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カエルには、吸盤があるのだ。  作者: 半崎いお
飛び出た場合の
9/31

真っ白。

ここで生きている人間である限りだれにでも得る可能性がある、

そんなあたりまえであり、かつ特別な力である「能力」

最低でも一つ以上は持つことが当たり前である個人の性質のようなもの

その能力によって人は魔法を使えたり、人並み以上のことができたりするわけだけれど

わたしも早ければ7歳の誕生日から使えるようになる、はずだった、ん、だけど

「魔力がとても高いですね!」なんて言われて舞い上がってたんだけど



結果はこれ。


Blank




空白




なにもない。





まっしろ、だ。





皮肉なのかなんなのか、私の頭の中も、真っ白になった。

神官様達の表情も、蒼白。

真っ白な神殿の中で、みんなで真っ白だ。



なんなんだろう

っていうか、なにをいわれたんだろう。

わかっているけど、わかりたくない。

いっそのこと、記憶も記録も、結果も全部真っ白になればいいのに

やり直したりはしてくれないんだろうか、あの魔力鑑定の時みたいに。



そう、思ったけれども、結果は無惨なものだった。

再鑑定はしてもらったけれども、

単純にもう一層深くまで見ても真っ白だということが分かっただけだったのだ、

「芽生えそうな能力の萌芽すらみあたりません」だってさ。

「そんなばかな!」ってなんか偉い人が怒鳴ってたけど、そんなの私が知りたいよ。





+++++++++++++++++++++++++++++





神殿から出てきた私を、マザーがいつも通りの静けさで迎えてくれた。

なのにマザーの顔を見たら、ちょっとびっくりしてしまった

自分がここまで戻ってきたことに全く気付いていなかったのだ

歩いてたんだってことすら、なんだかおぼろげで

体全体をふわふわとした空気に覆われているようで



どんなところを、どう通って何をしてきたのか、全く覚えていない。

言われるままに何かを書いて、市民登録は終了ですといわれたおぼえはある。

……残念ながら、さっきの鑑定も覚えているし、結果も、覚えて、る。

忘れたかったけど。



もらったばかりの登録証のチェーンが手のひらの中でちゃりちゃりなっている。

これを、マザーに見せなくてないけないのか。

何をどう伝えたらいいかわからずにいる間も、マザーは静かに微笑んで私を見ていた

これをつくったり登録を済ませている間に、マザーにも結果連絡は入ったはずなのに。




「何か特にお伝えしなければならないような事態が生じた場合は保護者に先にお伝えする」

そう、しつこいくらいに言われたから知っているよ。

何か変なことがあったら、先に伝えられるんだ、ってことは。

全く前例のないものや、凄すぎるもの、予測や親の素性と全く関係のないものが出た時なんかにね

事前に待っているときは、全く別の方向で、事前通達が行くんだろうなと思ってたのにな


こんなこともいっていた。

「まかり間違って、まあ、あまりないことなのですが、能力が全くの空白だった場合は

 登録証が真っ白になるのですぐにわかるんですよね」って、さっき説明されたばかりだ

私が持っているのは、その真っ白な登録証な訳ですけどね、



そんなものを、保護者に確認してもらわなければならない。

渋っていてもなにも変わらないし、やらなくてはならないこと、なのだからと、覚悟を決めた。

でも、堂々と笑顔で渡すなんてことはできなくて、

顔を背けたまま、震える手でおずおずと、にはなってしまったけれど

どうにか、登録証を、鑑定が記録されたその登録証をマザーに渡した


白いコレを、マザーがちゃんとうけとってくれるのか、とても不安になってしまったのだ

役立たずはいらないと罵られたり、嘲笑されたりするって話を、聞いたこともある。

手が震えるのを抑えることも、マザーの顔も見ることも、できなかった



一瞬のためらいののち、マザーは何も言わずに静かにそれを受け取った。

何も言わず、静かでゆっくりないつものマザーのままで登録証を掲げて内容を読み取り、

いつものママの微笑みのマザーはそっと、私の肩に手を置いて私の目をみた

「帰りましょう、皆が待っていますよ」と。



そっけないくらいの、対応。

でも、これがマザーの、いつも、だ。

でも、肩に手を置くのと同時に目を見ているところなんてみたことがなかった。

せいいっぱいのなぐさめ、なのかもしれない、けれど。



その手が、ひたすらに怖くて、嬉しくて、こわくて、あたたかかった。

いつの間にか冷えていた体にしみこむような、その熱に

たくさん、涙が出てしまった。

いつも、マザーの手は冷たいな、って思って、いたのに。





+++++++





その日は何もせずにすぐに自室に上がっても流石に誰も文句を言って来なかった、



だって、これで私の一生はほぼほぼ決まった、ってことなんだから。





この先、他の子と同じように10歳と15歳でも確認の鑑定をうけることになっているし

そのとき敗者復活戦のように良いものが見つかる人も少なくない

けどそれは、努力によって伸びた結果のものであるとも言われれており、

大抵は最初の段階で何かが見つかるのが普通なのだ。



「大した能力がなかった」とか「求めていたものと違った」「あたりが外れた」話はよくあるが、

能力が全くないというのは、かなり珍しいはずだ。



ごく少数に役に立つ能力が見つからないようなこともあるが、彼らの暮らしは、よいものでは、ない。

なにもないままできる仕事って言ったら、豆のさやむきとか……最悪魔力補充員くらいなのではないだろうか

そもそも能力がないということは想定されていないこの世の中では大した仕事は、受けることができないのだ

そんな状況ではこの街からも出られない


つまり、この街で最底辺の生活を過ごしていくしか可能性がないってこと、だ。

生かしてもらっているだけでありがたいだろうとか、役立たずとか罵られて、街の片隅で暮らしている人たち

それが嫌なら娼館や踊り子って手もあるけど、それでもそれに関わる能力を持っている子の方がはるかに上。

努力したって、決して叶うことはないのだ、って御伽噺でだって、学校でだって散々聞かされたよ

それに、私のどこをひっくり返したって、娼館に入るような、そんな度胸はありはしないのだ。






閉ざされた未来、なんてことをリアルに考えるのは難しいけれど

でも、どう考えたってこの先が明るいようには思えなかった。

そもそも、おんなひとりで、能力なしで生きていけるのかどうかすら、わからない

魔力補充員のしごとは、命を縮めるとは、よく言われている話だ

三日に一度、魔力補給所で、街の動力源である礎の魔石に魔力を注ぐ仕事だが

補給翌日は疲れ果ててしまって、休養が必要になる、過酷な仕事

確かに私は魔力が多いから、少しは楽なのかもしれないけれど、

それでも、まあ、長く生きることは、諦めるしかなくなるだろう。

何もできずに、枯れていくことに、なるのだ




このまま何も芽生えなければこの先の学校に行くことすらままならないかもしれない。

私はまだ初期初等部を終えただけなのに、能力がなければ、それ以上教育を受ける意味はない

鑑定の結果によっては飛び級で良い学校へ行ける、はずだったのにな





ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙が落ちる。




私のこれからは、

恐ろしいくらいに



真っ白だった。





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