別れ
「マリア、調子はどう?」
「もう大丈夫そうです。傷口も綺麗になりました」
「そっか! それなら良かったよ!」
マリアは巻かれている包帯を外して傷跡をレーナに見せる。
レーナとライトが急いでくれたからなのか、病気になることも傷が悪化することもなかった。
この三人に拾われていなければ、今頃自分はどうなっていたのか分からない。
マリアの心の中に、人生で初めて感謝という感情が芽生えていた。
「アイラちゃん、もう包帯は必要なさそう。ありがとね」
「分かりましたー」
「もう普通に立って歩けそう?」
「はい。問題ないです」
マリアはレーナに言われるまま、スッと立ち上がって自分の足を確認する。
やはりもう心配することはない。
これならば今までのような生活も滞りなくできるだろう。
まさか、これほど回復するまで面倒を見てもらえるとは。
人助けという域を優に超えている。
「あの、今までありがとうございました。ここまでしてもらった分は、いつか絶対に返します」
「――へ? どこ行くの?」
「もうここを出て行こうかと……これ以上迷惑をかけるわけにはいきませんし」
自分の荷物に向かうマリアの手を――アイラががっしりと掴む。
内気で常に誰かの反応を窺っているようなアイラが、だ。
それは、何かを訴えているような目であった。
「……どうしました?」
「え、えっと、その……ですね」
「マリア、人探しをしてるんでしょ? 私たちにも協力させてよ」
「ですが――」
「私も……レーナさんと同じ考えです」
二人の視線が、マリアにへと向けられる。
やはり本気で言っているらしい。
ここまでくると、もはや罪悪感にも似た感情が生まれてきた。
もう迷惑をかけるわけにはいかないという感情と、断ったらそれこそ傷付けてしまうのではないかという葛藤。
「……私が探しているのは危険な人物です。本当にそれでもいいんですか?」
「危険?」
「そうです。もしかしたら、レーナさんたちにも刃が向けられるかもしれません」
一瞬だけ二人の言葉が止まる。
その時間を狙って、マリアは話を続けた。
「隠していてすみません。アナタたちを危険なことに巻き込みたくはないです。どうか分かってください」
「……マリアは一人で大丈夫なの?」
「はい。元々私一人の戦いですし、アナタたちが助けてくれたおかげで立て直すことができました」
「そっか……」
と、レーナが呟く。
アイラはどうしたらよいのか分からずに、レーナの様子を窺っていた。
出て行くなら今しかない。
そう判断したマリアは、自分の荷物を取って扉に手をかける。
「ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう」




