完成
「先生! 実りました!」
「っそうか! どれどれ」
ライトは実ったばかりの木の実を取り、準備していた医者の前に差し出す。
アイラが危険な状態になるまで残り数時間。
調整できる時間はほとんど残されていない。
このチャンスを逃してしまえば、もう絶望的な状況だった。
だからこそ、ライトの体に緊張が走る。
「……どうでしょうか?」
「ちょっと待っててね」
落ち着かないライトとは対照的に、医者は冷静に器具を取り出し、新しくできた木の実を切り取って調べる。
普通に暮らしていれば見る機会がないような色の液体。
何をするための道具なのかちっとも分からない鉄の箱。
そして実験用のネズミ。
それらの過程を全て終わらせると、医者は大きく息を吐き出して椅子に座った。
「……成功だ」
「ほ、本当ですか!」
「……ああ、間違いない。これが世界で唯一トサトンキンを分解できる木の実だ。まさか成功するとは……これは革命と言っても過言じゃないよ。学会で発表でもすれば、世間は大騒ぎになるだろうね。同時に悪用される可能性まで存在するから、慎重に考えないといけない問題でもあるんだけど――」
「先生! とりあえずアイラを!」
「おっとと! すまないすまない」
ライトの言葉によって。
医者は木の実を一口サイズに切り分けると、器用にアイラの口の中に入れる。
僅かに意識が残っているアイラは、苦しそうな顔をしながらも、その木の実をゴクンと飲み込んだ。
もし本当に成功しているのであれば、アイラは目を覚ますはずだ。
ライトと医者は、その瞬間をじっと待ち続ける。
「……ラ、ライトさん?」
そして。
木の実を飲み込んでから数十秒。
アイラは眩しそうに目を開け、ライトの顔の方を見た。
「良かった……治ったんだな」
「何かあったのですか――いてて」
起き上がろうとしたアイラは、そのままズキンと痛んだ頭を押さえる。
まだ動き始めるには早いらしい。
無理をしているというのがすぐに分かった。
「ああ。まだ動いちゃダメだよ、アイラちゃん。しばらくは安静にしてないと」
「私……どうなって」
「アイラ。それは後で話すから、今は休んでてくれ」
「……よく分からないけど分かりました」
アイラはもう一度寝かせられ、毛布をしっかりと肩までかけられる。
このような状態だとしても、これまでのように物分かりは良いままだ。
特に後遺症もなさそうなため、ライトはようやくホッと胸を撫で下ろす。
ちょうどそのタイミングで。
外から何かが破壊されるような音が響いてきた。
「外では始まったみたいだね。怖い怖い」
「そうですね。俺も行かないと」
「……忙しいね、ライト君。月並みな言葉だけど、頑張って」
「はい!」
ライトに休んでいる時間はない。
すぐに向かえるよう準備していた剣を持ち、外に出るため扉を開ける。
今はレーナがたちが持ちこたえているはずだ。
邪龍との距離はそこまで離れていない。
最後に振り返ってアイラを確認すると。
ライトは急いで走り出した。
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