《剣神》
「……意外と遠かったな。アイラは大丈夫か?」
「は、はい。何とか……」
ライトとアイラは、ようやく目的地の平原に辿り着く。
馬車を借りるほどのお金はないため、数時間ほど歩くことになってしまった。
普段から農民として働いているライトは問題ないが、家事がメインのアイラには辛い道のりだったであろう。
それでも文句一つ言わずに付いてきているのだから、意外に根性があるのだなぁと感心してしまう。
「目的はスライムでしたよね……? 頑張ってください、ライトさん」
「そ、そうだな。頑張るよ」
アイラの応援を受けて、ライトは持っている剣をさらに強く握る。
危険度としてはそこまで高くない平原であるが、敵地に変わりはない。
アイラを守ることも考えれば、楽な仕事とは言えなかった。
《剣神》のスキルがどこまで助けてくれるのか。
未知数の能力であるだけに、少しばかりの緊張が走る。
「――ライトさん。もしかしてあれ」
「……あ、間違いない! スライムだ!」
「三年前に生まれたスライムで、防御力に特化した個体みたいです」
「そこまで分かるのか……」
ライトよりも先に、後ろにいたはずのアイラがスライムを発見する。
これは《鑑定》の効果ではなく、アイラが持つ素の視力によるものだろう。
その視力にも驚きだが、それ以上に《鑑定》の能力の方に意識が向いた。
「ど、どうしますか……」
「先手必勝だ。やってみるよ」
そう言ってライトは、慣れない剣を構えてスライムに斬りかかる。
こうして剣を振るうのは初めての経験だ。
当然――何かを斬るのも初めての経験である。
それでも、今起こっていることが異常だということは理解できた。
(剣が軽い……! 全く重さを感じないぞ!)
まるで羽が生えたかのように、ライトは見事な剣技を見せる。
とても初めて剣を握った人間とは思えない。
スライムが何かをする暇すら与えず、一瞬で葬ることになった。
「凄いですライトさん!」
「今どうなってた……?」
「動きを目で追うだけでも精一杯でした! 防御力が高いスライムでしたけど、完璧に一刀両断していましたし」
アイラによって客観的に説明してもらうことで、ライトは《剣神》の効果を深く知ることになる。
このスキルがあれば、スライムなど何匹いたとしても蹴散らすことが可能だ。
今さらになって。
聖女が《剣聖》のスキルを持つレーナを、あそこまで必死に引き止めていた理由が分かった。
「これでスライムの一部を持って帰れば、ギルドに換金してもらえるはずですね」
「そうだな。《剣神》の確認もできたし、今日は木の実以外のご飯が食べれるかも」
「ほ、本当ですか!」
ライトの言葉を聞いて、アイラの目の色が変わる。
数日前のアイラと同一人物とは思えないほどの表情の変化だ。
この依頼を通じて、かなり距離が縮まったらしい。
口数も増え、ライトに怯えているような様子はもう一つもない。
その事実が少しだけ嬉しかった。
「帰りもまた歩くことになるけど大丈夫か?」
「はい、大丈夫で――」
『この野郎おおおおぉぉぉ!!!』
二人が戻ろうとしていると。
どこかで聞いたことのある声が、凄まじい声量で耳に入ってくる。
ただ事では無い雰囲気。
ライトとアイラは目を合わせた。
「ライトさん、これって……」
「さっきのチンピラ冒険者だな」
一瞬だけ無視しようかという考えもよぎったが、それでは心にずっとモヤモヤが残る。
仕方なく、二人は声のする方へ一歩踏み出したのだった。
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