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死にイベ


 金で作られた糸が縫い込まれた高価な装束に身を包んだ高官達が、動物園のパンダを覗き込むように勇者を見る。高官達とは対照的に麻布を纏っただけの勇者の姿は浮浪者を思わせた。

 その姿に嘲笑が漏れる高官達のもっとも高い位置に国王がいた。まったく気にも止めないという様子で、手元の羊皮紙を読み上げる。寒気がするほどに広い大広間に国王の威厳溢れる声が響き、この国の現状が伝えられる。


「勇者よ。この国は古くより、魔王と竜の戦争により荒廃した。神、サンカクロムの死によりこの世界に死という毒が蔓延し、人の世界はすみに追いやられている。だが、そなたがこの世界を救うために立ち上がったことを誇りに思う」


 この話しはスキップできないため、その間に手持ちの袋から回復薬を取り出して腰ベルトにかけておく。小技だがこれによって回復速度が2秒短縮になる。

 国王の話のあと、演出で重い扉が開かれるが、これを無視して勇者は窓枠から身を投げた。


 出た!窓枠ダイブ!これによって長い階段をショートカットして降りることができた勇者は、地面につく直前で前転し、王宮の植え込みに飛び込むことで落下ダメージを相殺した。


 この世界の魔王とは先ほど出てきた国王と同一人物で、ボスを5体倒して証を持って帰ってくると王様が形態変化してボス戦になるので、いかに早く帰って来るかが攻略の鍵となってくる。


 勇者が城の門を出ると突然黒い影がのし掛かった。


 それは強烈な腐敗臭を漂わせた巨大な狼で、腹が割けて内臓が既に失われていた。その姿になっても死ぬことができないのは、元々死の概念がなかった世界でそれに感染し抗っているからだった。故に、狼は腐っていない生き物を取り込むことで自らを正常に戻そうとしているのだった。


 勇者は抵抗しない。何故ならばこれは死ぬことが目的のイベントだからだ。

 狼の腹から垂れ下がった内臓の切れ端が赤子の手のように勇者を包んで腹に取り込んだ。さながら、母親の乳房を求めるような仕草には何か深い意味はあったのだろうか……。


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