揉め事
「ライトさん、どうでしたか?」
「依頼は簡単に受けれたよ。剣も貸してもらったし――アイラも借りるか?」
「いえ、私は遠慮しておきます……」
無事に依頼を受けたライトは、少し離れたところで見守っていたアイラの元へ戻る。
農民ゆえに受注を拒否される可能性もあったが、どうやら杞憂に終わったらしい。
念には念を入れて、数ある依頼の中でも最低レベルの依頼を受注したため、アイラが大怪我をすることはないだろう。
決して満足とは言えない装備であるが、無料と考えると目をつぶれる程度だった。
「それじゃあ行ってみるか」
「はい、ライトさん」
そういって一歩踏み出そうとしたところで。
ライトの肩に小さな衝撃が走る。
別の冒険者とたまたま接触したようだ。
今日はかなり混み合っているため仕方がない。
振り返ったライト目線の先には、いかにも新人そうな装備をした冒険者がいた。
「――いってぇ。どこに目をつけてんだ」
「当たってきたのはお前の方だろ」
「はぁ? 冒険者ならそれくらい避けろ――って、冒険者じゃねえな? なんだその装備」
新人の冒険者は、ライトの全身を見てもう一度頷く。
流石に新人といえど、ライトが冒険者ではないことを見抜いたらしい。
まともな防具もなく、なまくらの剣を持っていれば、かなりこのギルドでは浮いた存在だ。
その時点でライトが格下であると判断し、ニヤニヤとふざけた表情に変化していった。
「おい、ここは冒険者でもないやつが来るとこじゃねえぞ。その妹連れてさっさと帰れよ」
「ジーン、こんなところで変なやつに絡むな。時間がないって言ったのはお前だろうが」
「ったく。あーあ、テンション下がった」
ジーンと呼ばれた新人の冒険者は、仲間と思われる存在に手を引っ張られながら遠ざかっていく。
その声が聞こえなくなる瞬間まで、ライトたちの悪態をつく言葉は続いていた。
揉めなかっただけマシなのか。
全員が全員あのような者ではないだろうが、かなりモヤモヤとした気持ちが残ってしまう。
「ライトさん……大丈夫でしたか?」
「ああ。まさかあんなやつに絡まれるとは思ってなかったけど」
「あの人のスキル……筋力が少し増加するかわりに、命中率が著しく下がるみたいなんですけど、教えてあげた方が良かったのでしょうか」
「それは……まだ知らないみたいだし、教えない方が本人のためかも」
その情報を、二人はそっと心の中に留めておく。
あの様子だと、ジーンと呼ばれていた冒険者は今回が初めての仕事なのであろう。
お前のスキルは外れだとわざわざ伝えに行くほど、ライトの性格はひねくれていない。
「……さて、出鼻はくじかれたけど出発するか。アイラはあまり敵の前に出ないようにな」
「は、はい!」
先が思いやられる出発であったが、何とかライトは気を取り直して一歩踏み出す。
試し斬りと生活費を稼ぐことができるまたとないチャンスだ。
隣で同じように緊張しているアイラを連れながら、ライトは平原に向かうことになった。
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