当日
「やあ、レーナ。来てくれたんだね」
「はい。仕事ですから」
当日。
多くの冒険者が集められたギルドで。
ギルドマスターは、レーナを見かけると小さく手を振りながら近付いてくる。
邪龍との戦いにレーナの力は必要不可欠だ。
もしここに穴が開いてしまうと、そのカバーには百人以上の冒険者が必要だろう。
「悪いね、そっちも忙しいのに」
「大丈夫です。それに、忙しいのはお互い様じゃないですか」
「まあね。ボクも三日間寝ないのはキツかったよ」
ギルドマスターは目を擦りながらアハハと笑う。
ずっと邪龍の対応に追われていたのでは無理もない。
寝る暇など存在するはずがなかった。
いつものように余裕を見せているが、肉体的にはかなり疲労しているのだろう。
「そうだ。レーナの方は何か進展あった?」
「……残念ですが、まだ犯人は見つかってません」
「そうなんだ……この戦いが終われば、ボクもできるだけ協力するよ」
頼もしいギルドマスターの言葉に、レーナはコクリと頷く。
まずは邪龍を倒さなければ何も進まない。
レーナは緊張しながら戦いの始まりを待っていた。
今回はこの街で戦いを行うことになるため、逃げるという手段が使えないのだ。
勝利か敗北――必ずどちらかの結果になる。
負ければ多くの人間が犠牲となるため、絶対に勝たなくてはならない。
「ギルドマスターは勝てると思いますか?」
「五分五分かなぁ。レーナが圧倒されるくらいだから、こっちもただでは済まないのは分かってるけど」
「……負けられませんね」
「うん。市民には避難してもらってると言えど、確実に安全ってわけじゃないし」
「はい。先生も私を信じてこの街に残ってくれていますし」
「え?」
ほんとに? ――と、ギルドマスターは驚きの表情を見せる。
「本当です。あの研究室じゃないと、アイラちゃんを助けるのが難しいらしくて」
「へえー。ボクも何度かお世話になったことがあるけど、あの先生は本当に名医だね」
「ギルドマスターも診てもらったことがあるんですか?」
「一応ね。痛んだパンを食べてお腹壊しただけだったけど、薬貰ったら一瞬で治っちゃった」
意外なところで明らかになった事実。
お互いの知り合いであるからこそ、余計に負けるわけにはいかなくなった。
「――お、おいっ! 見ろ!」
「――な、なんだよ、あれ!」
「――こんなの初めてだぞ……」
そして。
雑談にも似た話をしているうちに、空が黒い雲に覆われていく。
困惑する冒険者たちの声。
この場にいる冒険者のほとんどが、一歩だけ後ろに下がる。
完全に邪龍に気圧されている状態だ。
「来たね。レーナ、準備はいい?」
「もちろんです」
そんな中で、レーナだけが一歩前に踏み出したのだった。
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