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第5話 『妹にかっこいいと思われる』ために

「お父さん」


「ん? なんだ?」


「もう一度、やろうよ」


 ルークに半ば無理やりさせられた剣の稽古。

 

 ルークは俺の一振りをかわして、俺の剣を弾き飛ばした。


 もちろん楽しくなんかないし、すぐにやめてしまおうと思った。こんな稽古はすぐに辞めて、また妹と遊ぶつもりだったのだ。


 しかし、事情が大きく変わったのだ。


「お? おお! いいぞいいぞ、もっとこい!」


 ルークからの許可貰うと、俺は払い落とされた木刀を拾い上げた。


 ルークは俺が剣に興味を持ったと思ったのだろう。俺の中の男の子が目覚めたと勘違いをしているのかもしれない。


子供のようにはしゃいで喜びを表現するルークに対し、俺は木刀を握り直した。


「なんか表情硬いな」


「いくよ」


「おう、いつでもーーって、うおっ!」


 ゆるりと構えていたルークの木刀は、俺の一撃によって弾かれた。不意打ちを食らったということもあったかもしれない。


 そのまま一気に畳みかけようとしたが、すぐにルークは体勢を整えた。さすが魔法騎士ということだけはある。剣が弾かれても剣を手放すようなことはなく、追撃に備えて隙のない構えでこちらを見据えていた。


「おいおい、急にどうしたんだ?」


 冗談を言うような口調とは対照的に、真剣に剣を構えるルーク。とても、6歳児に見せるべき顔つきではない。


 それは、俺も同じことかもしれない。


 不思議だ。先程とは比べ物にならないくらいに体が軽い。そして、剣を振るスピードや音が先程とは比較にならないほど良い。


 剣を握って初日の奴ができる動きではないだろう。


 体が、心がルークに一撃を叩きこもうとして動いている。


 なぜ、こんなに体が自在に動くのか。その答えは簡単だ。


 妹にかっこいい所を見せたい。ただそれだけだ!


 妹が俺を見ている。妹が見ているならば、当然『かっこいい』と思われたいのが兄というもの。その想いが俺に力を与えてくれる。そう、妹によって湧き出る力。


 これが妹の力。妹力だ!!!


 俺は内から湧き出てくる妹力に身を任せ、剣を振り抜いた。


「はぁあっつ!!」


「くっ!」

 

 木刀が激しくぶつかり合い、鈍い音が響く。鍔迫り合いをして、弾いたはずの剣で弾かれて、しばらく防戦が続いた。そして、二戦目もすぐに打ち合いは終わることになる。


「いっつ!」


「ふうっ。これまでだ」


ルークは俺の剣をはじくと、俺の顔の前に木刀を突き立てた。ルークの寸止めによって、俺の初稽古は終わりを迎えることになった。


「キョーマ、凄いぞ! 初めて剣を持ってする動きじゃない! これは才能だな!! きっと、キョーマは将来有望な剣士にーー」


「もう一回」


「ん?」


 俺は寸止めで止められていた剣を右手でゆっくり払うと、ルークを下から強い視線で睨んだ。


 今のは完全に俺の負けだ。それでも、妹にかっこ悪い所を見せたまま終わることなんてできない。


「いや、今日はもう十分だろ? 初めて剣を握ったんだし、疲れてるかもーー」


「もう一回」


「そんなに無理をする必要はない。それに、アリスと遊ぶんだろ?」


 俺の剣幕に押されてか、なぜか稽古に後ろ向きな態度を見せるルーク。おそらく、今の俺の実力ではルークには勝てない。


 そうだとしても、そうだからこそ、稽古を付けてもらいたい。


「アリス。あと一時間だけ待ってくれないか?」


「え、……うん、分かった。家の中で待ってるね」


 俺達の空気を察したのか、アリスは気まずそうに屋敷の中へと入っていた。一瞬見えた悲しそうな顔が気掛かりだが、俺は歯を食いしばってアリスが屋敷に入っていくのを耐えた。


 妹と遊ぶという誘惑を……少しだけ断ち切らなければならない。


 アリスが屋敷の中に入ったのを確認して、ルークは再び俺に向き合った。しかし、その顔は稽古に前向きというよりは、何か訝しげな表情をしていた。


「それで、なんで急にやる気になったんだ?」


「言わなくちゃだめ?」


「急にそんな剣幕で剣を向けられる身にもなってみろ」


 純粋な疑問というよりは、少しだけ詰めるような口調。楽しく息子と剣の稽古をしようとしたのに、急に牙を向けられてやるせない気持ちになったのかもしれない。


 さすがに申し訳なくも思い、少しだけ口が軽くなってしまう。


「……妹に、かっこいいって思われたいから」


「……は?」


「だから、アリスはお父さんの剣の腕を見てかっこいいって言ってたじゃん! それなら、俺も剣の腕を身に着ければアリスにかっこいいって言ってもらえるんでしょ?」


「……ぷっ! くくくっ! な、なんだその理由」


「わ、笑うことじゃないだろ!」


「悪い、悪い! 怒るなって。そうだな、男が剣の腕を身に着ける理由なんて、そんなもんだよな」


 ルークは肩透かし感を覚えたように気を緩めると、噴き出すように笑いだした。親子だというのに、あまり抱かなかった親近感。それを今感じたように思えた。


「よっし。お父さんに任せろ! すぐにアリスにかっこいいって言わせてやるよ!」


「うん! ありがとう、お父さん!」


 こうして俺は、しばらくの間剣の稽古をすることになった。


 アリスよ、少しの間待っていてくれ! 俺はすぐに、アリスにかっこいいと言ってもらえるようなお兄ちゃんになってみせるからな!

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