マリア
「……」
「こんにちは、マリア。何年ぶりだっけ」
「……こんにちは」
聖女の葬式会場にて。
ギルドマスターは聖女の娘であるマリアに声をかける。
聖女が襲撃されてから二週間――結局治療が間に合うことはなかった。
候補である農民たちに協力を仰いだものの、誰も助けようとした者はいない。
それなりの報酬を提示していたのにも拘わらず、誰一人この街にやって来ようとしなかったのだ。
この事実だけで、聖女がどれほど農民たちから嫌われていたのかが分かる。
自業自得、因果応報、身から出た錆。
この街に来たのは、そのような内容が書かれた手紙だけ。
「お母さんのことは残念だったね」
「……はい。でも、いつかは起きることだったと思います。お母さんは多くの人に恨まれていましたから」
「そ、そんなことは――」
「いいんです。届いた手紙も見ましたし、噂話も聞く機会がありました」
「…………」
マリアの言葉に、ギルドマスターは何も言うことができない。
最初は気を遣おうとしていたが、マリアが本当のことを知っている以上、それはむしろマイナスな効果になるだろう。
ここで自分はどういう言葉をかけるべきなのか――ギルドマスターは頭を悩ませる。
「あー……その、何というか」
「ギルドマスターも気付いているでしょう。これまでにお母さんは、裏で何人も殺してきました。自分の都合で人間を処分したこともありました。報復されて当然の人間です」
「……それに頷くことはできないけど」
ギルドマスターは反応に困った様子を見せる。
まさか娘からこのような言葉が出てくるとは考えてもいなかったのだ。
昔のマリアを知っているが、その時も何を考えているか分からない雰囲気。
過去に一度だけマリアの心を読み取ろうとしたことがあるものの、その時は暗いモヤモヤしか確認することができなかった。
恐らく現在も同じようなことになるであろう。
「とにかく、犯人はボクの方でも探してみることにするよ。だからマリアは――」
「必要ありません」
「え?」
マリアはベンチから腰を上げて、フワッと黒い髪をなびかせる。
「お母さんを殺した女は自分で探します。きっともう国の外にいるでしょうが」
「ちょ、ちょっと! 待ってよ――」
「邪魔しないでください」
引き止めようとしたギルドマスターの手を。
マリアは隠していたナイフで軽く傷付ける。
「――っつ!?」
「……お母さんは殺されて当然ですが、それを許すとは言っていません。ギルドマスター、貴女は犯人の女と近い関係であることも知っています。邪魔をするなら本当に殺しますよ」
ゾワリと走る悪寒、そして手の鋭い痛み。
ギルドマスターは何も言うことができない。
もし邪魔をしたなら、本当に殺されると分かったからだ。
その背中――遠くなっていく背中を。
ただただ見ていることしかできなかった。
これから四章が始まります。
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