泥墓地
勇者は目を覚ました。
辺りは暗くじめじめとしていて、生き物が死んだような臭いが包んでいた。
ここは墓場である。
この世界に死はなかったため、当然墓場もなかった。ゆえに、死んだもの達は崖下へと投げ込まれ、幾重にも折り重なった死骸が山のようになった場所を墓場とよんでいるのである。
その死体の山のにもぞりと動くものがあった。
それは若い女の姿をしていたが、腕は根本から失われ、辛うじて繋がった脚が棒切れのような細い胴体を支えているだけのような存在だった。
ボロボロの勇者は女に話しかけられた。
「ここは死人が最後に訪れる…」
「あ、大丈夫です。回復薬と祈りをお願いします」
「はあ?」
勿論女はそのつもりであった。それが自分のやるべきことだと分かっていたが、なぜ目の前の男がそのようなことをいうのか理解できない。
「はやく!」
勇者は右に左に不気味なステップを踏んでゴロゴロと転がった。
そしてそのまま話しは終わったとばかりに崖をジャンプで登り始めた。
それは崖から突き出た岩から岩へと器用に登りながら、ついにその頂きに到達する。
「おっしゃ、一気に終盤までショートカットや!」
「え、ちょ、ええ!?」
勇者は武器強化に関して、最大近くまで強化するには、後半でのみ手に入る希少なパワーアップイテムが必要な事を知っていた。
故に、このショートカットによる初期装備でのパワーアップイテムの分取りは、世界のバランスを崩す最初の一手となった。