聖女視点
「…………」
聖女は困惑していた。
何とか心を落ち着かせるよう、隣に用意している水に口を付ける。
今回の敵である邪龍が想定よりも遥かに強いのだ。
結界の張ってある安全な場所で邪龍の動きを確認しているが、その迫力はひしひしと伝わってくる。
その場にいる冒険者たちはどれほどのプレッシャーを感じているのだろうか。
戦場に立つ機会が少ない聖女には、到底想像することができない。
「聖女様。このままでは我々が負けてしまいます」
「……詳しい状況を教えてください」
「はい。並の冒険者たちは邪龍に蹴散らされ、今はSランク冒険者のバロンド様とレーナ様が持ちこたえている状況です」
従者から入ってくる情報。
恐らくそれらは何一つ間違っていない。
この位置からでも、冒険者たちの死体がいくつか確認できる。
そして、最前線で邪龍と応戦している者が二人。
それがバロンドとレーナだ。
「あの二人が負けるということですか?」
「今のままでは……しかし、分からないことが一つだけあります」
「というと?」
「バロンド様とレーナ様は、あえて邪龍に攻撃をしていないように見えるのです」
はあ? と聖女は聞き返す。
最初は何かの冗談だと疑ったが、従者の顔を見ると大真面目な表情だ。
あえて攻撃していないとはどういうことなのか。
考えてみるものの、答えは出てきそうにない。
「どういう意味ですか? 私には攻撃をしない理由が見当たらないのですが……攻撃をしないことでメリットがあるのでしょうか?」
「それは……私にも分かりません。ですが、お二人は攻撃をしないように立ち回っているとしか思えません。何か……時間を稼ぐような」
従者の口調は段々と弱くなっていき、最後には下を向いて自信なさげな表情に戻る。
意見することをやめ、聖女の圧に屈した形だ。
「……結局状況は変わりません。あの二人が苦戦しているのなら、こちらも何か手を打たねば――」
そう聖女が話をまとめようとしたところで。
邪龍の大きな咆哮が聖女の耳に届く。
これは威嚇のようなものではない。
どちらかというと、痛みに反応しているものだ。
聖女はすぐに邪龍の方へ目を向けた。
「――あ、あれは!」
聖女の目に映ったのは、バロンドでもレーナでもない一人の男。
その男は、邪龍の腕を斬り落として怯ませている。
剣を持ったその姿は、レーナ以上の力強さを感じた。
これほどの男がこの国にいたというのか。
潜在的な力で言えば、《剣聖》よりも恐らく上だろう。
「……まさか」
男の顔には見覚えがある。
二か月ほど前――確か《木の実マスター》を獲得した農民。
二度と会うとは思っていなかった人物。
――ライトだった。
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