スキルの実
スキルの実。
それは、食べた人間にスキルを与える特別な木の実である。
この実を食べた瞬間に、これからの人生が決まると言っても過言ではない。
戦闘系のスキルを得ることができれば、冒険者として大金を稼ぐことが可能だ。
逆にそれ以外のスキルになると、そのスキルに応じた職業に就くことになる。
冒険者とその他の職業では、稼ぎに圧倒的な差があるため、大半の人間は戦闘系のスキルを得られるように祈っていた。
「ライト! どんなスキルになるか楽しみだね!」
「そうだな。戦闘系のスキルだと良いんだけど」
これからの人生が決まるであろう瞬間を、レーナとライトは緊張した様子で待ち続ける。
幼なじみとして子どもの頃から一緒に過ごしてきた二人は、第二の人生と呼ばれるこの日まで結局離れることはなかった。
「レーナはどんなスキルが欲しいんだ? やっぱり戦闘系のスキルなのか?」
「……うーんと。実はまだ決めてないんだー。ライトと同じようなスキルだったらいいなーって」
美しい金髪を揺らして、レーナはライトの質問に答える。
昔からずっとそばにいたライトからすれば、その答えは意外なものでも何でもない。
レーナは、いつも選択肢をライトに委ねる癖がある。
面倒見のいい性格のライトも、特にそれを拒むようなことはしなかった。
そのせいか、レーナは大人になった今でも、自分で考えることが苦手なままだ。
「そうか。俺は冒険者になる予定だから、レーナも一緒だといいな」
「うん! あ、もうそろそろ私たちの番みたいだよ!」
次の方――という聖女の声を聞いて、ライトとレーナは扉を開ける。
口では気にしていない風でも、体はしっかりと緊張しているらしい。
手をかけた扉から伝わる冷たさが、ライトの心臓をドキリと鳴らした。
「おはようございます。これからスキルの実を貴方たちに授けますが、絶対に守らなくてはならないことが一つありますので、良く聞いておいてくださいね」
「は、はい!」
レーナの元気な返事を聞くと、聖女は淡々とした様子で台本を読んでいるようにセリフを続ける。
「このスキルの実は、人生で一度しか食べることができません。もし二個目を食べたとしたら、中毒で確実に死んでしまうことになります」
「そ、そうなのですか……?」
「はい。かつて、自分の気に入らないスキルを得たために、やり直そうとして二個目を食べた愚か者もいます。勿論その愚か者は死にました」
ゴクリ――と、レーナは唾を飲み込む。
死んでしまうと聞いて、無意識のうちに恐怖を覚えているのだろう。
ここまで表情に出るタイプも珍しいようで、聖女もレーナの姿を見て面白そうにしていた。
「ではどうぞ。スキルの鑑定も同時に致しますので」
「あっ、どうも……」
手際の良い流れ作業で、運命の瞬間はいつの間にか訪れてしまう。
最初にスキルの実を渡されたのは、ライトではなくレーナの方だ。
レーナとしては、ライトが食べた後に自分も食べる予定だったらしく、困惑したようにチラチラとライトの顔を見ている。
「……えいっ!」
結局。
数秒の後に、レーナは覚悟を決めてスキルの実を飲み込んだ。
「――! これは……!」
さらにその数秒後に、今度は聖女が驚きの声を上げる。
一体何が起こったのか――それは、ライトが聞くまでもなく聖女が喋ることになった。
「《剣聖》のスキル……まさかこんなところで目覚めるなんて……」
「え? けんせい?」
「貴女は選ばれし者です。そうですね――えっと、お話することがありすぎて……とりあえず、この後残っていてください。お願いしますよ」
釘を刺すように。
聖女はレーナにこの場に留まるよう指示をする。
見事レーナが引き当てたのは、ライトの狙っていた戦闘系のスキルだ。
このままライトも戦闘系のスキルを得ることができれば、レーナと同じ冒険者になることができる。
興奮している聖女の前に立ち、ライトはスキルの実を受け取った。
「ラ、ライトも戦闘系のスキルだといいね!」
「あぁ」
すぐにでもレーナに追いつくため、ライトは躊躇うことなくスキルの実を飲み込む。
体が熱くなる感覚。
今自分にスキルが付与されていることを理解できた。
「――っつ」
ズキンという頭の痛みを受け入れ、ライトは聖女の鑑定結果を待つ。
「……はい。貴方のスキルは《木の実マスター》ですね」
聞いたこともないそのスキルに。
レーナもライトも、固まることしかできなかった。
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