戦意喪失
「痛かった」
ヴァンパイアの第一声は、あまりにもシンプルな言葉だった。
貫かれたお腹の辺りをさすって、ライトとレーナを見つめている。
明らかに致命傷となるほどのダメージだったはずだが、目の前のヴァンパイアは何事もなかったかのようにピンピンしていた。
それどころか、その腹部には傷さえ残っていない。
血で汚れたはずの服まで修復されており、まるで数分前に戻ったかのようだ。
「アナタたち誰? こんな真昼間に何の用?」
「俺たちは冒険者で……君を倒しに来たんだ」
ライトは少し気まずそうに目的を伝える。
考えてみれば、討伐対象に宣戦布告のようなことをした試しがない。
大抵は、宣戦布告をする前に戦いが始まってしまうからだ。
自分の名を名乗ってから戦いを始めるという美学も持っていなかった。
そして、これに限ってはヴァンパイアの方にも問題はある。
目の前には武器を持った二人組がいて、なおかつ攻撃されているのにも拘わらず、まだ何が起こっているのか分からないものなのだろうか。
寝ぼけているだけならまだしも、本当なら察しが悪すぎる。
「……戦いたくない。アナタたち強いから」
「……え?」
「どういうこと?」
あまりにも衝撃的なセリフが、ヴァンパイアの口から飛び出す。
一体このヴァンパイアは何を言っているのか。
さっきから予想外のことが続きすぎて、攻撃を始めることができない。
これが作戦なのだとしたら、人間の心理をよく分かっていると言えるが――。
実際はそうでもなさそうだ。
「アナタたち強いから、戦ったらきっと何回も殺される。剣で斬られるのは痛いから嫌」
「何回も殺されるって、君は不死身ってことか?」
「うん。寿命が来るまで、私は死なない。そういう種族スキル」
と、ヴァンパイアは言った。
どうやら一度攻撃を食らったことで、自分とレーナとの力の差を把握したらしい。
絶対に勝てない敵を相手に戦ったら、当然自分は殺される。
そして、生き返り続ける限り自分は殺され続ける。
それなら最初から戦わない方が賢いと判断したのだろう。
確かに納得はできる思考だ。
「……でも、私たちも報酬が貰えなくなるから」
「どの部位が欲しいの」
「え? えっと……耳?」
レーナの答えを聞くと、ヴァンパイアはその鋭い爪で自分の耳を切り落とす。
その瞬間に、服の中から飛び出してくる一匹のコウモリ。
切断された箇所へとくっつき、ポンと音を立てて耳に変わった。
凄まじい再生方法である。
「ライト……これ」
「ああ、どうしよう」
頭が追いつかない状況に。
レーナもライトも、しばらく困った表情を見せるだけだった。
応援、本当にありがとうございます!
『面白そう』『次も読みたい』
と少しでも思って頂けたら励みとなりますのでブックマーク登録や評価、感想をいただけると嬉しいです。
特に下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けるとモチベが上がりますので宜しくお願いします!




