アイラのスキル
「あの、大丈夫ですか……?」
「…………」
「ラ、ライトさん?」
「――あ、あぁ。大丈夫」
心配そうにライトを見つめるアイラ。
何が起こっているのか――詳しいことは分からないが、自分が関わっているということだけは理解できる。
ライトの言葉からすると、自分が料理に使ったスキルの実が問題らしい。
自分は美味しいと感じたが、もしかしたら味付けに失敗しているのかもしれない。
それにしても、ここまでオーバーに嫌がられるとは思っていなかった。
「えっと、お口に合いませんでしたか……?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。何というか、俺がこれを食べたら死ぬはずなんだけど――」
「ア、アレルギーですか!? すみません! すみません!」
ライトの話を詳しく聞かず、アイラは何回も何回も謝る。
農民として、相方のアレルギー食材を知らないことなど有り得ない。
ライトに迷惑をかけずに生活できていると喜んでいた矢先――気の緩みから大失敗をしてしまった。
捨てられた過去を思い出し、その謝罪にも必死さが表れている。
「いやいや、違う……けど違わないというか。説明が難しいな」
「す、すみません……」
「このスキルの実は、一度食べたならもう二度と食べることはできないんだ。だけど今間違えて食べて――何も起こらないから困惑してる」
何も知らないアイラに、何とか分かりやすくしてライトはスキルの実を説明する。
そして今の状況を言葉で表したことで、頭が冷えて冷静になることができた。
その疑問は、どうして自分は死んでいないのかということから始まる。
あの聖女の言っていたことが嘘とは到底思えない。
わざわざそんな嘘をつく理由も見当たらず、聖女以外の人間からもスキルの実の中毒について話を聞いたことがあるからだ。
「いたっ……いたた」
「ど、どうしたんだ? アイラ」
「急に体が熱くて、ちょっと頭痛が」
突然アイラは熱と頭痛を訴える。
自分のことばかり考えていたライトは、今になってようやくアイラのことを考え始めた。
アイラもライトと同じようにスキルの実を口にしたのだ。
つまり、何かスキルを一つ獲得したということである。
一個目ならば命に別状はないはずだが、アイラは体が成長しきっていないため、どのようなイレギュラーが起こるか分からない。
現状どうすることもできないライトは、その様子を見ていることしかできなかった。
「――あっ」
そこで。
何かが途切れたようにアイラは声を漏らす。
やはりアイラにスキルの実はまだ早かったようだ。
ライトが心配して背中を支えると、本当にその体は風邪を引いた時のような熱を持っていた。
「だ、大丈夫か?」
「はい……」
「そうか……良かった。俺は食べても死なないし、アイラは苦しそうだし、スキルの実って訳が分からないな」
ライトは、立て続けに起こるおかしな出来事に愚痴をこぼさずにはいられない。
何よりも頭に残っているのは、どうして自分は死んでいないのか――だ。
できれば二度と会いたくない顔だが、あの時の聖女に相談した方がいいのかもしれない。
そんなことを考えている時だった。
「ライトさんの《木の実マスター》は、どんな木の実の毒も無効化できるみたいです」
「え?」
朦朧とした意識の中、アイラはライトを見つめながらスキルの能力を伝える。
それは、ライト自身も知らなかった能力であり、アイラが知っているはずのないことだ。
アイラの話が本当だとするならば、ライトはスキルの実を何個も食べることができるということになる。
そんなことが有り得るのか――疑う気持ちもあるが、自分が死んでいないという事実が信憑性を底上げしていた。
「どうしてアイラは分かったんだ?」
「えっと……ライトさんの顔を見たら急にその言葉が浮かんできました。でも、ライトさんはもう一つスキルを持っているみたいです……」
ライトは息を飲む。
どうやら、ライトが先ほど獲得したスキルまで見抜いているらしい。
アイラもスキルの実を食べたことによって何かスキルを獲得したのだろう。
恐らく鑑定系のスキル。
戦闘系ではないものの、スキルの隠れた能力まで分かるのだとしたら非常に強力なスキルだ。
それをアイラにどう伝えるべきなのか。
ライトは言葉が出てこない。
とにかく。
この後は、熱を出したアイラの看病に付き添うことになった。
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