序章
一面黒の空間。その空間に溶け込むように黒のローブが一つ。大きなフードを深く被っているので顔も見えない。誰かと会話している。
女 よし! 人間の世界に行こう。
声 あらあら、どうしたんですか?
女 ん? 何が?
声 いきなりなんで、、
女 行きたくなったからね。
声 黄泉の国に飽きてしまいましたか?
女 「飽きる」なんて感情は私にはないで、そういうのは時間がある人間のものやろ?
声 まあ、そうですが。 いや、なかなかの気まぐれ。 でも、あなたは人間的ですよ。
女 ? そうなん?
声 ええ。
女 ふ〜ん。 ま、どうでもいいことかな、私はしたいことをするだけ。
声 それでどうするんです? 人間の生活を味わってみたいと?
女 そうそう。
声 ここに居ても何でも識ることができるし、実際そうしてきたじゃないですか?
女 そうやね。 でも、「百聞は一見に如かず」っていう言葉もあるし、そもそも実際に経験もしてへんし、はっきり言って何も知らんやん。 あなたも反対する気はないでしょ?
声 まあそうですが。 ありきたりなことを言うと、「こんなはずじゃない」と思うこともたくさん出てきますよ。
女 ハハハ、それこそ興味深いやん。 あなたがそう言うなら尚のこと価値ありやで。
声 なるほど。 で、どうするんです? あなたは女神ですよ?
女 分かってるやろ? 人間になって生活するわ。
声 ハハッ、そいつはファンキーですね。 共通点なんて見た目だけですよ、できますか〜? フフッ、人間らしく愛に溺れるとか?
女 それもいいんやない。 やけども言い方に悪意があるで。 いろいろなタイプの人間は居るけど、私の子孫であることに変わりないんやから、まあ、あんまり弄りなや。
声 これは失礼。
女 でもまあ、「愛」っていうのには興味あるな〜 いつの時代にもあるし、何度も同じことを繰り返してる。 およそ人間に共通するものでしょ?
声 私の感覚では、「自己愛」という言葉で表現したいですが。 愛だとあまりに広すぎです。
女 そこは愛にしときいや。 ここで的確な表現は欲しくないで。
声 OKです。 一つ気になることがあります。 少し話を戻しますが、あなたは女神ですよ。 そんな存在が人間の中に混じるというのは、それだけでも普通じゃないですからね。 人間にとってもあなた自身にとっても。
女 そうかもしれんけど、大したことなくない?
声 ま、、 う〜ん。
女 あれ、どないしたん? 珍しく言葉に切れがないやん。 不安なるからやめてーや。
声 いや、そうですね、やっぱいろんな影響が出そうです。
女 あらあら、困った困った。 ま、私が全人類を虜にするとかかな。
声 それはどうですかね。
女 食い気味に否定すんなや。 フフ、あんたはそれぐらいがいいで。
声 そうですね。 私はあなたにずっと女神、、、 いや、ずっと変わらずに居てほしいという気持ちが、、、 あるようです。
女 他人事かよ。 まあいいわ、あなたも人間らしいところがあるということで。
声 そりゃそうでしょう、ずっと一緒に居るんですから。
女 ん? ところで、
声 はい?
女 あなたって男なの?
声 それは瑣末なことです。 実際、今まで考えたことなかったでしょ?
女 そうやけど。
声 あなたはイザナミとして、女性としてこの世に現れた。 そしてあなたが求めた相手が男性だった。 だから対話相手としてあなたが求めた形になっただけということです。
イザナミ つまり男ってこと?
声 あなたがそう思うならそうでしょう。 でも、私にはなんの意味もないことですよ。
イザナミ そう、、、か。 やけど、「求めた」なんて言わんといてくれる。
声 これはこれは、とても人間らしい反応ですね。 ところで、いつかのご主人は人間界に居てるのでは?
イザナミ む、、、 分かってるよ。
声 そして御令息も。
イザナミ 背筋が寒なること言わんといてくれる、考えたくもない。
声 ハハハ、いいですね〜
イザナミ あんま弄らんといて。
声 それでこそ私の好きなイザナミ様ですよ。 そんな女神がこれからは変わってしまいますね。
イザナミ へぇ〜 意外すぎることばっかやわ。 あなたにとって私の行動や変化なんてそれこそ瑣末なことでしょ?
声 いやいや、私はあなたとの毎日をいつも楽しんでいますよ。 そういうのは変えたくないものです。
イザナミ それは、、、 悪い気はしないわ。 ただね、私は女神かもしれないけど、体を持って生まれた時点で、、、 何て言うかちょっと格下? なんよ。
声 そんなこと考えてたんですね。 でもまあ、あんまりそういうことは言わないで。 それに女神じゃなくてもイザナミ様には変わりないでしょう。
イザナミ ありがと。 だからさ、どっちかと言うと人間に近いと思ってるし。
声 そんなものですかね?
イザナミ そう、そうやで。 あなたとも違いを感じるし。
声 私は神ではないですよ。
イザナミ 分かってるよ、あなたは黄泉の国。 大体なんでそんなんが私と話ししとるんや〜
声 ハハハ、今更ですか? おっと話がずれましたね。 でも、確かに見ものかもしれませんね、イザナミ様が人間界であたふたするのが。
イザナミ はぁ? 何言ってんの?
声 プライドもガタ崩れですよ。
イザナミ アホなこと言いな、そんなもんは最初からないで。
声 どうですかね? 人間として生活するんですよ? どれだけ抑えても女神としての力があることも知ってる。 アイデンティティがどえらいことになるんとちゃいますか?
イザナミ へぇ〜 そいつは逆におもしろいやん。それやったらあなたも滅茶苦茶になるってことやん。
声 は?
イザナミ 「は?」じゃないで。 あなたも一緒に行くんやから。
声 パートナーなんていくらでも作れるでしょう?
イザナミ へぇ〜 これも意外やわ。 あなたも気付かんことってあるんやね。 私はね、あなたと一緒に行きたいの。
声 えぇ〜
イザナミ お、さすがに物分りがいいやん。 ほな早速行くで。
(イザナミが消え声だけが響く)
声 あぁ、これは考えてませんでした。
イザナミ ハハハ、お互い考えつかんかったことが起こるだけでも楽しいやん。 ところで、
声 何ですか?
イザナミ あなたって、名前何なん?
声 必要なら付けてください。
イザナミ そうね、、、 せっかく人間界に行くんやから、彼らの言葉の中から取るかな。 ホムンクルスは?
声 ダッサイですね、雑魚感強めやし。 そもそもあれは代名詞でしょ? もっと言えばなんで日本の言葉から取らないねんって感じです。
声 うっさいな〜 何でもええんちゃうの。 う〜ん、そやな、、、よし、あなたは無限、無限や。 ハハハ、そして私の弟やで。
無限 え! これは不安しかない設定なんですけど、、、はぁ〜