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第八話 いざ、出陣。

 俺は自然と目が覚めた。ドアの上にある壁掛けのアナログ時計を確認する。現在時刻は午前〇時半。

 そろそろ起きようと思い、両隣を確認する。いつの間にか俺から離れていた。二人の背中が見える。

 起こさない様に、なるべく音を立てずベッドを抜け出す。リビングへ行くとサソリさんがソファに座って、コーヒーを飲んでいた。

「おはようございます。お早いですね。」

サソリさんが微笑みながら、俺に話しかけてくれた。

「おはようございます。本当に寝てないんですね。」

「わたくしは、二十四時間いつでもお給仕出来るよう訓練されてますから、問題ありませんよ。」

急に俺のお腹が空腹を告げた。不可抗力で鳴る音に、恥ずかしくなる。

「つかさ様。もしよろしければ、昨日買ったおにぎりがあります。コンビニのおにぎりで申し訳ないですが、よろしければお召し上がりください。今、お茶も淹れますね。」

サソリさんは、キビキビとし動きで用意を始める。

「いや、申し訳ないんで、俺自分でやります。」

俺はサソリさんを呼び止める。サソリさんは爽やかな笑顔を俺に向けて言う。

「やらせてください。これがわたくしのお務めでございます。それにりんのすけ様に御友人ができた事が嬉しいんです。次期当主としての実力は他に類を見ない天才ですが、性格に難があるため、今まで御友人がいなかったんですよね。コーヒーと紅茶どちらにされますか?」

「それならお言葉に甘えて……コーヒーお願いします。」俺はソファに腰掛けた。続けてサソリさんに質問する。

「りんのすけは、サソリさんの事を信頼してるって言ってましたよね。やっぱり仲が良いんですか?」

サソリさんは俺の言葉を聞いて、ニヤニヤし始めた。一気に雰囲気が変わる。

「小さい頃から、坊ちゃまのお世話をしておりましたからねぇ。小さい頃の坊ちゃまは本当に可愛くて、サソリお兄ちゃんって言いながら後ろをついてきたり……。」

サソリさんはコーヒーやおにぎりの準備が終わった後も、俺の隣に腰掛けて延々とりんのすけの自慢話を始めた。変なスイッチを入れてしまった様だ。

 俺はおにぎりとコーヒーをいただき、適当に相槌を打って、二人が起きて来るのを待った。



 午前一時になる。サソリさんは、話を途中でやめて立ち上がり、りんのすけの部屋へ行った。起こしに行く様だ。

 先にリビングに来たのはひゅうがだった。あくびをしながら、フラフラとソファに座る。

「おはよう、ひゅうが。……ひゅうが?」

俺が話しかけても反応がない。まだほとんど寝ている様だった。うつらうつらと、頭が揺れている。もふもふの金髪癖っ毛も一緒に揺れる。

 部活もあって疲れているだろうから、起こさない様にした。本当にこんな無茶振りに付き合うなんて、ひゅうがは良い奴だな、と俺はひゅうがを見て笑ってしまう。

 次にリビングに来たのはサソリさんだった。その次にりんのすけが入ってくる。りんのすけは眠気目を擦りながら、サソリさんの服の裾を持っていた。

 その後、サソリさんは慣れた手つきでりんのすけの身支度を整え、車をタワマンの近くまで移動させる。

 俺はひゅうがを起こして、身支度を整えて、サソリさんとひゅうがと俺の三人でカメラや懐中電灯などの機材を車に詰め込んだ。

 運転席にサソリさん、助手席に俺、後部座席にりんのすけとひゅうがが乗り込み、出発する。

 少し車を走らせると、後部座席の二人が頭でお互いを支えながら寝始めた。

 バッグミラーでりんのすけが寝た事を確認すると、サソリさんは先程中断していた『りんのすけ自慢』の続きを話し始めた。

 俺は心霊スポットに向かっている事への、恐怖心でそれどころではない。ほとんど話が頭に入ってこなかった。

 車はどんどん、山奥を進んで行く。街灯のない真っ暗な道をハイビームで照らしている。対向車も歩行者も何もいない。人の住んでいる気配はなく、進んでも進んでも森が続いているだけだ。

 山道の脇道を左折して、細い道を上っていくと、サソリさんは車を停車させた。

 後ろからゴンッという鈍い音とともに「いってぇぇー!!」という叫び声が聞こえた。

 振り返るとりんのすけが、自分に寄りかかっていたひゅうがを突き飛ばし、ひゅうがは窓に頭をぶつけた様だった。

「ここからは、歩きでしか行けないみたいですね。道が木で塞がっています。」

サソリさんはハイビームで照らされた倒木を指し示す。倒木の倒れ方は、まるで入るなと言っている様だ。

「サソリは車で待機していろ。行くぞ。」

りんのすけは車を降りた。俺とひゅうがも車を降りる。

「もうカメラ回した方が良いよな?」

俺はバックドアを開けながら言った。

「そうだな。いつ撮れるかわからないなら、なるべくたくさん撮ろう!」

 りんのすけは、ビデオカメラを取り出して録画をし始めた。ひゅうがはカメラに向かってピースをした。りんのすけはひゅうがの体に回し蹴りを決める。

「つかさ、りんのすけがいじめてくる。」

俺に助けを求めて駆け寄って来た。

「僕は別にいじめていない。戯れてやっただけだ。」

りんのすけは、プイと横を向いて腰に手を当てた。

「お前ら仲良くしろよ。」

俺は残りの荷物を担ぎ、バックドアを閉める。

「おれも持つの手伝うよ!」ひゅうが言った。

「ここに来てくれただけで助かってるよ。大丈夫、そんなに量はないから1人で持てる。」

俺は機材が入った荷物を担いだ。すると、りんのすけが言う。

「灯りが必要だ。つかさ、そのまま立っていろ。」

 りんのすけは、荷物からヘッドライトを三つ取り出す。俺とひゅうがは頭にライトをつけ、りんのすけは腕につけた。俺は荷物で手が塞がっていたため、りんのすけとひゅうがだけ、手持ちの懐中電灯を持つ。

 倒木を跨いで、道をライトで照らしながら進む。生い茂る雑草や低木で道がかなり悪い。お互いに声を掛け合いながら、気をつけて平屋へ向かう。道中もずっとりんのすけはカメラを回している、

「あれ、なんだろ?」ひゅうがは左奥の方を懐中電灯で照らした。

 遠くの木々の間に、ゆらゆらと動く緑色の光が見えた。

「も、もう出たのか?」

俺は怯えながら言うと、りんのすけが返す。

「誰か他にも人がいるんだろう。有名な心霊スポットだ。肝試しに来ていてもおかしくない。一応僕の私有地だからね、迷惑な人だとわかったら通報させてもらうよ。」

りんのすけの冷静さに、少し救われた。

 そうだよな、そんな簡単に幽霊なんて会えないよな。と俺は自分に言い聞かせる。

 りんのすけは続けて俺に話しかけた。

「つかさ、幽霊って言うのは人の恐怖心に反応するらしい。あまり怖がっていると、危ない可能性があるから気をつけろ。」

「はい!」

俺は背筋を伸ばして返事をした。ひゅうがは無邪気に、りんのすけに話しかける。

「りんのすけって物知りなんだなあ。すごいなー。」

「調べて知り得る情報はある程度ある。心霊映像を撮る難易度も把握済みだ。今日一発で撮れるとは思っていないが、やれる事はやる。」

俺は恐る恐るりんのすけに質問した。

「やれる事って?」

「1人検証だ。幽霊がいそうな場所に、1人だけ残り、他の者は遠くで連絡を待つ。人数が多いと心霊現象は起こりにくいからな。」

りんのすけは、淡々と言う。

 俺はそれを聞いて絶望する。そんなの、出来るわけないよ。

 しばらく山道を歩いて行くと、建物が見えてきた。大きな平屋の一軒家と納屋がある。古い建物で、窓が割れている。これは目的の心霊スポットで間違い無いだろう。

 目的地に到着すると、りんのすけはこれからの段取りを説明した。

「まずは、三人ともそれぞれトランシーバーを持つ。最初は全員で建物の中を探索する。幽霊が一番出そうな部屋を見つけたら、一度建物を出て、順番に一人検証を行う。」

「全員やるのか?」俺は念のため聞いた。

「もちろんだ。幽霊との相性もあるからな。人によって向こうの反応も変わる。三人それぞれが行う事で確率を上げる。」

「へえ。おれ、ちょっとワクワクしてきた。幽霊見れるといいなあ。」

ひゅうがは何故か楽しそうだ。俺は全く楽しくない。

 トランシーバーを準備し、動作点検をした後、りんのすけ、ひゅうが、俺の並びで屋敷の中に入る事になった。

 りんのすけは「失礼します。」とお辞儀をしてから玄関に入る。ひゅうがは「お邪魔します。」と言った。俺も二人に倣ってお辞儀をする。

 屋敷の玄関は、散乱していて割れたガラス片やボロボロの靴がいくつか置いてあった。靴箱の上の壁に丸い鏡があり、俺は鏡を見ない様に下を向いて入る。

「なんか、足音しない?」

と、ひゅうがは後ろを振り返る。りんのすけも後ろを振り向いた。俺は怖くて振り返れず、二人の顔を見つめる。

「どこからだ?」

「外かなあ。こっちの方に歩いてくる音したんだけど。」

ひゅうがは、玄関の外を確認しに行き「誰かいますか?」と声をかけた。返事はない。

「人間が一番怖いって言うからなあ。ちょっと気を引き締めよう。」

とひゅうがは言い、俺とりんのすけの間に戻ってくる。 

 最初に入ったのは、一番手前の部屋だ。応接間の様で、小さめの部屋にボロボロのソファと机が置いてある。部屋の壁際には、背の高い棚が並んでいて、机の上には、朽ちた紙がいくつか置いてある。

「ん?これは写真か?」りんのすけは机に置いてある紙を一枚手に取った。俺とひゅうがも写真を覗き込む。

 写真には、四十代くらいの男と女そして中学生くらいの女の子が写っていた。温泉旅館の和室で撮られた家族写真の様だ。

「これが、斎藤一家なのか?」俺はつぶやいた。

「恐らくな。噂の真実はこの家の中にありそうだ。」りんのすけは写真を元に戻す。

 応接間を見終わり、他の部屋の探索に行く。途中、ラップ音が聞こえたりはしたものの、全ての部屋を探索しても、手掛かりになる様なものは見つからなかった。殺人があったであろう現場を見つけられていないのだ。

 俺たちは一度屋敷を出て、近くにある納屋も探索する。しかしここにも何もない。

「一度間取りに違和感がないか考えるから、待て。」

りんのすけは、顎に手を当てて考え始めた。しばらくして、口を開く。

「玄関の壁の位置と応接間の壁の位置が合わない。外観から考えて、応接間にまだ見てない部屋がある。」

「すげえ!頭良いんだなあ!」ひゅうがが感心する。

「じゃあ、そこがアレって事か?」

と言いつつ、何もないでくれと俺は祈った。

「もう一度、屋敷に入るぞ。」

りんのすけは再び歩き出した。

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