お人好し
「マリア! 薬買ってきたよ!」
「ま、まさか本当に……」
「何言ってるの。当たり前でしょ?」
驚いているマリアをよそに、レーナはポンと軽く薬を手渡す。
素人目であるが、かなり効果が期待できそうな薬だ。
当然値段も張るはずだが――レーナはそんなことを一切感じさせない。
「……申し訳ないです。ありがとうございます」
「気にしなくていいよー。アイラちゃんも遅れてごめんね?」
「わ、私は全然大丈夫です! マリアさんと話していましたから」
そこで。
アイラはチラリとマリアの方を見る。
咄嗟に名前を出してしまったため、マリアの反応が気になっているようだ。
不快な思いをしていないか――と、心配そうな気持ちが伝わってくる。
臆病と言うべきか、自信がないというべきか。
何も問題ないということを伝えるために、マリアは慣れない微笑みを見せておく。
「とりあえず、マリアの怪我が治るまで様子を見ないと。何か困ったことがあったら言ってね」
「あの、マリアさんはこの国に来たばかりみたいです。ですので……」
「え? そうなんだ」
アイラの言葉に、レーナは少しだけ考える素振りを見せた。
この国に来たばかりということは、服も家も、最悪の場合は食事さえ取れない可能性だってある。
マリアの性格で、自分たち以外の誰かに頼る姿が想像できない。
そのまま放っておくのは無責任ではないのか――そんな考えがレーナの頭に浮かぶ。
「マリアって冒険者? この国に何しに来たの?」
「私は……冒険者ではないです。この国には、とある人間を探しに来ました」
「人探し?」
「はい。その人間を探し出すことができれば、私は自分の国に帰ることができます」
と、マリアは言った。
「凄い! 人探しだって、ライト!」
「それで国を跨ぐって珍しいな。そんなに大事な人なのか?」
「……まあ、そんな感じです」
ライトの質問には少々気まずそうに答えるマリアだったが、これで二人の興味が消えることはない。
むしろ、マリアを応援したくなったほどだ。
「そういうことなら私たちも手伝うよ!」
「……!? いえいえ、そこまでしていただかなくても」
「大丈夫大丈夫! 報酬もいっぱい貰ったから、少しの間暇だし」
マリアは慌てて断ろうとするが、レーナはその程度では止まらない。
隣にいるライトとアイラに目を向けてみても、レーナを止めようとする動きは見られなかった。
三人して本気で手伝おうとしているらしい。
本当に度が過ぎたお人好しだ。
「マリアの怪我が治ったら、一緒に探しに出てみようよ!」
「は、はい……」
レーナの放ったこの一言は、マリアの頭の中にずっと残っていたのだった。




