表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カエルには、吸盤があるのだ。  作者: 半崎いお
飛び出た場合の
11/31

予測ができないことってほんとうにできない。

次の日は、とても、とても寝坊した。

起きた瞬間、息を呑んだ。

息って本当に飲めるんだねなんてアホな感想も抱いたけれど

時間を確認した次の瞬間もう、心臓が止まるくらい驚いた、



けど、その後に、訪れたのは、虚無感、だった。




いつもだったら、私が誰よりも早く起きて朝の水汲みや火起こしをしているのだけれど

どうしても、起きれなかったのだ。

いつもかけている目覚しの魔道具がならなかったのは確かではあるが、

部屋も周囲も、やたらと静かで、朝が来たのに、気づかなかったのだ。

よっぽど、疲れていたのかもしれない。

いや、疲れていて当たり前なんだろうけど、ね。




でも、誰も慌てて起こしにきたりしなかった、んだ

困り果てて呼びに来るでも、おおさわぎになる、でもなしに

私がいなくても、朝は進んでいった、と言うことだ。




ふっ、とためいきをついて、しまう。

そうだよね、どう考えても、今日出て行くだろう私がいなくなって困るようじゃ困るよね。



ああ、もう、マザーも出かけてしまっている時間なんじゃないだろうか。

ダメ元でもう一度マザーにここに置いてもらって働きたいと、掛け合うつもりだったのに。



本来であればとっくに孤児院を出て学校の寮なり、仕事場なり、独居なりしているはずの15歳

15歳になったらその、誕生日の翌日、つまり今日中に

孤児院で暮らしていたものは出ていかなければならないのが、孤児院の慣わしだ。

だから、働き続けられるとしても、孤児のための部屋に住み続けるわけにはいかない。

それをしっていたからある程度の身支度は済ませてはいるけれども、でも…




ああ、こんな日に、どうして寝坊なんて!!

子供達はもう学校や作業に出てしてしまっていて、ほとんど残っていないようだ。

私がいなくても、もう、ここの仕事が回っていくようにと、仕組まれているのだ。

子供たちの姿が、思い起こされる。

せめて、彼らの成長を見届けるだけでも、させてもらえないだろうか。

うん、おいてもらえなくても、少なくとも週に何回かはこさせてもらえるようにお願いしよう




そう、決意して、部屋の扉をあけた。





その途端、その音が聞こえたのか、待ち構えていたかのようにマザーが現れた。

いつもの、静かな微笑みでゆっくり、こちらを見ている。

「部屋は、片付けましたか?」



ああ、やっぱり、ここにはいられないんだ。

私のこれからが、真っ白ではなく、真っ黒に塗りつぶされていく




とおくから、子供達の声が聞こえていた。

年少の子達は、ホールの掃除や食事の支度の手伝いをしているのだろう。

いつもの、毎日の

ずっと私が聞いてきた、音。


その音を背景にしているのに、

マザーの声で告げられた言葉は

いつも通りの静かな静かな声色で形作られたその意味は

あんまりにも鋭い冷気となって、私の耳に突き刺さってきた。


「お部屋の片付けは、終わっていますか?」

ほんのり首を傾げて、マザーがもう一度、問いかけてきた。

聞き間違いようのない、問いかけ。



「すみません、いまおきたので……」

視線が自然と落ちてしまう。

そう、いつも、マザーは叱らない。

けれど、彼女の前に出ると、どうしても自分のミスを恥じてしまうのだ。

普段だったら「どうしたのですか」から「お寝坊さんには罰掃除ですね」になるはず、だった

でも、今日は、15歳の誕生日の翌日。



その次の言葉が、なかなか言えない。

『ここにおいてもらえませんか』のひとことが。

ちゃんと、お部屋にお伺いして尋ねるつもりだったのに。

気持ちが整うまでにちょっと時間が必要なんていってられないのはわかってるのに。



一瞬、見つめあったしまったのち、口を開いたのはマザーの方だった

「片付け終わったら、私の部屋に来てください。お話があります」

いつもの、静かな微笑みでマザーはそう告げ、背を向けた。



ああ、ダメなのか。

ここまで、なにも用意なんてしていなかった自分を呪っても、もう遅い。

ボロ屋でよければしばらく宿を借りる程度のお金ならあるから、なんとかなるけど。

でも……



「2時間後、待っていますよ。戻らないつもりで荷造りしなさい」

そのまま考え込んでしまっていたら、マザーの声が飛んできた。

「わかりました」

そういうふうに答えるのが、精一杯だった。



++++++++++++++++++++++++++++




荷物は、そんなに多くない。

大きな家具などは全て備品だし

私が一人で買えた物もそう多くはないのだ。



大きいものといえば、ママの残した、旅行鞄のみだ。

そこに、いろいろなものを詰めていく。

大切なものは、自分で運べる鞄に入れるようにしなくてはならない。

いつ、だれにうばわれるかわかったもんじゃない

これから私がいかなくてはならないのは、街の外れの、貧民街になるんだから。




その事実は、もう、横っ面を張り倒されるくらいに、痛いのだけれど

妙に静かな室内が、その痛みを、増幅してくれている、ようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ