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第十九話 背中を押してくれる、友達。

 騒動があった日の学校内は混乱していた。全員倒れていて、記憶も曖昧になっているのだから仕方がない。

 混乱に乗じて、他の生徒に紛れ込めたが、ボロボロの服装やケガをしている三人(俺と、りんのすけ、西条寺さん)は事情を知っているのでは無いかと疑われた。機材室で倒れていたスガッチ先生と知らない先生は、そこまで大怪我ではなかったらしく、疑われていなかった。

 テロにでもあったのかと、禿頭の教頭先生が騒ぐものだから、パニックは大きくなる。

 結局その日は、急遽学校が休みになり、その後も一週間、学校は閉鎖された。警察が来て、学校内を調べるためらしい。

 学校の閉鎖期間は、運良くゴールデンウィークと重なった。授業の遅れが出なかったのは、不幸中の幸いだろう。

 疑われた俺達三人は、ゴールデンウィーク期間中何度か警察の事情聴取を受ける。事前に口裏を合わせて、他の人達と同じ様に記憶が曖昧だという事で誤魔化した。ケガについては、「階段から落ちた。」と言う少し苦しい言い訳だったが、犯人の足取りが何も無いため、受け入れてもらえた。

 ゴールデンウィーク明けの月曜日、学校が始まった。学校中は、先日の事件の噂で持ちきりだが、それ以外は普通の学校生活が送られた。

 俺と西条寺さんを除いては、だが。何故なら、りんのすけが学校に来なかったからである。

 俺はしばらく経てば戻ってくる、と自分に言い聞かせて、気持ちを誤魔化して学校生活を送った。

 西条寺さんは、りんのすけが自分の事を好きでは無い事をこの前の一件で察したらしく、何やら怪しい動きをしばらくしていた。

 学校の噂が落ち着き、中間試験が近くなった五月の中頃。昼休みを川島と過ごす俺の目の前に、西条寺さんが現れた。

「つかさ、川島くんご機嫌麗しゅう。」

「どうしたんだ?俺に話しかけてくるなんて珍しいな。」

俺は胡座をかいたまま話した。

「りんのすけ様の接吻を奪った貴方に、一応ご報告をと思いまして。」

西条寺さんは、凛とした表情のまま堂々と言った。それを聞いて川島は、飲み物に咽せる。

「ゴホゴホ。え?接吻したの?」

「大声で言わないでくれ!あれは事故なんだから。」

俺は焦って弁解する。

「事故だとしてもです。貴方に手を上げなかったりんのすけ様を見て、わたくし自分を見つめ直しましたわ。まだ、諦めていませんから。そこは勘違いすんなですわ!急ぎ、『りんのすけ様ファンクラブ』を立ち上げ、りんのすけ様がいつ戻ってきても良い様に体制を整えましたの。貴方も加入したければ、どうぞお好きになさってくださいませ。では、ご機嫌よう。」

西条寺さんは言いたい事を言い終えると、颯爽と屋上から去って行った。

「なんだよ。ファンクラブって……。」

俺は苦い顔をして言った。

 川島は飲み物を一口飲み、俺に問いかける。

「そいうえばさ。つかさ、最近りんのすけの話しなくなったよな。」

「ん?そうかな。」俺は目を泳がせる。

「あえて名前出さない様にしてるんだなぁ、と思うから、詮索はしないけどさ。つかさが何か我慢をしてるんだとしたら、それは良く無いと思う、かな。」

川島は、空にかかる遠くの飛行機雲を見ながら言った。

 俺はりんのすけに言われた「オカ研を廃部にする。」話を気にしていた。あれから二週間以上経つのに、気にしない日はなかった。

「川島、俺さ……。」俺は意を決して、川島に自分のぐちゃぐちゃになった感情を少しだけ吐露した。

「嫌々入った部活だったけど、なんだかんだ言って楽しかったんだ。それに、りんのすけの奴、全部一人で抱えようとしてる。責任や罪悪感も全部。本当は、俺も一緒に抱えたやりたいのに、出来なかった。その度胸も決断力も俺にはない。」

話し終えた瞬間、屋上の入り口からひゅうがが飛び出してきた。俺と川島は驚いてひゅうがの方を見た。

「何言ってんだよ、つかさ!!!おれは、お前からたくさん力を分けてもらったよ!お前なら、りんのすけを助けられるだろ!!!いつまでウジウジしてんだ!!!」

ひゅうがは、屋上のドアの前に立ったまま、大声で叫んだ。そして、俺の方に近づき胸ぐらを掴む。

「ひゅうが……!」俺は動揺する。

「さっさと迎えに行ってやれよ!!おれにはわかる。りんのすけは、つかさを待ってるんだ!!早く行って、背中を思いっきり叩いてやれ!!!」

胸ぐらを掴んだまま、ひゅうがは屋上の入り口目掛けて、俺を投げ飛ばした。俺は背中で着地する。

「……。ありがとう、ひゅうが。」

俺は立ち上がり、校舎の中へと飛び込んだ。

 俺は走りながら、りんのすけに電話をする。何度かけても出ない。

 そのまま、西条寺さんの元へ向かう。

「はぁ、はぁ。西条寺さん。りんのすけが今どこにいるか、知らないか?」

息切れしながら、教室のドアから話しかける。

「場所を移しましょうか。」女生徒達に囲まれていた西条寺さんは、教室を出て、歩きだす。俺はその後を追う。

 教室のある校舎の隣に、同じ大きさの校舎が並んでいる。別校舎は、部室や授業で使う教室が入っている。本校舎と別校舎は、廊下の中央部分にある渡り廊下から行くことが出来る。

 西条寺さんは、人気のない渡り廊下へ着くと足を止めた。

「今、りんのすけ様はご実家へ帰られてますわ。これが住所です。」

西条寺さんはスマホを取り出し、地図アプリを表示させた。共有機能を使い、俺のスマホに地図を送ってくれる。

「ありがとう。本当に助かる。西条寺さんには、助けてもらってばかりで大変申し訳ない。」

俺は深々と頭を下げた。

「御礼は結構ですわ。りんのすけ様の元気な姿を写真で送ってくだされば、それだけで。」

西条寺さんは、連絡先を俺に送信した。

「わかった。送るよ。すぐに行ってくる。」

 俺は教室へ荷物を取りに行き、クラス委員の川島に『早退します!』とメッセージを送った。

 一度家に戻り、母親に頭を下げてお小遣いを前借りする。

「気をつけて行って来なよー。りんのすけ君によろしくね。」

母親が玄関まで見送る。俺は真剣な表情で、人差し指と中指を立て、頭の横で振る。

「行ってくる。」

「それだけふざけられるなら、ちょっとは元気、取り戻せたんじゃない。」

母親の声を聞きながら、家のドアを閉め、制服のまま駅へ向かう。

 電車から新幹線に乗り換えると、窓側の席に座る。車窓に頭をつけながらプラットホームの景色をボーっと眺める。新幹線が動き出し、振動で頭がバウンドする。鬱陶しくなり、普通に座り直した。

 見慣れた景色から、田舎の景色に変わる。静丘県は横に長すぎる。隣の県に出るまで、かなりの時間がかかるが、早くりんのすけに会いたい俺は、さらに時間が長く感じた。

 新横浜からは、「後少しで着く!」と焦る気持ちがさらに高まる。新幹線の電光掲示板から目が離せなかった。

 東京駅に着く。ここからは電車に乗って移動したいが、人混みの中で、慣れない駅。焦って、何度も道を間違えてしまった。駅員さんに話しかけ、電車の乗り口を聞く。駅員さんにお礼を言うと、駅の床や壁にある黄緑色の目印を辿り、改札を通る。

 電車の中は、平日の昼過ぎだと言うのに、たくさんの人が乗っていた。これが、都会か。

 降りる駅に着くと、乗車していた人が一気に電車を降りる。俺もその流れに従い、電車を降り、駅の外まで出る。

 本当にこんな所に、人が住める建物があるのか。と、疑うほどの人混み、ビルの数。有名なスクランブル交差点が目の前にあった。

 五月初旬の昼過ぎにしては気温が高く、俺はブレザーを脱いで自分の腕にかける。

 スマホを開いて、地図アプリの導くままに歩いた。しばらく進むと、閑静な住宅街にたどり着く。

 さっきまでの雑踏が嘘の様に静かだった。

 しかも、都会とは思えない大きな家がたくさん立ち並んでいる。場違いな所に来てしまった、と一瞬怖気付く。

 しかし、りんのすけに会う事だけを考え、気持ちを立て直した。

 りんのすけの家の前までたどり着く。背の高いコンクリートの塀に囲まれていて、中が全然見えなかった。

 インターホンもない。入り口もどこかわからない。

「やばい、ここに来てゲームオーバー。」

心の声を漏らし、俺は頭を抱えた。

「おーい!何やってんですか?こんな所で会うなんて!」

陽気な声がする。俺は頭を抱えたまま声の主を見る。

 平凡なショートカットを赤茶色に染めた髪、爽やかな顔立ち、派手な柄シャツを着た陽キャ大学生。私服のサソリさんが手を振りながら笑顔で駆け寄って来た。

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