メノアの誘い
「そうなの? それなら、いくつか一緒に回らない? 私もやっぱり一人じゃ寂しいし、大勢の方が楽しそうだし!」
レーナの呟きにいち早く反応するメノア。
メノアとレーナたちは、共にミルド国から初めてこの国に来た。
境遇はピッタリ一致しているため、きっと同じ行動をしても名一杯楽しめる。
「一人より二人、二人より三人」が信条であるメノアからしてみれば誘わない理由もない。
レーナたちは忙しそうだし、誰かがきっかけを作らないと休もうとしないだろうという確信もある。
冒険者を長く続けるコツは、常に頑張ることじゃなくて適度に休むことだ。
一人の先輩冒険者として、それを教えてあげることにしよう。
メノアは「いいよね?」と首を傾げてみせた。
「どうしよう、ライト」
「観光っていうのも良いかもな。お金は当分大丈夫そうだし、街中をウロウロすることも人探しに繋がるだろうし」
「私もライトさんに賛成です」
「そっか。うん……分かった!」
レーナはライトとアイラの反応を見て決断する。
自分が冒険者になってからというもの、ずっと依頼ばっかりで気を休める時間はほとんどなかった。
レーナもライトもアイラも、元々田舎で育った人間。
観光というか、都会を見て回ることには人一倍興味がある。
それに、レーナとしてもライトと一緒に遊べる時間は魅力的なものだ。
「メノアさん、ぜひ一緒に回りましょう」
「やったー! じゃあ明日の十二時に中央広場に集合でいい?」
「はい。一応聞いておきたいんですけど、どこに行くんですか?」
「えっとね、とっても有名な武器屋さんがあるの。そこで新しい剣とか買いたいなぁって」
メノアの目的地はとある武器屋。
伝説とも言われるほどの名高い職人が営む店であり、この店のためだけにミルド国へ訪れる冒険者もいるという。
そして、メノアもそんな冒険者の中の一人だ。
「武器屋……ちょっと興味あるかも」
「新環境なんだし、レーナたちも剣を新しくしたらどうかな?」
「あー……でも、あまり大金は使えないんですよね」
「お金? それなら私に任せてよ。付き合ってもらうんだし、先輩として剣の一本や二本プレゼントしてあげる!」
メノアは人差し指をピンと立てて胸を張った。
言うまでもないが、剣は決して安い物じゃない。
伝説の職人と呼ばれる人間が作った剣ならなおさらだ。
そんな代物を、仲の良いレーナだけでなく今日初めて会ったライトにもプレゼントするとのこと。
流石はSランク冒険者としてトップレベルの活躍をしているメノア。
彼女にとっては、アイラに飴をプレゼントするのと同じ感覚なのだろう。
「ちょ、ちょっと! そんなもの貰うわけには……!」
「遠慮しないの! 応援っていう意味でもあるんだからさ」
「で、でも……」
「もー、こういう時は素直に貰うべきだよ。レーナの悪いところ!」
「す、すみません、それじゃあ……ありがとうございます!」
「そうそう♪ それでいいの」
メノアは満足そうにうんうんと頷く。
こうやって後輩の面倒を見るのはレーナだけに限った話ではない。
もはやメノアの趣味と言えるほど。
パーティーの仲間からは、孫に対するおばあちゃんみたいとよく言われている光景だ。
「あ、レーナたちってもうお昼ご飯は食べた?」
「はい、一応」
「そっかー。一緒に行こうかと思ったけど残念」
「え? 一緒に行こうって……今食べてるじゃないですか」
奇妙なことを言うメノアに、レーナはさっきまでサンドイッチがあった皿を指差す。
会話中にも食事を続けており、今は一切れしか残っていないが……間違いなく一キロほどは存在していたはず。
それが丸ごと胃袋の中に入ったというのに、昼ご飯とはこれ如何に。
百歩譲ってデザートというのなら分からなくもないが、そういう意味の発言でもなさそうだ。
「これは間食みたいなものだよ~。いっぱい食べないと力が出ないからね!」
「こんなに食べてよく太らないですね……」
「私のスキルはかなりエネルギーを使うからさ。そのおかげなのかも」
メノアは最後の一切れをパクリと口の中に入れると、まだ足りないと言わんばかりにお腹をさする。
目を離せば常に食事をしているメノアが太らない理由は、そのスキルに関係があるらしい。
スキルによって必要とするエネルギーは変わってくるが、《旋律》はその中でも群を抜いて必要量が多いとのこと。
もし食事を抜いたりすれば、ヘロヘロになって本来の力が全く出せなくなる。
メノア自身は食べることが大好きであるため苦ではないが、小食のレーナがこのスキルだったら大変だった。
世の中には色んなスキルがあるんだなぁと三人は感銘を受ける。
「サンドイッチの次はお魚にしようかなー」
「お店を食い潰すのだけはダメですよ?」
「ちょっと、馬鹿にしてるー? この国ではまだ食い潰したことないし!」
「ララノア国ではあるんですか……」
冗談のつもりで言ったレーナだが、既に前科のあるメノアの方が一枚上手だった。
ミルド国ではそんな悲劇が一度も起きないことを祈るしかない。
「それじゃあお昼ご飯に行ってくるよ」
「はい。明日はよろしくお願いします」
「うん! 集合は十三時に中央広場ね! 遅刻したらごめん!」
メノアはそう言うと、バイバーイと手を大きく振って去って行った。
そして、五十メートルほど先にあるお店に消えていく。
国が変わってもあの人は変わらないなぁ、なんてレーナは考えていた。
ライトとアイラも面白い人だったと話している。
「えっと、その……人探しには失敗したけど、結果的には良かったかもね」
「あ、ああ。メノアさんが印象に残り過ぎてそのことを忘れてたよ」
「私も忘れてました……優しい人です」
メノアのことで頭がいっぱいだったが、マリアの探し人の件は徒労に終わってふりだしに戻った。
しかし、落ち込む暇さえ与えてもらえなかったため、そこまで精神的なダメージはない。
また一から探し始めないといけないものの、地道に焦らずやっていこう。
メノアもきっと同じことを言うはずだ。
「んー、明日寝坊しないように早めに帰ろっか? もうそろそろギルドから報酬も受け取れるだろうし」
「もうそんな時間か。よし、今日はゆっくり休もう」
「はいっ」
こうして三人はギルドへと引き返す。
今日という日の出来事を、きっと忘れることはないだろう。
そして、明日はそれ以上の日になるかもしれない。
期待でワクワクする気持ちと、少しだけ不安でヒヤヒヤする気持ち。
その日の夜、三人はいつもより一時間ほど早く床に就くのだった




