再会
初めましてゲリラ豪雨3号です。
初投稿なものでめちゃくちゃに緊張してます…。
文章が拙かったり読みにくかったりすると思いますが
温かい目で楽しんでいただけるとありがたいです。
「少し、今日出かけない?」
1件の通知は彼女の目を引いて、2秒もかからず離した。
「楽しそうだね、いってらっしゃい」考える素振りもなくそう返事をして布団に飛び込む。
休日に休まずして何をするのだと言わんばかりにため息をついて。
「それに今日の私はそこらを回る太陽ですら動かせない」
「たった…一つの通知ぐらい……わたs………」
満足そうに目を閉じて、ただ静かに寝息をたて始めた。
ーーそんな静寂を、彼女の幸福をわざわざ壊しにくるように部屋中を着信音が愉快そうに跳ね回る。
わざとらしく頭をしつこくこづきながら。
3コールという時を経て、彼女は掛布団を惜しそうに抱きかかえ、床に投げつけた
「あぁ!私の最後の休み!!!!」
部屋を後にした彼女はせわしなく準備を始めたことだろう。
閉じられたカーテンのわずかな隙間から出た光がとっ散らかった部屋とほこりをただ照らしていた。
ほんの少し体が冷えるような気温、日も碌に当たらない日陰の道、セットを台無しにする向かい風。
あのどうしようもない芸術オタク。
駅から見渡せる、小さな時計塔を真ん中にして広がる広場。
誰もが吸い寄せられるように向かい、合流するこの町のいわば心臓部である。
その場所はまさに"高校時代のそれ"で全く変わっていなかった
ー私だけ変わってしまったのだろうか
孤独の恐れかあたりを見回すが、無情にも疎外感の壁はただ積みあがっていく。そんな時だ
「あっ…」
私の視線の先には一人の既視感のある風貌の女性が立ち、
心配そうに電話を掛けていた。
会う事なく家に帰ることもできるが、
足は既にあの子に向かって進んでいた
私は一刻も早くこの場での孤独から逃げたかったのだ
ーあなたも変わっt
「ちょっと!なに通り過ぎちゃってんのさ」
「?!」
あっけにとられ、理解が追い付かない。
軽いチョップを食らった私は声の主が前にいないことに気が付く
ハッとして振り返ると”あの子”は手提げ片手に困り顔で笑っていた。
「今日もまたモグラしてるつもりだったでしょ?」
「モグラじゃないし!休んでるだけだし!!」
ー高校の頃となんら変わらないたわいのない会話を交わす。
中身はなく、あれこれ関係ないただただ無意味な会話
本当にしょうもないだけの楽しい会話。
パズルのようにばらばらで規則性にあふれたそのやり取りはまるで私たちを広場に順応させているようだったが
広場にはほんの少しの空虚さが漂うだけであった。
「ついたよ」
「そう…ここがーー」
今まで見たことも無い街並みを抜けて、
見えた目的地はなんの変哲もないただの建築物
だがなぜか目が冴える。
白、どちらかというとほんの少し青みがかった白を基調に
緑水晶のような緑と薄らと深い黒がかっているガラスを
纏って、そこに聳え立っていた。
わざとらしく作られているであろう建築物の不整合さは
どこか霊妙的な雰囲気を感じさせる
あえて言うならば、私に試練を下す神殿のようだった。
「ーー結構カッコいいでしょ?」
「寒いから早く入ろう」
私はまだ自分が大人になれていないと、改めて実感した。
逃げ道の無い方向へ進んでいくと
そこにはとても無機質な空間をたくさんの絵画が囲んでいた。
「ちょっ…ちょっと!」
その一つ一つをスポットライトは照らしている。
「少し…一人にさせて欲しい」
私はそう吐き捨てて、ただ奥へ歩く
頭上の照明はあの子だけを照らしていた。
私の足音は無機質な空間に溶けて消える。
なんでそう描かれたかもわからない絵を流し見ているが
しかし感想の一つも、感情の変化も起きない。
私の思考はさっきの事ですっかり埋め尽くされてしまったようだ。
「とりあえず絵画を見よう…せっかくきたんだから」
目を覚ますようにかるく頬を叩き、軽く見回すと
妙な立体感と幾何学的な模様と大胆な色使いと個が目立つ。
抽象画群のようなものが私の周りを囲んでいた。
私にとって抽象画は見ててとても楽だ。
この絵画は好みとかなんとなくすごいとかそんな感じでいい
色合いが好きとかなんかすごいとか
幼子みたいな感想を浮かべながら足を進めていた。
「?」
なぜだろうか、微かに水の落ちる音が聞こえるのだ。
慌てて見回してみるも虚しいことに
周りには人も、原因になりそうなものもない。
ー私は今日はじめて、興味が湧いた。
ただ水音に吸い寄せられ、足が進んでいく
遠ざかる抽象画群を背に音のありかへ向かい続ける。
とうとう私を囲む絵画はなくなったようだ
が、そんな私を待ち構えていたように大きな絵画が私を見下ろしていた。
ー水音は生まれたばかりの真鍮色の額縁を這っている。
機械的でどこか不安さを与えるその絵画は私に既視感を与えて
ー自らの色を憎悪の色に塗り換えた。
バケツで投げつけたように広がる深い青の色は
救いようもなく、絵画を埋め尽くす。
私は後退りすることすら出来ずその光景をただ見ていた。
ー私の眼前で一つの絵が死んでゆく。
続くように黒い斜め線が絵画の中心で交差する。
ースポットライトは照らさず、ただその様を見届ける
この明らかな異常事態を前にしても私の足は動こうとしない
とうとう絵画は茶色と黒にくすんで青い炎を上げ始めた
照らすはずだったスポットライトは根元が融けてしまい、 ガコンと鈍い音をたてて落ちてしまう。
しかし、私の足が動くことはなかった。
慌てて周りを見回すといつの間にか絵に囲まれている。
青い炎に融かされるように額縁はゆっくりと融け始め、
次第に床に流れていく
それに続くように色褪せていく紙は青い炎に包まれて
燃えることなく額縁と混ざるように溶ける
私はずっと立ち尽くしていた。
足元には絵の成れの果て、それは床に溶けるように沈み
足場を溶かしていく
私を待ち構えていた絵画の空間は融けて歪み始め
壁は融け落ち、天井はもはや原型を留めていなかった。
視界がぐらりと歪んでいくが、歪んでいるのは
視界か空間か、判断のつけようもない。
視線はゆっくりと下降する。
もがいてももがいても浮き上がることなく
私は"絵画"と共にゆっくり沈んでいく
とうとう水音は聞こえなくなった
ぼやける視界はゆっくりと鮮明になっていく
「目が覚めたの…?」
心配そうな声が、少し冷たいような声が私を引き戻した
「もうしばらく…休んでていいよ」
「絵が…」
私はどうしようもないぐらいに焦っていた
「絵が融けてるの」
いかがだったでしょうか
次回は今月中になんとか二話目を出したいなと
書くスピード頑張って上げます