《鑑定》
「おはようございます、ライトさん」
「おはよう、アイラ。熱はもう下がったか?」
「はい、もう大丈夫みたいです」
二人がスキルの実を口にしてから一日。
いつも通り早朝に目を覚ましたものの、農業どころの話ではなかった。
とりあえずアイラの体調が良くなったことに安堵すると、ライトはため息を一つして椅子に座り直す。
アイラも昨日のことはしっかりと覚えているようだ。
「突然のことでびっくりしただろうけど、アイラが昨日食べた木の実はかなり特殊な木の実だったんだ」
「一つ特別な能力を付与するってことですよね……?」
「そうだ。アイラは俺が持っているスキルが分かるか?」
「《木の実マスター》と《剣神》……だと思います」
そのアイラの言葉でライトは確信する。
やはり昨日考えたことは間違っていなかった。
ライトだけでなく、アイラもスキルの実を口にしていたらしい。
自分の説明不足で起きた事故であるため、少しの罪悪感が生まれてしまう。
アイラが怒っている様子はないが、謝罪の言葉は一晩中ベットの中で考えていた。
「私のスキルは《鑑定》みたいです……その者の詳しい情報が分かるって書いてます」
「やっぱりそうか……」
《鑑定》――アイラの目には、その者のスキルが詳細に表示されているのであろう。
《木の実マスター》という木の実にしか能がない外れスキルを見られるのは恥ずかしいが、もう一つの《剣神》にはかなり興味がある。
持ち主にも分からない能力があるのだろうか。
実際に《木の実マスター》の能力は、木の実の収穫速度の変化だけだと勘違いしていた。
アイラの正確な鑑定能力は、唯一無二のものなのかもしれない。
「そ、それじゃあ、《剣神》のスキルって使えるスキルなんだよな……?」
「えっと、剣を手にした時の攻撃力が凄くなって、魔法に対する耐性も上がって…………実際に戦ってみた方が分かりやすいと思います」
「お、おう」
投げやりになる形で説明を放棄するアイラ。
言い切るのが嫌になるほど沢山の効果を含んだスキルなのか、それとも口では説明しにくいような効果なのか。
どちらかは不明だが、実際に試した方が分かりやすいというなら従うしかない。
「どうせ試すなら金を貰えた方が良いよな……魔物退治の依頼を受けてみるか」
「でも、ライトさんは農民ですけど、大丈夫なのでしょうか」
「確か依頼を受けることは冒険者じゃなくてもできたはずだよ。何日か家を空けるけどお金はギリギリあるから――」
「わ、私も付いて行きます!」
アイラは食い気味に同行しようと提案する。
曲がりなりにも魔物が相手であるため、アイラと共に行動することは微塵も考えていなかった。
この場合、どうすることが正解なのだろうか。
アイラの様子を見ていると、付いて行きたいというよりかは、一人になりたくないという思いが感じられる。
このアイラを無視して置いて行けるほど、ライトの心は鬼ではない。
「本当に良いのか?」
「はい。大丈夫です」
そうか――とライトは納得しておく。
心做しか、アイラもホッとしているように見えた。
今回は試し斬りが目的であるため、昼間の低レベルな魔物が相手の予定だ。
アイラがいたとしても苦戦することはないだろう。
そして何よりも、アイラが初めて自分の意見を通す機会である。
「……じゃあ明日のために準備するか」
「分かりました!」
どういうわけか。
今まで見たことのない意気込みを見せるアイラだった。
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