第三話 誕生日
「おはよう!エル!今日はと〜ってもいい天気ね!」
「…おはよう母さん」
母さんがドアを開けながら言ってくる。
いつもテンション高めだが今日はいつにも増してハイテンションだ。何故かというと…
「もうエルが生まれてから四年も経つのね〜」
母さんが言う通り。今日は俺の四歳の誕生日だからだ。
この世界も一年が365日なのは前の世界と変わらない。
初日から部屋に飾ってあった石は時計的なものらしく、朝は赤く光っているが、時間が経つとだんだん藍色になっていき、日にちが変わるとまたまた赤く光り始める。
正確な時間はわからないが、最近は慣れてきたから大体の時間はわかるようになった。
もう喋れるようにもなったし、取っ手にも手が届くようになった。
「もう僕も四歳か…」
「早いわよね〜ユリィも今年で十一だし…あっ今日の夕飯はご馳走だから楽しみにしててね!」
「わかった。楽しみにしとく。」
この国には毎年誕生日を祝う習慣はないが、四歳ごとにお祝いをするらしい。
四、八、十二、十六、二十の時に祝って二十歳で成人らしい。この国でも二十で成人なんだな。
俺が生まれて少しした時のパーティは兄さんの八歳の祝いだったのだろう。
何故四歳毎かというと人々を守ってくれるという四大精霊とやらがいるらしく、それで四は縁起がいい数字とされているのだとか。
逆に七つの大罪という大罪人達がいるため、七は縁起が悪いそうだ。
七つの大罪って厨二心くすぐられるワードは前の世界でもあったが別に七が縁起が悪いとは言われていなかったな。むしろラッキーセブンという言葉があった程だ。逆に四は縁起悪いって言われてたし。
縁起の良い悪いの決め方もなんか雑だし…考え方の違いだろうか。
言うて前の世界も四が死だからとか言う雑な理由だったからどっちもどっちかも知れない。
「じゃあ母さんは夜に使う食材を取ってくるから、お兄ちゃんと良い子で待っててね。」
…取ってくるのか。
「わかったよ。兄さんと待ってるね」
母さんが部屋を出て行く。…まぁ兄さんとと言いつつ一人で過ごすんだが…
…とそんなことは置いといて俺は今日で四歳…そう、魔力が発生するかも知れない年だ。
本を見つけてからの二年であの部屋にあった本は大体読んだ。教本二冊や散策記はもちろん、意外と御伽噺や冒険譚も時間の見方とかこの世界の歴史を少ししれて意外と勉強になった。普通に面白かったしね。まぁ歴史には脚色が入っているだろうが…
魔術教本は一番読み込んだ。だって、魔法使ってみたいじゃん?男の子だもの。尚、魔力が無い場合は考えない事とする。で、教本の中には魔力があるか確かめる方法が何個か書いてあった。
一つが魔水晶を使う方法だ。
この世界には魔水晶と呼ばれる魔力が詰まった水晶があるらしく、その中に、魔力を持った生物が触ったら緑に光る淡い青色の水晶があるらしい。それで確かめるということだな。
二つ目が実際に魔術を使ってみる方法
…だがこの方法はあまり良くないらしい。魔術は魔力を集中させるコツとか覚えないと中々使えないらしく、魔力の有無すら分からないのに集中のコツもなにもないから、魔力があっても使えない場合が多く、魔力があるのに無いと勘違いする人がいるらしい。こういう時にやっぱり詠唱が欲しくなるな…それを覚えてれば簡単に魔術が使えるから簡単に調べられるというのに…魔術の集中のコツを〜とか書いておきながらそのコツを書いていない教本ってどうなんだ…?せめてコツくらい書いて欲しいものだ。やろうとしてる内に掴めてくるのだろうか。なら魔力の有無がわかる分からない関係なく最初は使えないのか。…この方法使える人いるんだろうか?…まぁいたから載ってるんだろう。できる奴らは天才肌ってやつなんだろうな。
他にも魔力の流れが見れる魔眼とやらを持った人に見てもらうとかがあるらしいが、そもそもそんな魔眼を持っている人は少ないからその方法は大体の人は使えない。…この世界には魔眼もあるのか。
普段は眼帯をしてるが戦闘の時は外して特殊な目を使って敵を翻弄…!見たいなのもあるのだろうか。あるとしたら是非やってみたい。魔眼持ちは意外といるらしく十人に一人は魔眼持ちらしいし、俺もワンチャンあるんじゃなかろうか。
…また脱線したが魔力に反応する魔水晶はかなり出回っているらしく、母さんに聞いたところ家にもあるそうで、本冒険者なら採取クエスト等で1個は持っているそうだ。あとで親に聞いてみるか
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「「エル!誕生日おめでとう!」
「…おめでとう」
今は夜、俺の誕生日パーティの時間だ。
父さんと母さん、少し遅れて兄さんが祝いの祝いの言葉を述べる。
すると、父さんと母さんが一冊の本を渡してきた。
「はい!私達からの贈り物よ!エルは本が好きだから…二人で選んで買ってきたのよ!」
今日は夕方まで帰ってこなかったし、食材だけじゃなくプレゼントも買ってきたのだろう。
本の表紙を見てみると、世界の魔獣事典だった。
この世界には製紙の技術はあっても印刷の技術はないようで、全部手書きだ。
魔獣事典はかなり分厚く、それぞれの魔獣の説明に挿絵があり、習性や対処法等がわかりやすく書かれている。どれくらいの値段がするのだろう。
「ありがとう!こういう本が欲しかったんだ!」
そういうと、母が「いい子ね」と言いながら抱きしめてきた。
兄からは綺麗な石だった。淡い青色の石だ。…この石どっかで見たことあるな。
あっ思い出した。本で見たんだ。
その石は魔術教本にあった魔力に反応する魔水晶の挿絵にそっくりなのだ。
それに気づいた俺は思わず「おお」と声をあげてしまった。
「兄さん、これって…」
「…お前はよく魔術教本を読んでるからな。魔術に興味があるかと思って。…他に送るものもないしな。」
「…いいの?」
「…俺はもう使わないしな」
「ありがとう。大切にするね」
「…」
兄は特に何も言わず席に戻っていった。…なんか冷たいな。赤ちゃんの時は時々兄が来て声をかけてくれてたが、本を読むようになったあたりからはそれも無くなったし、あんま話したことないからな…そのせいだろうか。それはともかく…
魔水晶を手に入れた!ルシエルは魔水晶をバッグ(懐)にしまった。
思わぬ形で手に入ったが手に入ればなんだっていいだろう。
それから父さんの芸を見ながら、母さんのご馳走を食べ、楽しい夜は更けていった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
翌日
俺は早速魔水晶を触ってみることにした。
反応は無く、
まぁ、四歳なったばっかだしね。これからだよこれから。
二日目
今日も反応はない
まぁこんなもんだよね
七日目
まだ反応はない
四〜五歳ら辺って書いてあったし今光ったらむしろ早いくらいだろう。
三十日目
今日も相変わらず綺麗な青だなぁ。
まだ1ヶ月だしね。うん。まだ早いよね。うん。
百八十日目
今日は光ったよ!母さんが触ったら。実は俺が触った時光ってたんじゃないかなぁとか薄い期待を抱いて見本を見せてもらいました。うん。まぁまだ決めつけるには早い。
母さんも「大丈夫よ。兄さんだって五歳をちょっと過ぎたあたりまで光らなかったんだから。それに、もし光らなくても魔力がなくても生きていけるし大丈夫よ!」と慰めてくれたし大丈夫だろう。
と俺は魔力が無いんじゃないかと少し諦めかけていた二百日目のことだった。
魔水晶が少しだけ緑に光ったのだ。
思わず「うおおおお!」と叫んでしまい母さんが「どうしたの!?」と言いながら駆けつけてきた。そして光った魔水晶を見ると「良かったわね!エル!」と言いながら頭を撫で、一緒に喜んでくれた。いい親を持ったなぁ。前の母さんは結構ドライだったからな…
「…ねぇエル。今まですごく教本を読んでたし…魔術使いたいのよね?」
「もちろんです」
即答した。何故か敬語になってしまった。
「なら…父さんと魔術のお稽古しない?私がしてもいいんだけど…お父さんの方が教えるの上手いから…」
「よろしくお願いします!」
そうして、翌日から俺の魔術稽古が始まった。