迫られる決断と、蛍のような
こんな時、こんな状況。
周りは荒野、孤立無援、情報なし。
いやこれどうやってなにをすれば良いか全くわからなくない?
ほんとに何から考え始めていいのやら。
何をしても裏目に出そうだし、
裏目に出た結果起こるのは私の死だ、
しかもここで迎えるかもしれないリアルな死って、獣に食われるとかでしょ?
確実にすっこい苦しいだろうし、痛いだろうし、最悪な死に方よね。
いや、ただ単に死ぬくらいだったら何かの栄養になりたいとかは思うけど!
でも痛いのも苦しいのも、怖いのも、嫌だ。
貴族のお嬢さん達と違って即死毒みたいなものを携帯しているわけでもないし
もう怖くて無理だから自死を選ぶ、なんてことすら今の私には不可能だ
あ、ナイフはあるからがんばればなんとかなるかもしれないけど。
そこに頑張るのはまだ、最後の手段にとっておかなきゃらなない。
さあ、どうすれば良いのやら。
ての中に包んだお茶のカップが暖かい。
こういう時、伝説にあるようなでっかい使い魔ちゃんたちとかがいたらいいのに
つぶやいても、どこからも動物の気配すらしていないのだ。
はいはい、大草原ひとりぼっちですよーだ。
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とりあえずは、明るくなってみないと探索もできない。
あたりを見たって、何も見えない。
それにこの結界から出たらお陀仏だしっていうのがもう、肌でわかる。流石に。
真面目に怖い。
尾骶骨から、闇と共に音もなく恐怖が染み込んできている
頭まで届いてこないように必死になんとか押しとどめているだけなのだ
考えないと。
痛い目に遭わないようにするためには、考えないといけない
まずは知っていることをまとめよう。
ずっとあの大森林を左に走っていたのは覚えているから、多分行く方向はわかる
このみちを、ずっと、馬車で三日行けばいけるはず。
馬車がちゃんと私を送り届けようとしていたの、なら。
今となってはそれすらも信じられない
ああ、ってことは馬車で三日で着くとも限らないのか。
これは、結界石を節約しながら移動する以外に策はないのかもしれない。
結界石は、ちゃんと袋付きだったし、通常の使い方でいける、のだと思う。
通常の使い方でいけるのであれば、一旦解除して、また残り時間分は設置し直すこともできる。
その結界石の性能にもよるけれど、起動にはやっすいやつだと半時間。良いやつだと、瞬間。
これは、どうなんだろうなぁ……一度やってみないとわからないなぁ
不確定なことが多すぎる。
私にいろいろくれた人は、ほんとになんで無言なんだろう。
っていうか、字が書けないんだろうか
手紙くらい残してくれたら良いのにさぁ
はい、現状。
あんな、見えるような距離に魔獣がたくさんいる森がある。
そしてわたしは徒歩で女ひとりかつ、荷物を抱えている。
そんなん、遭難中か訳ありにしかみえない。
と、なれば魔獣やら野獣やらじゃなくても、人間だって “いい獲物!” いただきまーすって思うわ。
やっぱりここからぎりぎりまでは移動しないのが得策、なんだろうか。
誰かが先回りして気を利かせてくれているなら、その方が安全なんじゃないだろうか。
でも、移動をせずにここで待っていたら、70時間経ってしまった時点で終わりだ。
夜を超えられる可能性がほぼなくなってしまう。
70時間のうちには馬車が来るという可能性がどれだけのものかわからないし
季節外れの雪が降ってきたりしてしまったら完全に終わりなのだ。
たしか一番安い結界石だと、雨もよけられないはず (なのに毒霧とかは防いでくれる。謎。)だけど
この結界がどれくらいのものなのかはやはりわからないのだ。
やっぱり移動するしかないんだろうなぁ。
もうちょっとしっかり、護身術とか覚えておけばよかった。
殴るのも蹴るのも痛いから嫌だったんだよ。
5歳の時に言われた「魔力量がすごく高いです!」を信じて魔法が使えれば良いやって思っちゃってた
とても、とてもうれしかったとはいえ、そんな誤診断を、信じてしまっていたんだよ。
戦いの仕方なんてなんもわからないし何もしたことないけど、
結界がなくなったら敵と命のやり取りをしなくちゃいけなくなる
15歳の時の検査でも魔法が使える可能性はないって、と断言されちゃったからなぁ。
魔法、使ってみたかったなぁ。
学校では、魔力操作の基礎までは教わった。
あらかじめ誰かがお膳立てしてくれた状態の魔力灯になら、光を灯せる
その程度の魔法だけなら、私にも使うことができる。
スイッチを入れる程度はできるし、魔力を何かに込めることもできる。
のそ「魔力」を効率よく有効な形に変換するための「適性」が、私にはないんだって。
大工なら木材加工の適性が、魔術師なら魔術、剣士なら剣の適性が魂に刻まれてるらしいんだけど
私のそこは、完全に空欄なんだってさ。
だから、その膨大と表された魔力も
町の魔力源としての供給係としてしか使い道のないものでしかないんだって。
しかも、魔道具への魔力供給すらも私にはできない。
完全に変換機能が使えないのかなんなのか、流出量を調節したり変換したりすることが全くできない
なーんもできない、無能者、ってことだ。
それがバレてからは実際、石とか投げられてたしね。
「社会のゴミ!」とか言ってくれやがったあいつの顔は忘れられない。
それでも、魔力なしではない。
だから、スイッチをつけるくらいのことはできるのだ。
そのことの証明にもなる大切な読書灯も荷物の中には残されていた。
一生懸命選んで、お金を貯めて、なんとか手に入れた私の宝物だ。
クソガキどもの多いうちの孤児院、ホームでは取り出すことすら難しく
丁重に丁重に仕舞い込んでおくことしかできなかったけど。
そうか、どうせ、朝になるまで動けないのなら、あの読書灯を灯してみよう。
私にも、魔力はあるのだということを思うことは、
いつも小さな炎のように、心を温めてくれるから
きっと今も。
鞄の中から丁寧に取り出した読書灯の箱を開ける。
ほぼ、買った時のままにしてある、その梱包をゆっくり剥がしていく。
無骨な箱、夢みたいに薄い紙、そこから透ける美しい緑色。
そんなに高級なものでも、大きなものでもないけれど、夜に手元を照らす灯りとしては十分なものだ
そして、魔力で光る。
だからこれはれっきとした魔道具、なのだ。
魔力で光る道具。そして
いまは中に込められていた魔力は使い果たしてしまってある。
移動中の万が一を考えて、安全策として中の魔力は抜いておいたのだ。
うん、えらい。偉いよ私。
でも、こんかいについては残念すぎる。
しかもこの読書灯は魔石が取り出せるタイプではないので、取り替えもお店じゃないとできない
葛馬席はいくつか持ってるんだけど、それじゃあダメ、ってこと
やるなら自分で貯めるしかないのだ。
…普段だったら誰かにお願いするんだけど、今日は誰もいないし、
結界の中だから……大丈夫だよね
オプションで過充填予防の装置もつけてもらってるから、多分、大丈夫、だとは思う。
私は、魔力の流量の微調節が全くできないのだ。
壊れたら嫌だけど、嫌なんだけど、でも
覚悟を決め、ほんのちょっと、ほんのすこし、を意識して……指先に魔力を集め、たら。
えっ? 指先が、光って、る?
こんなことははじめて、だった。
私の指先が、薄い緑色にぼうっと光っている、のだ
なにこれ。