金色の、鳥籠に
ある程度、諦めてた。
みんなが「たぶんこれだ」っていうものを見つけている中、わたしだけ、なにもなかったから
ずっと、ずっと、なにもなかったから
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私が育った国では、全ての子供が5歳の時に魔力量を測定し、
その後、7歳、12歳、15歳で神殿で能力を鑑定してもらうことになっている。
魔力測定は夏のお祭りの時に行われるのが恒例だ。
お祭りの日のメインステージで、その行事は行われる。
神殿から偉い人たちが来て測定器を設置し、人々の目の前で計ることになっているのだ
魔力の量は正確な数字でわかることになっていて、その数字もその場で公表される。
まあ、もちろん5歳の時のものだから、それから先の成長によりもっともっと増えるのだが
この時点で測っておくことが恒例とされている。
多ければ大喜びするし、少なくてもこれから増えるよ、練習しようね、って言える
そして、神殿への信徒登録も一緒に済ます
そんな、通過儀礼の1日なのだ。
子供達の中にも、よくわかっていない子も多いのだが
魔力の測定器の美しさに憧れを抱く子も多く、
さらには神殿から特別なお菓子がもらえるから、みんなすごく楽しみにしていた。
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測定が始まると、その年に5歳になった子達がみんな呼ばれて壇上に上がる。
そして、行列になって、一人ずつ、金色の大きな鳥籠みたいなのに入るんだ
貴族様の乗る馬車みたいな金色の鳥籠は、果物や葉っぱの形の飾りまでついていて
きらきらして、とても綺麗だ。
触ったら壊れちゃうかな?と思えるような繊細な飾りに、しっかりした格子
そして、五歳児にももてるような取っ手がちゃんとついていて、
開け閉めをすると小さく、キィという音がする。
鳥籠に入って真ん中に立って、観客側を向いて扉を閉めたら、測定がすぐ始まる。
そうしたら数秒後にはチリンチリン、って鈴の音がして、数字が表示される、らしい。
その数字を舞台上に控えている綺麗な真っ白な長い服を着たお姉さん達がボードに書いて掲げるのだ
観客や、子供の関係者達はそれを見て一喜一憂、大騒ぎだ。
不安で泣き出しそうになる子、怖がって鳥籠に入れない子、いろいろな子はいるけれど
最終的には絶対、全員が計測されることになる。
そうしたら、おねえさんに自分と親の名前と、住んでいるところを書くかいうかして
紙に書いてもらって、受け取ったら、お菓子がもらえるのだ。
その時は、ママと一緒に行けたんだよね。
もちろん段の上にまでママは来れなかったけど
段の下でみてくれている視線は感じていたのだ。
心配そうに、伺うその、気配を。
カゴに入ってドアを閉じるだけだから頑張るようなことでもないのかもしれないけど、
ママがみていてくれるなら頑張らなきゃ、と、おもっていたのだ。
ドキドキしながら、繊細な模様の刻まれている鳥籠の中に入り、その時を待った。
チリンチリンチリンチリンチリンチリン
やたらと鳴り響く、鈴の音
そして、ざわめいた様子のお姉さん達が慌てたようにボードに数値を記入している
その数字は、とんでもないものだったらしい。
舞台の上も、観客席にもどよめきがさざなみのように広がっていっている。
偉そうなおじさんが計り直せ、と叫んでもう一度入っても、結果は同じ。
その場はとたんに大盛り上がりになり、ステージ下からは称賛の叫び声があがりはじめた
「大魔術師様がこの街にうまれるのかもしれないね」「この街をもりあげてくれ!」
「結婚して!」なんて叫ぶ人を隣の人が嗜めていたりして
ああ、この街には、わたしには明るい未来が待っているんだ、って
みんながキッラッキラの顔をして喜んでいてくれたのだ。
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わたしのそんな、エリート扱いは7歳の鑑定の日に、終わってしまった。
まわりのみんなは、
たとえば、泳ぐのがすごい得意!とか、火を触ってもあつくない、とか
やたらと動物に好かれる、とか、やたらと得意で好きなことがだいたいわかってきていた
たいてい、そういう好きなことに関連した能力が鑑定により見出されることが多いので
「なんとなくこんな能力があるんだろうな」と当たりがついているのが普通だ。
でも、私にはそんな目立つ「好き」なんてどこにもなかった。
まいにち、年下達の世話をして、学校で勉強して、ときどき市で働いて
そんな暮らしの中は、大変でも楽しかったけど、これだ!というものはピンときていなくて
どうしてなんだろうと、なぜ、何も思い当たらないんだろう、と疑問には思っていた。
けれど、それは不安ではなく、ワクワクに近い気持ちだったのだ。
じぶんでも気づいていないような素晴らしい能力を神官様が見つけてくれるんだろう、って。
あの日は、すごい晴れた綺麗な日で
孤児院育ちのわたしなんかでも真っ白な晴れ着を着せてもらうことができた。
もちろん、誰かのお下がりだか寄付なのだけだけれど
それでも、ヒラヒラした真っ白な服なんてはじめてだったし
ものすごくウキウキして神殿の門をくぐったのを、ほんのりとした寒気とともに覚えている。
私の生まれたのは、冬の寒い日。
季節外れの薄い衣装は微風にすらひらひらと、ひらめいていた。
びっくりするほど高い魔力を持った子供として、ある程度以上有名だったわたしのことだ
神官様達の見下ろす目も、暖かかったようにおもえたし、
祭壇も喜んで迎えてくれているようにすら、思えていた
誰もに期待されている私に降り注ぐのは当然、光なのだと
明るい未来が開かれるのだと、一つの疑いもなく、思っていたのだ
でも、そのとき私に言い渡されたのは
「Blank」
だった。
Blank、つまり、空白。
私の能力は、すっかすかの、からっぽ。
なにもない、と、告げられたのだ
私の生まれたのは、冬の寒い日。
いくら興奮していたとはいえ貰い物の衣装では、
やっぱり、
とても、
寒かった