不運
「おいおい、やっと起きたか」
「……あ? 俺は何を」
「マジか、覚えてないのかよ。グリーズ、お前新人に瞬殺されてたぞ」
「はあ?」
眠りから覚めたグリーズは、辺りを軽く見回す。
外はもう暗くなり始めており、ギルドにいる冒険者の数も減っていた。
自分はどれほどの時間気を失っていたのだろうか。
当然、揉めていた新人の姿はもうどこにもない。
「ちげえよ、俺は負けてねえ。なんか急に眠くなったんだよ」
「いや、言い訳にしてももっとマシなのがあっただろ」
ハハハ――と、仲間は軽く笑う。
グリーズの言い分に間違いはない。
しかし、それは他人からしてみれば言い訳でしかなかった。
「それより、これからお前どうすんだ? 新人潰しが新人に潰されたってみんな騒いでたぞ」
「は?」
「あんだけ騒いでたら、もう結構広まってるだろうな。なんたってグリーズが負けたんだから」
「負けてねえっつってんだろ!」
グリーズは怒りをあらわにして仲間を突き飛ばす。
ようやく頭が怒りに追いついてきた。
どのような技を使ったのか分からないが、あの新人たちは自分に恥をかかせたらしい。
ギルドから警告を受けていたため、少し優しく接してやっていたらこの結果だ。
その分理不尽な怒りが込み上げてくる。
「……いってて」
「お前は先に家に帰っとけ」
「お。もう報復しに行くのか?」
「アイツらボコボコにしたら、勘違いしてる馬鹿どもも気付くだろ」
グリーズは怒りの感情のままに立ち上がる。
そして、今日中にあの新人を探し出すことに決めた。
特徴的な三人組であるため、見つけること自体に時間はかからないであろう。
特にあの金髪の女は鮮明に覚えている。
「チッ、あのクソ野郎どもが」
そうと決まればグリーズの行動は早い。
ギルドの扉を乱暴に開け、人通りの少ない路地に入った。
この辺りにいるチンピラを使えば、効率的に探すことができるはずだ。
少々借りを作ってしまうことになるが、今のグリーズにはどうでもいい。
「……お?」
そんなグリーズの目に入ったのは、何故か人通りの少ない路地にいる黒髪の女。
その雰囲気から見るに、チンピラではなさそうだ。
それにこの辺りではなかなか見かけない服装――恐らく他国からの観光者だろう。
この路地に迷い込むとは程度を超えた方向音痴であるが、観光者であるのならば都合がいい。
観光ということは、間違いなくこの辺りを歩き回っているということである。
あの金髪の女を見かけた可能性は十分にあった。
「おい、そこの女。聞きたいことがある」
「……何でしょう」
「ここらで金髪の女を見かけなかったか?」
「金髪の女?」
「ああ、生意気そうな顔の女だ」
「知りませんね。でも、丁度良かった」
その口から出てきたのは、グリーズの期待に反するものだ。
一体何が丁度良かったのか。
それを聞こうとする前に、黒髪の女の方から喋り始める。
「アナタ、この街に詳しそうです。私の質問にも答えてくださいませんか?」
「は? どういうことだ?」
「それはこれからゆっくり話しましょう?」
そう言うと、黒髪の女はどこからか取り出したナイフでグリーズの足を裂く。
「ぐおっ!? な、なんだお前!」
「私はマリアといいます」
マリアという名前を聞いてからすぐ。
グリーズは何かで強く殴られ、その場にドサリと倒れる。
運が良いのか悪いのか。
今日だけで二回も気絶を体験することになった。
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