遅刻するメノア
「レーナ、中央広場ってここであってるよな?」
「うん。ちゃんとこの国の人にも教えてもらったし大丈夫だと思う」
「メノアさん……遅いですね。何か事件に巻き込まれていないといいのですが……」
当日。
集合時刻を三十分ほど過ぎた段階だが、未だにメノアの姿は見えない。
広場にはたくさんの人間がいるものの、メノアが来たら問題なく気付ける規模。
見過ごしているというパターンは考えにくいため、まだ到着していないと考えるのが普通だが……。
「これならメノアさんの宿も一応聞いておけば良かったかも」
「どうする? 探しに行くか?」
「うーん……もうちょっと待ってみよ。メノアさんが遅刻するのはいつものことだし」
「……いつものこと」
レーナは広場の中心にあるベンチに座った。
メノアと行動を共にしたことは何回かあるが、彼女が時間通りに現れたことは一度もない。
冒険者は時間にルーズな人間が多いが、それはSランクになろうとも変わらないようだ。
そんなメノアの一面を知っているからこそ、レーナは今の状況にも動揺せずにどっしりと構えている。
「今までの経験だと、一時間以上は遅刻しないと思うから……そろそろ走ってくる頃じゃないかな」
「レーナァァァアアー! ごめええええぇぇーん!」
「あ、来た」
レーナの予想は大的中。
広場の入り口辺りから、メノアはドタドタと謝りながらやって来る。
周りからの視線が少し痛い。
きっと誰もメノアのことをSランク冒険者だと思わないだろう。
本来ならみんなの憧れであるはずなのに……これでSランク冒険者のイメージがダウンしなければいいのだが。
「こんにちは、メノアさん」
「ぜえ……はあ……ごめんね。一応起きてからすぐに走ってきたけど、間に合わなかった……ふひぃ」
息を切らしながら、メノアは汗を拭う。
起きてからすぐにここに来たというのは本当なようで、メノアのフワッとした髪はところどころ寝ぐせが残っていた。
レーナは見慣れた光景だが、初めて遭遇するアイラは大丈夫かなといった表情でメノアを見つめている。
「ライト君もアイラちゃんもごめんね! この通り!」
「いやいやっ! 全然大丈夫です!」
パンと両手を合わせて頭を下げるメノア。
Sランク冒険者とは思えないくらいに低姿勢であり、もちろん怒りの感情なんて微塵も湧いてこない。
自分より下のランクの者に対して偉そうな態度を取る冒険者は少なくないが、メノアはそんな輩とは真逆の性格と言える。
レーナがメノアと仲が良いのも、こういった一面を好きになったからだろう。
「メノアさんは時間のルーズさだけどうにかすれば冒険者としては完璧なんですけどねー」
「ふっふー、完璧な人間なんていないんだよ? レーナ」
「威張って言うことじゃないです!」
名言風にかっこをつけたが、残念ながらレーナの心には全く響かなかった。
それに、寝坊や遅刻をしないなんてどうにか直せそうなものなのだが……これも《旋律》の消費エネルギーの弊害なのか。
実力、容姿、コミュニケーション能力などなど、欠点を探すことの方が難しいくらいなのに、何だかちょっともったいない。
「とにかく昨日言っていた武器屋に行きましょうか。ここでずっといるわけにもいかないですし」
「そうだね! よーし、後輩に奢っちゃうよー!」
「その前に案内してください」
「あ、そうだった」
メノアはアハハと笑いながら広場を抜けて路地へと入って行く。
右へ左へ――この辺りの住民もあまり使わないような道を抜けていく。
地図を全く見ずにスイスイ進んで行くため少々心配だ。
ミルド国には慣れてないはずなのに、どうしてここまで迷いがないのか。
「次はこっちを右に――」
「メ、メノアさん。本当にこっちの道で合ってるんですよね?」
「もちろん! この街の地図は全部頭に入ってるから安心して!」
「全部ですか!?」
「そうそう。依頼に行く時もその地域の地図は全部頭に入れてるし、こういうの得意なの」
レーナもまだ知らなかったメノアの特技。
どうやら彼女は地図を記憶することにも長けているらしい。
地図を持っているのと覚えているのでは全然違う。
もし見知らぬ土地でピンチになったとしても、地図が頭に入っていれば迷うことなく瞬時に逃げ道を確保できる。
そういえば、メノアはパーティーの中でもメンバーを統率するリーダーと聞いた。
サポートもできて、頭も良くて、周りの地形も把握している。
彼女になら命を預けても良いと思わせるような、根っこからのリーダーだ。
「ということで、この角を曲がれば到着! 伝説の武器屋――ランドーラ工房だよ!」
「すごい……本当だったんだ」
「私は嘘なんてつかないよ!」
メノアは胸を張って、パパーンとランドーラ工房を見せびらかす。
レーナの想像していたほど大きくはなく、あくまで個人で営んでいる店という雰囲気。
ただ、錆びれた看板だけでもこの店の歴史をヒシヒシと感じることができた。
「早速入ってみよ! お邪魔しまーす!」




