侯爵夫人のガーデンパーティに招かれ、バルデア卿やマダムオーリーをご紹介いただきました。有名なデザイナーのロぺぺ様まで!

 皆様大変良い方で、社交の苦手な私に力を貸してくださるとおっしゃっていただきました。苦手な社交もこれから頑張れる気がしてきましたわ。

 

 おかげで最近ではようやく社交にも慣れてまいりました。もっと恐ろしいものかと怯えていたのですが、いい方もたくさんいらっしゃって慈善への協力者もずいぶん増えたんですよ。

 これもすべて、皆様にお口添えくださったラルフ様のおかげです。

 お優しいお心遣い、本当にありがとうございました。これからも頑張りますね!


 それではまた。

 遠い空の下であなたの無事と幸運をお祈りしております。

 

 リル』


 ランドルフは待ちに待ったミリィからの手紙に頬を緩ませた。


「そうか……。なんとかなったようで何よりだ。しかし、まさかモーリア侯爵夫人とバルデア卿だけでなく、マダムオーリーやロぺぺ殿まで……」


 どうやら自分の婚約者となった女性は、社交の才があるらしい。きっとあの心優しくひたむきな性質が皆の心をとらえるのだろう。

 ランドルフは感心と驚きをもって笑みを浮かべた。けれど同時にじりじりとした焦りと苛立ちがわき上がる。なぜ婚約者である自分がそばにいて守ってやれないのか、と。 


「本来ならば、私がそばにいて守ってやるべきなのだが……。この遠さが、なんとももどかしいな……」


 そうつぶやいて、遠く離れた婚約者へと思いをはせるのだった。

 けれど、ミリィとランドルフを取り巻く目がようやく平穏なものに変わりはじめたのもつかの間――。新たな暗雲がふたりの頭上にじわじわと広がりはじめていたのだった。


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