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カエルには、吸盤があるのだ。  作者: 半崎いお
飛び出た場合の
3/31

なんか言ってくれないと何にもわからない

 あと73時間。

 私がどれだけ寝てしまっていたのかわからないから全部でどれだけ使える結界石なのかはわからない

 けれど、3日以上の容量があるのは確かだ。

 3日以上ももつような立派な結界石なんて、わたしの見込み月収の何ヶ月分かわからないような代物のはずだ。

 なのに、どうして、そんなものが何も告げられずにこんなところにあるんだろう。


 旅人の安全な旅のために開発された「結界石」は、とても優秀な旅の安全策だ。

 作動させて作り出された結界の中に入れば外部からの侵入は完全に阻めるのはもちろんだが

 その結界の中にあるものがなんなのかと言う認識が外部からは一切できなくなるのだ。

 高級なものであれば結界の存在自体すら外側からは感知できない様になっている。

 バカ高いけど。

 信じらんないくらいの値段がついてたけど。


 それに、大抵の物理的な力は通さないので安全なシェルターのようなものなのだ。

 匂いも、音も外部からは遮断されるし、中からは外が見える。

 よっぽど大きな魔物に襲われたりしない限り、結界内部の安全は保たれることになる。

 持続可能時間内であれば、だけれども。

 持続時間を超えてしまうと、エネルギー切れになり、動力を補充しない限りはただの石同然だ。

 補充ができるまでは、使えない。

 自分で補充できない場合は補充費もかかるし、補充者がいなければもちろん、見つけるまでは使えない。


 ほんとうは旅に出るなら自分のものを持っていたほうがいいのはわかっていた。

 けれど、短時間しか使えない一番下のランクものですら安くはない

 あんな値段のものを自分で買うなんてとうてい無理、なのだ。

 いいおうちのお嬢様たちはみんな持っている、と言われても私はその辺の貧民の孤児あがりなわけで

 もっていても魔力を補充できるわけでもないし、維持費も払えない。

 まず無理、なわけだ。世知辛い。

 レンタルも、値段を見てぶっ飛んだ。

 保証料とか言って、帰ってくるお金だと言われてもさ

 ほとんど一個買えるくらいのお金預けないといけないとか、ほんと無理。

 年収超えちゃう。

 はーーー、世知辛い。


 全く戦闘ができない、能力もない私が安全に他の街に行くためにはきちんと守ってもらう必要がある。

 結界石も買えない私は、護衛を雇うなんてもちろんできない。

 なので街を出るための馬車を選ぶときには紹介を駆使して、ちゃんと調べて、選んだ。

 キャンプ全体に及ぶ結界石が装備されてるか確かめたし、現物の確認までさせてもらった

 そして、護衛も同乗しているかどうか

 さらには結界石をちゃんと旅客に使ってくれる保証があるのかどうか

 もうそれはそれは本当に真剣に見定めてから選んだんだ。


 その分旅費は割高になるけれど、ちゃんと頑張って払った。

 だから、昨日の野営では近くを通る野獣を観光気分でキャーキャー言いながら眺めていられたんだ。



 でも、あの時見せてもらえた馬車の結界石とここにあるこの石は、明らかに違うものだ。


 なにせ、こんなに豪華な袋はほんとうに見たことがない。

 美しい刺繍は、きらきらひかる糸で作り出されているし、布の手触りもなめらかだ。

 みるからに、高級品といったたたずまい。

 これはいったいどこの誰のものなんだろうか。

 って言うかこれ、こんな貧民女子が持ってるのが人目についたらやばいやつじゃない?

 怖い人に即時に殺されて奪われるようなもんでしょ

 どう考えても、私を殺した罪よりも、これの値段の方が高そうだもん。

 ……うまく、人里に生還できたら売ってもいいのかな。持ってるのも怖いわ。



 生き延びてちょっとしたお金を手に入れられそうな予測がついたら

 なんだかちょっと、余裕が出てきたような気がする。

 生命の危機に瀕していることにはあまり変わりはないのだけれど。



 とりあえず、と、手荷物を入れてあるいつもの鞄から、水筒を取り出した。

 あ、なにこれ。

 満杯になってるじゃない。

 朝にもらったミルクティーがとても美味しかったために、飲みすぎたなと思った記憶がある

 そして、昼食後には水筒の中身がそれほど減っていなかったから足さなかったのを覚えている。

 とはいえ、半日分で、2割くらいは減っていた、はずだ。



 そのほかの持ち物も確認してみる。


 なんと、見覚えのないものがやたらと入っていた。

 クッキーに、携帯食、チョコレートにキャンディ、そして、追加の水筒、マッチにナイフまで

 どういうこと?

 これ、私のカバンだよね? ついつい匂いも嗅いでみる。

 うん、確かに私のカバンだ、傷も、シミも、先週こぼしたジャムの匂いもかわっていない。

 だれかが、私のカバンの中にこんなものを詰め込んだんだ。

 間違えてしまってしまったにしては都合があんまりに良すぎる。

 でも、ここまで入れといてなんか書き付けとか伝言とかはないわけ?

 わけがわからない。


 ここで耐えて待て、と言うこと?

 だとしても、何を待てばいいかなんてわからない。

 まあ、朝になるまでは一切ここから動けないけど。




 ひとつも状況がわからない。

 けれど、すくなくとも、あと2日ほどはここにいても、死にはしないことも確かだろう。


 寝るしかないか。




 時期は春。

 少し肌寒いような気はする。

 旅行鞄の中に詰め込んだものを思い出して、少しだけ、ほっとした。


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