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第六話 外

外に出たらいじめっ子に会い殴られた。

いじめっ子達が外に出ないような日に外に出たらトラックにはねられた。

風景は全く違うが、外を見ているとそんな記憶が蘇ってくる。

俺はしばらく目を背けていた。いつかは外に出なければいけないという現実から。

昨日、父さんに外に行こうと言われた時、足が震えた。

窓から外を見ることはできる。庭にも出れる。けど、窓から外を見るなんて前世でもやってた事だし、庭にだって出ようと思えば出れた。庭には敵がいないから。

生まれ変わってもうすぐ五年…俺は全く変われていない。外を怖がったままだ。

どうして俺はこんなに臆病なんだろう。


       ※※※※※※※※※※※※※


その日は早く起こされた。

起こしたのは兄さんだった。兄さんが起こしてくれたのなんて初めてのことだった。

兄さんは俺を起こして、「話があるから庭に来い」とだけ言って下に行った。

話ってなんだろうか。

…まさか告白…?今まで少し冷たかったのはあれか。好きな子に冷たくしちゃうやつ。

まさか兄さんが男を…しかも弟をいける口だったとは…

…いや、流石にないな。本当になんなんだろう。

何か壊したとか…?

そう思いながら俺は兄の待つ庭に向かった。


      ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


兄さんは稽古ではあまり使わない真剣を持って庭で待っていた。

…え?なんだろう。お前嫌いだから斬るとか言われるんだろうか…?

…いや…流石にそれもないだろう。

「…来たか」

「来たけど…話って?」

「…大したことじゃない。少し聞きたいことがあっただけだ」

…聞きたいこと?

「…何?」

「…ルシエル…外に…いや、外が怖いか?」

外が怖いか?

何故兄さんがそんな質問をしてくるのだろう。

「…そんなこと聞くの?」

「…昨日父さんと話してる時の様子がおかしかった。それだけだ。」

そんなにわかりやすくおかしかったか?…おかしかったな。さっきまで楽しそうに喋ってた奴が急に暗い顔するんだ。おかしいと思わない方がおかしい。

それでも何故なんだろう。兄さんが聞く必要なんてないはずだ。

今まであんま仲良くしてこなかったしな。

「…で、外が怖いか?」

兄さんがまた聞いてくる。

「怖いけど…」

「…そうか」

兄さんが目を瞑って何か考えている。そういえば兄さんと二人きりで話すこと自体ほぼ初めてかもしれん。

「…よし」

兄さんが何か思い付いたのか目を開いてこっちを見た。

「今から少し外に出よう。見せてやりたいものがある」

…ふぇ?あの…?さっきの質問はなんだったんでしょう?

また足が震える。

「い、いやと言ったら?」

「いいからこい」

そう言って兄さんは俺の腕を取り、震える足ごと外に引っ張って行った。

こうして俺はこの世界で初めて庭の外に出た。


        ※※※※※※※※※※※※※※※※※


兄さんの力は結構強い。他の同い年くらいと比べて強いかは知らないが、抵抗する五歳の弟を引っ張りながら歩くには充分だった。

村の子供が三人程物珍しそうにこっちを見ている。

…視線は苦手だ。身体が緊張する。

今からあの子供達に変なことされないだろうか…そんな不安が襲ってくる。

そう思っているとその子供たちが近づいてきた。そうして俺に…

「剣の兄ちゃんだぁ!」

「また魔術見せて!あの炎がドッカーンってやつ!」

ではなく兄さんに群がっていく。…いやまぁ俺はその兄さんに掴まれてるから必然的に俺にも群がってることになるんだが。とりあえず別に俺が見られてたわけじゃなかった。

「また後でな。今はちょっと忙しいんだ。」

「え〜今度っていつ?」

「…明日やってやるから今日はどっか行ってろ」

「は〜い約束だからね!」

「破ったら容赦しねぇぞ!」

「わかったな!」

「わかったわかった」

…どっか行ってろって…村の子供にも結構冷たい…?けど懐かれてるところを見ると意外と面倒見は

いいのだろう。というかいつの間に村の子供と遊んでたんだ…?


「おお!ユリウス君!久しぶりだねぇ」

子供達がいたところから少し歩いたら畑の方から短い銀髪の少しふっくりしたおばさんが話しかけてきた。

「こんにちは」

「その子はあれかい?弟の?」

「はい。ルシエルです。ルシエル、この人はヘルスさんと言っては時々家に畑で取れたものをくれるいい人だ。挨拶しとけ」

「え?あ、こんにちは…ルシエルです」

「ははは。可愛い子だねぇ。あっそうだ。最近あんま持ってってあげれなかったし…はいルシエル君と一緒に食べな!」

そう言いながらトマトによく似た赤い野菜を二つ渡してきた。

「ありがとうございます」

「ははは!いいのいいの!ルシエル君と仲良くね!」

「はい。ありがとうございます」

さっきから兄さんと村の人たちの会話を聞いてると、外は敵しかいないとか思っていた頃の自分が馬鹿みたいに見える。…いや実際馬鹿だったけども。

そんなこんなしている内に兄さんと俺は木が生い茂る森っぽい場所と村の境目まで来ていた。

「…よし。確かこの辺からだったな」

兄さんが何か呟いている。

すると兄さんが俺を引っ張りながら森の中に入って行った。

…え?

「ど、どこいくの!?」

「言っただろう?見せてやりたいものがあるって」

ま、まさか…この兄さんは偽物でこいつは誘拐犯とか…?朝起こしにきたり…急にあんな質問してきたり…色々おかしいと思ってたが…そ、そんなバカな…俺はこれからどうなっちゃうんだ…?

…いや、ないか

誘拐犯ならわざわざ土魔術で目印を残さないはずだ。

…まさか俺を油断させるため…?後から違う奴が魔術を消していくとか…?

…いや、ないな

抵抗のしようがない俺を油断させても意味ないし、そもそも俺まだ五歳だしわざわざそんな見つかる可能性が高まる上にめんどいことしないだろう。…と信じたい。

…外なのにこんな冗談を考えるくらいには落ち着けているのは、兄さんがいるからだろう。いつの間にか村の人達と良好な関係を作っていたし、なんか安心する。

少し歩くと兄さんが「…よし着けそうだ」とか呟いてる。

もしかしてちゃんと道わかってなかった感じ…?

…まぁわかってたら目印残さないか

そんなことを思っていると開けたところに出た。

「わぁ…」

思わず少し声が出てしまった。

目の前にあるのはすごく大きな木だ。その木の葉に光が当たり、木が光っているように見えてすごく幻想的だ。…語彙力がなくてうまく表現できないが、とりあえずすごく綺麗だ。

「綺麗だろ?ここは俺のお気に入りでな。小さい頃に来てい以降時々くるんだ。…道は覚えれてないけど…」

目印残しとけばいいんじゃ…って思ったけどこの世界の魔術は時間が経つと消えるんだった。

「綺麗だけど…どうしてここに?」

そう聞くと、兄は少し考えて言った。

「…俺がお前くらいの時に、俺は稽古をサボってたんだ」

兄さんが懐かしむように話し出した。

「俺は英雄みたいになりたかった。だから最初は真面目に剣を振ったさ。けど薄々感じたんだ。俺は英雄みたいにはなれないって。今考えると、それが確信に変わるのが怖くて、稽古をサボってたのかもしれない。…ほぼ確信してた気もするけど」

「それで父さんがさ…毎日稽古しようってうるさいから逃げ出したんだよ。それで、逃げて迷った先がここだった。

「それでさ…父さんはさ…ダメ息子だった俺をさ…俺はお前の父さんだからって追いかけてきたんだよ」

「あんま上手くは言えないけどさ。俺はその時、父さんがすごくかっこよく見えたんだよ。で、次の日から俺は変われたんだ」

「昨日のお前を見てたらさ…なんかそのこと思い出したんだよ。それでさ、俺に父さんがしてくれたみたいに…父さん程上手く出来なくても…どうにかしてやりたいなって思ったんだよ」

そして兄さんは俺を真っ直ぐ見ながら言った。

「ルシエル、外はどうだった?」

「…どうって?」

「外に出てみて、お前はどう思った?」

…どう思った?か。

「…外って不思議な場所だなぁと思ったよ」

「なんでだ?」

「家で見てるのとは同じ景色なのに、実際に行ってみると全然違く見えたり、家でいつも無愛想な兄さんがおばさんに対して丁寧に話してたり、家からは全く見えない綺麗な景色があったり」

俺は今当たり前のことを言っている。けど、俺は今までその当たり前のことに気づけていなかった。…いや、外の怖いものばかりを見て、当たり前のことを忘れていたのだ。

「よく考えたら当たり前のことだね。けど、多分俺一人じゃずっと気づけなかったと思うからさ」

この事に気づけたのは二人の兄さんが連れ出してくれたからだ。…だから

「兄さん、僕を外に連れ出してくれてありがとう。」

俺は目の前の兄と、この場にはいないもう会えない兄に向かって、精一杯の感謝を伝えた。

すると兄さんは少し照れ臭そうに目を少し逸らしながら言った。

「俺はそんな大したことしてねえよ。お前は多分俺より優秀だし…俺がいなくたっていつかは外に出てたろうさ」

そんなことはないと思う。連れ出されなければ俺は多分ずっとお家の中だった。

「けどさ…今までそれっぽいことなんてしたことないけど…」

そして兄さんはまた俺を真っ直ぐ見つめて、

「何かあった時は遠慮なく頼れよ。お前に俺の力なんか必要ないかもしれないが…できる限り力を貸してやるよ。…俺はお前の兄さんだからな」

兄さんは今まで見たことない程爽やかな笑みを浮かべてそう言った。


        ※※※※※※※※※※※※※※※

次の日は父さんに早く起こされた。

今日から中級魔術の練習だ。この年で中級が使える子供はほぼいないようだし、

今のうちに使えるようになって妹に「兄さんかっこいい!」とか言ってもらおう。妹とは決まってないけど。

庭に行ったら父さんと兄さんが待っていた。

「おお!きたな!エル!じゃ、いこうぜ!」

「そうですね!はやく行きましょう先生!妹にかっこいい姿を見せるのです!」

「まだ妹とは決まってないぞ」

…兄さんよ、そんな事言わないでおくれ。まぁ弟だからと言ってダメなわけじゃない。ちゃんと愛してやるつもりだが…あ、家族としてね?

けどやっぱり可愛い妹がいい。

「信じていればそれは現実になるんですよ。…多分。兄さんもかっこいい姿見せたいでしょう?なら文句を言わずに稽古に励みましょう!」

「文句なんか言ってないぞ。俺はただ妹とは限らないと…」

「さぁ!行きましょう先生!」

「おう!そうだな!行こうぜエル!」

兄の言葉を遮って俺と父さんが歩き出す。

兄さんも何か言いたそうだが俺と父さんに続く。

あんなに怖がっていたのに、今は全く怖くない。外を見たからだろうか。兄さんや父さんがいるからだろうか。どっちもだろう。もう、足は震えない。

そうして、俺はこの世界で初めて自分の意思で外に出た。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 兄と弟のそれぞれの成長が描写されていて素晴らしいと思います!! (・∀・)〈感動すらしましたよ!! [一言] これからも楽しみにさせて頂きます。
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