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カエルには、吸盤があるのだ。  作者: 半崎いお
飛び出た場合の
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ブランケットと、諦めと

 私の目的地は、トリパニア。

 トリパニアに移り住んで、新たなる仕事を始める予定、だった。

 だったのだけど。

 実は、私は今、そこまでしか知らないのだ。

 この状況が全く理解できない理由の一つにそれがある。

 こんな大掛かりな、国を跨ぐような引っ越しをしているのに

 その決断をして、生まれ育った国を捨ててここにいるのに

 なのに、この先の具体的なことは何一つ知らされてはいないのだった

 まあ、それも承知の上で、今私はここにいるんだけどね。



 数日前まで私の国であったのはフェーディス王国。

 ”美しい王の治める美しい花の国” なんていう人もいるけどね

 まあ、王様は確かに美しいように見えた。みたことあるのは絵だけだけどさ。

 まあ、そういう国ってこと。



 その、フェーディス王国の小さな街で生きてきた私に得られる情報は限られているとはいえ

 トリパニアについての情報はあんまりにもきこえてこなかった

「二番目に近いのに、一番遠い国」と言われていた国、トリパニア。

 その実態はまるで伝わってきていなかった。

 おそらくトリパニアについて詳しく知るものはフェーディスでは王都中心部にすら少ないだろう

 私の暮らしていた国境近くの田舎町ぺリスではさらに、知られていないはずな訳で……

 わたしも学校では習ったので名前は知っている。

 それと、不思議な道具を使う、異形の者の多い土地だということは伝え聞いていた。

 おかげさまで悪魔の住まう土地だと忌み嫌う人も、少なくないというのも




 なのに、あの日、ハウスマザーは私にトリパニアでの就職を勧めてくれたのだ。



 確実なツテはあるから、って。

 安全に生きていける道があるのは確かだし、そこまで導くこともできる、と

 でもフェーディスの中ではその詳細は伝えることができないのだ、と

 普段はお仕置きの時にしか使われない一番奥の地下倉庫のさらに奥で

 小さな、小さな声でそれだけ、伝えてくれたのだ。

 マザーのその、真剣な願うような姿に、考えるより先にうなづいてしまったら

 小さな石を、手渡してくれた。

「これがあなたの通行証。その時までしっかりとっておくんだよ」と。


 きいたことは、それだけ。

 そして、数日後に「ひいおばあさんのお兄さんの孫がみつかったんだってねえ」と言われ

 孤児院にはもういられないね、とも言われてしまい

 支度金とトリパニアへの引っ越しに必要な手続き一覧をもらったのだった。

 誰よ、ひいおばあさんのお兄さんの孫って。

 見事なまでの遠縁じゃないか。

 名前も、一部しか知らされていない。

 ジョン、って、下手すると女性かもしれない名前。

 ほんと、なにひとつ、わかっていないのだ。



 なので私は、「遠縁のお婆さんのお世話をするために」と言う名目で、あの馬車に乗りこんだのだ。

 御者さんはかなり本気で「大丈夫かい?売られたとかじゃないのかい?」と心配してくれたっけ。

 自信が持てなかったので多分大丈夫です、とこたえてしまったのだけれど、

 御者さんはかなり狼狽えてしまって、本気で心配してくれた。

 訂正するのに苦労したし、その後も色々気を配ってくれていたので、申し訳なく思っていた

 まあ、実際、人買いが待っていてもいいかなとは、思ってしまっていた。

 このままぺリスでずっと暮らすよりはきっと、と、思ったのだ



 だから、引っ越しはしているけれども、その先のことは、何一つ、知らない。

「行けばわかるようにしておくから」とだけ伝えてもらっていた、それだけ。

 いくら、育ての親の勧めとはいえ、そんな怪しい勧誘、さすがにひどいことはわかってる。

 いく先のこともわからない、誰に頼めばいいのかもわからない、自分の知っていることはない

 そんな状態で、身一つで飛び込んでいくなんて普通なら狂気の沙汰だろう。

 不安で不安でたまらないと言うのも確かにある。

 でも、わたしには、もう、それにかける道しか残されていなかった。

 私は、未来が、どうしてもほしかったんだ。



 不安と未知への好奇心とではち切れそうになりながら、わたしはこの鞄に荷物を詰めたのだ。

 今はもう空っぽのあの街の自室で、

 母の形見の、旅行鞄に。

 形見っていうか、置いていっちゃっただけ、とも言えるやつだけど。



 そっと、鞄に手をかけたら、その下から出てきたものがあった。

 「ランタン……しかも畳めるやつだ」

 小さく畳まれて、鞄の下に隠すように置かれていたので今まで気づかなかったが、

 これは携帯用のランタンだ。

 よく、旅人が腰から提げてる、ハガキくらいのサイズになるやつ。

 魔石さえセットしてあれば、半永久的に使えるやつ。

 透かして、みてみる。

 魔石あり。

 


 私が自前で持ってる畳めるランタンよりもずっと小さくなるやつ。

 うん、わたしも腰につけてるけど、ちょっと大きめのメロンサイズだしね。

 提げて使う機能しかない、やつだからこの環境だと難しいもんね、

 ……至れり尽くせりかよ。


 ありがたさよりも気持ち悪さがちょっと勝ってきたけど、背に腹はかえられない

 ありがたく、点灯させてもらう。

 大抵こういうものには鍵になる言葉、スイッチスペルが書き添えてあるものだ。

 あ、あった

 光量調節と色調節もできる、と。

 うん、すげーな。 


 

 土を掘ったり石を使ったりして苦心して自立させた自分のランタンと、このランタンで

 この結界の中もだいぶ明るくなった

 ほんとに外からわからないものなの? と不安にもなるけれど

 そこは、信じるしか、ない、とおもいながら、頑丈な旅行鞄の上に腰を下ろした

 なんだか座り心地が、違う。

 さきほどみた手荷物鞄に混入していた見覚えのないものたちを思い出す。

 また、こっちにもなんかはいってる…の?

 

 ちょっとびくびくしながら慣れているはずの鍵をその小さな鍵穴に差し込む。

 鍵は、閉まってる。

 私の腰につけている貴重品入れに入っていたこの鍵じゃないとこのカバンは開かないはずなのに。

 それに、こんなに詰め込んでたっけ??

 こころなしか、かばんがふくらんでいる気がする。

 


 おそるおそる鍵をまわして掛け金を外したら、勢いよく、鞄が開いた。

 やっぱり。

 なんか妙にパンパンになってたような気がしたもん。



 この旅行鞄に詰めてきたのはこれだけは絶対になくしたくないというものばかり

 他人に委ねず、自分で運びたいものをできるだけここに入れて持ってきたのだ。

 寝ている私から鍵を取って、何かするのは確かに可能、なのだろう。

 ここをいじられるのは正直あんまり気持ちの良いものではないのだけれど。


 



 

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