新しい武器
「早速入ってみよ! お邪魔しまーす!」
「あ、メノアさん! ……ライト、アイラちゃん、私たちも行こ」
「は、はい!」
「そうだな」
流れるように入店するメノアに、遅れて後ろを付いていく三人。
入った瞬間に鉄の臭いがレーナたちを包む。
商品が置いてあるスペースはやはりそこまで広くない。
しかし、店の奥には作業場と思われるスペースがかなり広く続いていた。
よく見れば地下に続く階段もあるため、武器の生産などは全てこの場所で行っていることが分かる。
武器屋というよりは、職人の作業場に売り場を無理やり作ったという表現がしっくりきた。
「すごい! みんな見て見て! こんなのララノア国には無かったよ!」
「確かに……珍しい形状ですね。それにめちゃくちゃ軽いです」
「軽い剣だったらレーナの《剣聖》にもピッタリじゃないか?」
「レーナさんのスピードが活かせるので私も賛成です……!」
入店してから一分もしないうちに、レーナに相性の良さそうな剣が見つかる。
この店は実際に武器を手に取って確認できるようで、握った感覚も問題なく思えた。
アイラも《鑑定》で念入りに確認してくれているが、手抜きが一切なしの素晴らしい代物とのこと。
メノアも「レーナにお似合いだよ~」と笑っていた。
「ライト君はどんなのがいいのー? レーナと同じようなのがいい?」
「え? 俺もですか?」
「当たり前じゃん! こんなチャンス滅多にないよー? お姉さんが奢ってあげるから、遠慮なく高いの買っちゃって!」
ライトの肩に腕を回して、メノアは剣が並べてある台の周りに近付いて行く。
ここに置いてある剣たちはどれも一級品ばかり。
この中からさあ選べと言われても、剣に関する知識が少ないライトはすぐに答えを出せない。
かと言って、適当に選んでプレゼントしてもらうというのも失礼な気がするし……。
ライトは助けを求めるような目でアイラを見た。
「アイラはどれが良いと思う?」
「そうですね……この中ではこれが一番だと思います。邪龍ほどではありませんが、とても強い龍の牙から作られたものです。《剣神》のパワーにも耐えられます」
アイラは一本一本をしっかりと吟味し、最終的に一番手前にあった剣を手に取る。
牙を加工して剣に使うというのはよく聞くものだが、これはその牙の持ち主が桁外れな代物だ。
邪龍には及ばないにしても、名前を出せるくらいに強い存在の龍。
そんな化け物の牙を加工しているのだから、値段はそこら辺の物とは比べ物にならない。
確かにどれが良いか聞いたのだが、本当に一番と言えるものをアイラは選んでくれた。
この遠慮の欠片もない選択をメノアはどう思うのだろう。
ライトは少し緊張しながらメノアの方を見る。
「へー! 龍の牙ってすごいね! こんなのも置いてあるんだ!」
しかし、メノアは全く怒っていない。
それどころか、剣の素晴らしさに感動している様子すらある。
「いや、流石にこんな高い物は……」
「――じゃあこれにするね? すみませーん! ランドーラさんいますかー?」
ライトが遠慮する暇すら与えてもらえず。
メノアはライトの選んだ剣とレーナが選んだ剣を抱きかかえて勘定場の前に立つ。
そして、作業場にいるであろう店主ランドーラを呼んだ。
こんなに騒がしい客も珍しいようで、一分ほどして作業場からランドーラが不機嫌そうに出てくる。
高齢にも拘わらず屈強な肉体を維持した大柄の老人。
腕は岩のようにゴツゴツしており、手は洗っても取れないくらいに真っ黒だ。
こんな人のことを職人と呼ぶのだろう。
対面するだけですら緊張感が走る。
「はいはい。どちら様だい?」
「この前お手紙を出していたメノアです! 依頼していた剣を取りに来たのと――あとこの二本もください!」
「ああ、メノア殿か。ちゃんと依頼されたのは完成してるよ。その二本……安くないけど払えるのかい?」
「もちろんです! いくらですか?」
「全部合わせて二千万ゴールドかな」
「ギルドカードを使って支払うので、ちょっと遅くなるかもしれないけど大丈夫ですか?」
「構わないよ。毎度あり」
メノアの手際は凄まじく、あっという間に勘定が終わってしまった。
そして、購入した剣を「どうぞ♪」と手渡される。
二千万ゴールドの買い物なんて、残りの人生でもう一度見れるかどうか分からない。
もしかして自分はとんでもない現場に遭遇したのではないか。
ライトは、メノアからプレゼントしてもらった剣の重みをずっしりと感じていた。
「これはレーナの分! 期待してるから頑張りなよ~」
「あ、ありがとうございます!」
「俺からも、ありがとうございます。こんなプレゼント、メノアさんが初めてです」
「そうなの? ライト君たちくらい強かったら、貴族の人とか喜んで買ってくれそうだけど……ま、いっか。初めてになれたのは嬉しいし!」
それぞれ感謝するライトとレーナに、メノアはいいのいいのと手を向ける。
「いつか、何かお返しを――」
「私には気を遣わなくて大丈夫。どうしても気になるなら、アイラちゃんに美味しいものでも食べさせてあげて」
「へ? 私に?」
「いいよね、レーナ?」
「は、はい。もちろんです!」
ここでレーナが断るはずもない。メノアの意図は完全に伝わった。
アイラもそれは同じであり、ありがとうございますと頭を下げている。
「それよりさ、私のやつもどう? じゃーん! かっこいいでしょ!」
「これは……振りやすそうですね。メノアさんのスタイルに合ってると思います!」
「でしょでしょ! 何と言っても特注品だからね! これで私も強くなったよ!」
メノアは特注品の剣を自慢げに見せつける。
剣身は短めで、小回りが利きそうな素晴らしい代物。
メノアはあくまでサポート役であり、味方のカバーで剣を振るうためこのくらいが望ましい。
本人もかなり納得しているようで、来てよかったと子どものようにはしゃいでいた。
「早くこの剣を実戦で使ってみたいよ~。この国でも依頼受けちゃおうかな~」
「え? でも、メノアさんは休暇中じゃなかったんですか?」
「確かにそうだけど、新しい武器を握ったものだから。冒険者の性って言えばいいのかな?」
「気持ちは分からなくもないですけど……」
メノアは新品の剣を構えたりして実践のイメージをする。
よっぽどそれが気に入っているようで、休暇を返上してでも依頼に向かおうとするくらいには熱心だ。
冒険者の鑑と言うべきか、それとも気分屋と言うべきか。
もちろん、メノアに誘われるようであれば依頼には同行するつもりである。
「うーん……やっぱり行きたいかも。巻藁で試すよりも実戦で試す方が確かだと思うし」
「それじゃあ同行します。メノアさんも仲間がいた方がやりやすいでしょうし」
「え? いいの!? もちろん仲間がいたら《旋律》も活かせるからやりやすいけど……」
「これくらいのお返しはさせてください。ライトも良いよね?」
「当然。レーナ以外のSランク冒険者と一緒に戦えるなんて滅多にないからな」




