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オリハルコン製アンデッド



「とうちゃーっく。この門をくぐったらいるはずだよ。周りは崖だらけだから気を付けてね」

「貴族の墓って聞いてたけど本当に広いな。放置されてるみたいだから綺麗じゃないけど」


「建てたのは良かったけど、魔物が住み着いて手入れできなくなったって感じだね」

「何だかもったいない気持ちになりますね。せっかく豪華なお墓なのに……」


 サラヘナ高地――ハウツブルヌ家の墓前。

 目的地を見て、三人からそれぞれの感想が出てくる。

 墓地と言うには広すぎる――相当お金がかかっていそうな場所だ。


 茂みを抜ければ崖があるというところに目を瞑れば、見晴らしも良くて清々しい。

 でも、今は住み着いている魔物のせいで人が訪れないらしい。

 アイラからもったいないという言葉が出てくるのにも納得だった。


「ここから魔物は見えるか?」

「うーん、私は見えないよ。アイラちゃんはどう?」

「私も確認できません。今は寝ているのでしょうか」


 三人は敷地外から気配を殺して中を確認する。

 しかし、討伐対象の魔物を見つけることはできない。

 依頼の詳細によると、魔物はこの墓地を一年以上離れていないとのこと。


 たまたまこのタイミングで住処を捨てていない限り、魔物はこの敷地の中にいる。

 アイラの言う通り、今は寝ているというのが一番可能性が高い。

 それなら今はチャンスだ。


「よし、眠ってるうちに行こう」

「……待って、ライト。まさか私たちの存在に気付いてるとかじゃないよね?」


 ライトが門に手をかけようとしたところで。

 レーナが何か嫌な予感を感じたらしく声をかける。

 このまま中に入ったらマズい。

 冒険者としての経験と直感――レーナのそれが危険だと言っていた。


「待ち伏せてるってことか?」

「そういうこと」

「どうなんでしょう。知能が高い魔物ならありえます」


 待ち伏せ……それは魔物がライトたちに気付いているかつ、知能が高くないと成立しない。

 他の冒険者なら考えすぎだと馬鹿にする者もいるくらいの警戒だ。

 レーナでさえ魔物に待ち伏せされた経験というのはないが、この墓から感じる異様な空気がそれを警戒させる。


「でも、待ち伏せ対策ってどうすればいいんだ?」

「私が前に出てみるよ」


「え、任せても平気なのか?」

「うん、大丈夫。スピードには自信あるから」


 そう言ってレーナは門に手をかける。

 以前アイラに聞いたことがあるが、レーナの《剣聖》は《剣神》よりスピードが大きく上昇するらしい。

 それに加えてレーナの《剣聖》は熟練度もかなり仕上がっているため、より素早さが際立つ。


 流石に《剣神》に攻撃力では及ばないが、それでも現時点の総合力で言えばレーナの方が上だ。

 《剣聖》をそこまで使いこなしているレーナを褒めるべきか、それとも熟練度がほぼゼロの状態でレーナと張り合える《剣神》を褒めるべきか。


 とにかくレーナは今の自分を理解しているからこそ、囮役を買って出たのであろう。

 彼女のスピードなら、突然攻撃が来たとしても避けられるはず。ライトもその部分だけは疑っていなかった。


 数秒後――ライトはレーナの実力と勘の鋭さを知ることになる。


 実際に待ち伏せの攻撃が来たことによって。


「――レーナ!」

「――っと! ほらね!」


 誰も予想していなかった地中からの攻撃。

 レーナの足元から槍のような形状の武器が飛び出てくる。


 レーナはヒョイっとそれらを躱すが、言うまでもなく簡単なことではない。

 ここにいたのがレーナではなくライトだったとしたら、今頃大惨事になっていた。

 レーナの直感に完璧に救われた瞬間だ。


「やっぱり狙ってた。危ない危ない」

「大丈夫ですか、レーナさん……!」

「問題ないよ、アイラちゃん。あれくらいなら目を瞑っても避けられる」


 レーナはえへんと胸を張る。

 実際に目を瞑って避けられるかは置いておいて、何も怪我がなかったことは理想的だ。

 後は地中にいる魔物が出てくるのを待つだけである。


 ライトが始めて見るタイプの魔物ではあるが、隣にいるアイラから詳細は聞けばいい。

 いつ出てきてもいいように、ライトは常に攻撃が可能な体勢で魔物を待つ。


「ライト! アイラちゃんをよろしく」

「分かった。アイラ、離れるなよ」

「は、はい……!」


 レーナが前に出ているため、ライトは一歩引いたポジション。

 そして、ライトの隣にアイラがピタッとくっつく。この光景も見慣れたものだ。

 基本的にこの三人で戦闘になる際はレーナが前に出ることが多い。


 というのも、レーナは持ち前の素早さがあるため、どんな急な状況でもすぐに対応できる。

 それに加えて――天性の才能とも言えるほどに、危機に対する嗅覚が優れているのだ。

 一番魔物と近い距離で戦っているレーナだが、彼女が大きなダメージを負うところをほとんど見たことがない。


 本人の話によると、魔物の動きや呼吸などを見て戦うと次の攻撃が予測できるとのこと。

 レーナは無意識のうちにそれができているようだが、ライトからしてみれば人外じみた余裕とセンスである。


「やっぱりレーナが前にいてくれると頼もしいな」

「ラ、ライトさんも頼もしいです……!」

「ハハ、ありがとうアイラ」


 何やらアイラに変な気を遣わせてしまったが、別にライトが自分を悲観しているわけではない。

 それに、ライトが前に出るにはまだまだ不安定な要素がたくさんある。

 このスタイルが今の三人にとってのベストなのは自明だ。

 ライトは常に戦闘に加われるような距離を保ちながら、レーナと魔物の様子を窺う。


「――っ! 出てきたよ!」


 地中から出てきたのは、甲冑を着た骨型のアンデッド。

 二メートルは優に超える巨体。手にしている大剣も、アイラの身長を恐らく超えている。

 知性がある敵だと予想していたが、魔法などは一切使ってくる気配がなさそうだ。


 とりあえずあの大剣に警戒しておけば大丈夫なはず。

 周りにも他の魔物はいないため、目の前のアンデッドにだけ集中して戦おう。


「先手必勝! せやっ!」


 まずはレーナが挨拶と言わんばかりに懐に入って剣を振るった。

 流れるような剣技。

 最初の一撃さえ入ってしまえば、後はそのままの勢いで全ての攻撃がヒットする。


 レーナの剣技はついつい見惚れてしまうくらいに美しい。

 これで美しいだけならまだ良いのだが、攻撃力も並の冒険者とは比べ物にならないほどあるため恐ろしかった。


 そこら辺の鎧では、レーナの一振りにさえ耐えることはできない。

 まるで紙のようにスパッと斬れてしまうだろう。

 だからこそ、何発食らってもまだ壊れる様子を見せないアンデッドの鎧が際立って見える。


「グッ……! この鎧硬すぎ!」

「レーナ! 助太刀するぞ!」

「あ、待って! 今来たらダメ!」


 予想外の硬さに苦戦するレーナを見かねて、ライトは手伝おうと一歩踏み出す。

 《剣神》と《剣聖》の二人がかりなら、あの鎧も絶対に破壊できる。

 このままじゃレーナが危ないとライトなりに察知した結果の行動だ。


 しかし、その判断は良くなかったらしい。

 レーナが慌ててライトに止まるよう訴えた。


「あぶな――いっ! からっ!」


 アンデッドの大ぶりなカウンターを弾きながら、近付いてきたライトと一緒に距離を取る。

 もしライトがあのまま近付いていたら、間違いなくアンデッドの攻撃をまともに食らっていた。レーナの言葉がなかったらと思うと冷や汗が止まらない。

 またしてもレーナに助けられた形である。


「レーナ……助かったよ」

「ううん、ライトも止まってくれてありがとう。……それにしても、あの鎧ビックリするくらい硬かった。アンデッドが持っていていいような代物じゃないよ」


「レーナさん、あの鎧はオリハルコン製です! しかも《耐久付与》のスキルを持った職人が作っています!」

「ってことは、元々人間界で作られたものってことだよね。それをあのアンデッドが奪ったのかな?」


 レーナはアンデッドをジロジロと観察する。

 あの馬鹿げた耐久値を持った鎧は、専用のスキルを持った職人によって作られたとのこと。それならば全く攻撃が通らなかったのも納得だ。


 豪快に振りかざしている大剣も、きっとそれなりに価値を持ったものだと思われる。

 どうやって手に入れたのかは知らないが、ちょっとだけ面倒くさい。


「まあ、アンデッドにはもったいなすぎる装備だね。戦利品だけでも家が買えそう」

「ぜひともゲットしたい戦利品だな」


 レーナとライトは剣を強く握る。

 この依頼自体の報酬金もかなりのものだったが、きっと鎧の胸当てだけでもそれを超えるだろう。


 サイズが合えば使ってみたかったものの、今回は潔く質屋に持って行くしかない。

 問題はどうやってこのアンデッドを倒すかだが……


「レーナ、どうやって倒す? あの鎧のせいでまともに攻撃が通らないぞ」

「他のアンデッドと急所は変わらないはずだけど、そこが全部守られてるね」

「アンデッドだから睡魔も効かないよな……」


 今のところ有効的な戦法は見えてこない。

 骨型アンデッドの一番の急所は背骨。ここを断ち切れば、どんなアンデッドでも戦闘不能だ。


 しかし、その部位はあまりにも強固に守られているため触れることさえできない。

 うーむとレーナも唸っていた。


「レーナさん! いい考えがあります!」

「ア、アイラちゃん? 何か思いついた?」


 そんな困っている二人に声をかけたのは、後ろでずっと何かを考えていたアイラだ。

 普段のアイラなら、二人が戦っているところに話しかけることなんてなかった。


 自分との会話で戦いを邪魔したくないからである。

 鑑定の情報以外で、しかもアイラから作戦を提案するなんて初めてかもしれない。


「確か、このお墓の周りは崖だらけって言っていましたよね?」

「なるほど。そういうことか、アイラ」

「え、確かに言ったけどそれがどうしたの……あ、なるほど」


 アイラが言いたいことをライトは瞬時に理解する。そして、レーナも数秒遅れて理解した。

 いつもは臆病で消極的なアイラとは思えないほど大胆な作戦だ。


 それでも、十分にやってみる価値がある。

 ただ闇雲に剣で攻撃するよりは何倍も効果的であろう。


「それじゃあ二人とも付いてきて!」

「は、はい……!」


 作戦実行。レーナを先頭にして、三人は墓場から外に駆け出した。


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