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ホームアローン症候群

作者: 長光一寛

ホームアローン症候群


今は古い話であるが、少年が高層マンションの踊り場から消火器を落とし、下にいた少女の頭に命中し少女は死亡するという痛ましい事件が起こった。この事件を思い出すたびに思うことがある。推測するに、少年はまさか少女が死ぬとは思ってはいなかったろうし、出血するような怪我さえその少年の念頭にはなかったのではなかろうか。ただこの少女を驚かせたいという程度のことが目的であったのだと思う。ではこの少年はどうしてこのような因果関係の推定を誤ってしまったのであろうか。


私自身子供のころの経験で、自分の捕まえたカミキリムシを指でつまんで、近所の生意気な子の腕にその角を当てさせたことがある。角に挟まれて皮膚に二つの穴が開きこの子は泣きだしてしまった。あの時の自分の気持ちは少々の痛い思いをさせて懲らしめようというだけのことだったが、効果が予想外に甚大で自分でも驚きあわてたのでこの情景を今でも鮮明に記憶している。


子犬は飼い主にじゃれつきながら平気で思いっきり噛むことがある。それは自分が思いっきり噛まれたことがないので、その痛みを知らず、自分の行為の相手に対するインパクトを測り知ることができず邪気無くすることだ。やがて自分も噛まれたりしながら成長するにつれ、自分の行為が相手にどのような痛みを与えるかを知ってきて、じゃれつくときにも噛み方を加減をすることを覚える。人間も同じである。


生活経験から体得する知識のまだ浅い子供たちに特有のこのような行為と結果の因果関係の認識の甘さは避けることができず、自らの「恐るべき子供」としての苦い思い出は誰でもあると思う。しかし、この現象は環境にも助長されていると思う。そして今までのどの時代に比べても現代はこの助長がはなはだしい。ホームビデオやLD、テレビゲーム等の普及で、外で友達と遊ぶより家でひとりでディスプレーに向かって遊んでいる時間が増加する傾向にある。友達との物理的接触による実体験より、テレビや映画、あるいはテレビゲームの映像を視聴することによる疑似(代理)体験が知識獲得の拠り所として大きな割合を占めるようになってきているから、実体験と娯楽的に演出された疑似体験が交錯し後者が大きな影響を与えるようになってきて、その結果消火器などを頭の上に落としても人は死んだり大怪我をしたりするものではないという錯覚を抱くようになる。


このような危険な演出の一例を挙げるなら、子供向けのある人気映画で主人公の少年が路上の悪漢の頭の上に建物の2階か3階の窓から煉瓦を落とすシーンがある。これはまんまと命中し悪漢は目を回して倒れる。しかしまた元気を取り戻して手を振り上げて少年を威嚇する。するとまた少年は煉瓦を落としこれがまた頭に当たる。そして今度も倒れた悪漢は意識を回復して立ち上がって反撃しようとする。これはおよそ現実的でない。ぼくはこれを見ながら嫌悪感を抱きこの映画の製作者に怒りを覚えた。そしてこのような映画の流布が許されていることにも抗議したい。


これを見た多くの子供たちがこのような非現実的映像を現実に起こることとして記憶したら、彼らは思いもよらない無邪気殺人を侵す危険を孕むこととなる。そのような危険な洗脳をしようという魂胆が製作者たちにあるとは言わないが、故意または過失がなくとも演出に欠陥がありそれによる弊害が明らかであれば責任を問われるべきだとも思う。


「恐るべき子供」たちは幼いがための経験の浅さによる避けられない危険を孕んでいるが、これを助長するメディア演出者たちは「無邪気殺人」候補者を大量に仕立て上げるという恐るべき反社会的行為をしていることを認識すべきで、上記消火器事件をひとつの警鐘として早めにこのような欠陥製品(DVDやゲームソフト)をリコールすべきである。




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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただきました。  確かに難しい問題ですよね。  純真無垢な子どもたちは、アニメや映画、ゲームの影響を受けやすく、かつ経験や体験もほとんどないから、それをやったらどうなるかというこ…
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