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分身・増殖ネタ短編/中編

宿泊レポート:ヒルベルト無限旅館

【はじめに】

 元号を跨いだ超長期休暇、皆様はどのように過ごされましたでしょうか。今まであまり纏まった休みが取れず、なかなか長期休暇を満喫できなかった私ですが、今年は奇跡的に10連休を取ることができましたので、以前から気になっていました和風旅館『昼辺(ひるべ)瑠斗(ると)無限旅館』へお邪魔する事にしました。

 あまり聞き慣れない、少しマイナーな旅館かもしれませんが、この機会を使って皆様にその魅力をたっぷり紹介したいと思います。


 なお、無限旅館内で撮った写真や動画をネットに掲載するのはNGとなっておりますので、宿泊の際には十分ご注意ください。

 

【旅館の外見・アクセス方法について】

 昼辺・瑠斗無限旅館があるのは、美しい緑に彩られた「昼辺(ひるべ)山」・「瑠斗(ると)山」と言う双子の山を臨む渓谷沿い。

 まるで双子や鏡合わせのように寄り添ったそっくりな山が、旅館へ向かう目印となっています。


 車で直接向かうと狭い細道を長時間進む必要がありますので、近くの町を通っています地方私鉄の電車に乗り、最寄り駅から直接女将さんが運転する送迎バスを用意してもらうのをお勧めします。勿論バスの料金は無料ですのでご心配なく。



 女将さんの案内で入口に向かうと、目の前に現れるのは『無限旅館』と言う名前の意味が瞬時に理解できる和風の建物。

 『巨大』という言葉が安っぽく感じてしまうほど、地平線のはるか彼方まで左右果てしなく続く、尋常じゃないほどの大きさの建物が、私たちを出迎えてくれます。

 人によっては心臓が飛び出そうなほど驚く光景ですが、いざ中へ入りますと(良い意味で)普通の和風旅館と同様、落ち着いた雰囲気の受付や土産物の売店などが並んでいますのでご安心を。


 なお、急な来訪にも対応していますが、()()()()()()()など万が一の危険や様々な事情もあるので事前に予約を入れてほしい、という女将さんからの伝言を預かりましたので一緒に記しておきます。



【部屋について】

 『無限旅館』の名の通り、部屋の数は『無限』。

 満室になっても満室にならないと言うこの不思議な旅館の内装は地図すら作れないほど広く、延々と伸びる廊下は勿論、階段もエレベーターも果てしなく続くという現実離れした空間が広がっているのです。

 幸い部屋の種類については無限でなく、八畳の和風部屋からベッド付きのヨーロピアンスタイルな欧風部屋まで数種類の中から選ぶ事が出来ます。どの部屋を選んでも窓からの美しい眺めがほぼ同じように楽しめるのが嬉しい所かもしれません。


 その中で今回私が泊まったのは、オードソックスな和風部屋。

 内部の設備やは言わずもがな、窓から眺める昼辺・瑠斗の双子山の光景は非常に美しいものでした。今回訪れたのがゴールデンウィークだった事もあり、2つの山は綺麗な緑に包まれていましたが、秋に来ると文字通り赤や黄色、橙色で彩られた絶景が楽しめますので、皆様もぜひ。


 そしてもう1つ気に入ったのが、女将さん直伝、旅館名物の美味しい栗饅頭。

 食べても食べても尽きる事なく『幸福』が訪れるという云われを持つ旅館一帯の名産品だそうですが、それを抜きにしても非常に美味しい逸品。しかも売店で単品から1()0()()1()0()0()0()0()0()0()0()0()()()セットまで多数発売されていますので、気に入った方はぜひ購入されては如何でしょうか。


 なお、万が一目的の部屋や場所が分からず迷子になっても、女将さんに頼めば一瞬で案内してくれますのでご安心を。と言うより、むしろ女将さんを呼んで目的地まで連れて行ってもらった方が良いかもしれません。

 

【露天風呂について】

 『昼辺・瑠斗無限旅館』の名物の1つが、名前の由来となった昼部山と瑠斗山の双子山から湧き出る温泉です。

 女将さん曰く、昼部山の源泉由来の水には滋養強壮や疲労回復、瑠斗山の源泉からは免疫機能の正常化、新陳代謝の促進などそれぞれ違った効能が含まれていますが、どちらも温度や成分の関係で直接入浴や飲用に用いることは出来ず、一旦混ぜ合わせた上で旅館内の施設で用いる、と言う構造になっているそうです。

 2つの源泉から沸く温水を混ぜたものはそのまま無料の飲料水としても用意されている他、部屋の中のシャワーにも温泉の水がたっぷり使われているのですが、やはり折角訪れたからには露天風呂として堪能するのが一番。

 沈む夕陽を眺めながら、まるで布団のように優しい温かさの露天風呂に浸かる――まさに日常生活から飛び出した、素晴らしい絶景を味わうことができます。


 そしてもう1つ、この旅館の温泉最大の特徴は設置された湯舟の大きさ。

 客が泊まる部屋が無限に存在するだけあって、露天風呂も大浴場も水平線が見えるほどに広大で、まるで海の中にいるような感覚になります。

 女将さんは温水プールみたいに思いっきり泳いでも構わない、と冗談めいて語っていましたが、流石にマナー面で問題なので止めた方が良いでしょう。

 なお、こちらも万が一『岸』=洗面所へたどり着けないという場合、女将さんを呼べばすぐ助けてくれるそうです。ただ後述の事情もあり、男湯の場合はどう対処するのかは気になるところです。


【料理について】

 露天風呂と並ぶ旅館のもう1つの楽しみと言えば、お腹一杯味わう事ができる『料理』。

 女将さん直々に作る夕食は和風、洋風、和洋折衷の3つから選ぶ事が出来、アレルギーやペットにもしっかり対応してくれるのが非常にありがたい所です。

 2階には1()0()()1()0()0()()()1()0()0()()()()1()0()0()()()1()0()0()()()1()0()0()()()()が収容可能な食事処が数限りなく連なっておりそちらでご飯を味わう事もできますが、今回は自室に用意してもらう形にしてもらいました。


 山菜の天ぷらに大魚の煮つけ、おこげまで美味しい味ご飯も絶妙な味でしたが、何より一番の美味は猪の肉をふんだんに使った鍋。

 昼部山や瑠斗山の源泉を飲み豊富な草木を食べながらたっぷり育ったという猪は、普通の豚肉とはまた違った独特の風味が格別でした。

 女将さん曰く、なんでもこの猪は北欧にいると言う無限に肉を生産できる不思議な猪と同種らしく、どうしてこの場所でも野生で暮らしているのかは不明とのこと

 それでも美味である事は間違いないでしょう。これだけは胸を張って言えます。


 朝食も勿論、女将さんが直々に作ってくれた美味しい朝ご飯が待っています。こちらは食事処での用意のみとなっていますので、皆様迷わないようご注意ください。ただしいざという時には美人の女将さんが席まで直接案内してくれるので、旅館内を彷徨う心配は一切ありませんのでご安心を。


 また売店にはお握りやサラダ、小魚を始め様々な総菜やおつまみなど、小腹がすいた時にありがたい食事が揃っています。

 特に旅館限定の和風ケーキは、文字通り無限に食べ続けてしまいそうなほどの絶品なのでかなりお勧めです。

 



【カワウソについて】

 『昼辺・瑠斗無限旅館』には、マスコットとして可愛いカワウソたちが暮らしています。

 受付の近くにある巨大なガラス張りの部屋の中で、動物園や水族館顔負けの設備が整った環境でのんびり過ごしており、時折見せる仕草がとっても可愛かったのが印象に残っています。

 一方で、定期的に女将さんが用意する魚を食べる時は打って変わって迫力満点、野性味あふれる豪快な食べっぷりを披露してくれます。皆揃って食べ盛りの食いしん坊なんです、と嬉しそうに語った女将さんの笑顔もまた印象に残っています。


 種類はユーラシアカワウソ、かつて日本に分布していた絶滅種・ニホンカワウソに近いカワウソです。

 かつては本物のニホンカワウソも昼辺山や瑠斗山の川沿いに生息していたそうですが、残念ながらもう見ることは出来なくなっているそうです。

 でも、『無限旅館』の傍でどこまでも連なる山の中に、もしかしたらひっそりと暮らしているかもしれない。いや、ひょっとして――女将さんの近くでこちらを眺めているカワウソたちを思い出す度、ついそう思ってしまいます。



【総評 評価:★★★★☆】

 サービス、料理、窓から眺める大自然――どれを取っても最高の時間を過ごす事ができました。

 ただ、何と言っても果てしなく続く廊下や階段、地平線が見える料亭、そして露天風呂に出来た水平線の彼方に沈む夕陽など、日常生活では決して味わう事のできない()()を存分に楽しめると言うのが、無限旅館最大の見どころかもしれません。

 どこまで行っても果てが見えない空間、気づけば恐怖を通り越してどこか爽快な気分も感じてしまう――皆様も機会がありましたら、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

 

 あともう1つ、この無限旅館を切り盛りする女将さん、非常に美人です。

 胸に描かれた綺麗な一輪の花が可愛らしい着物姿は勿論、風にたなびく長髪に綺麗な花の髪飾りなどなど、どこをとってもまるで和装美人を描いた絵がそのまま実体化したような、本当に可憐な方です。

 しかも接客態度は真摯かつ優しく、ほんの些細な困り事にも迅速かつ丁寧に対応して頂き、本当に助かりました。

 それに料理も話術も、布団の用意の手早さも全てがプロ級の腕前――こんな女将さんに支えられている『無限旅館』は、本当に幸せものかもしれませんね。

 


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 ここまでは『昼辺・瑠斗無限旅館』の概要や高評価点について紹介してきましたが、公平なレビューを書く上でどうしても「欠点」を書かない訳にはいきません。

 私はそこまで気にする事はありませんでしたが、場合によっては嫌な気分になってしまう要素もありますので、そういった方への事前の注意も含めて以下問題点を幾つか記しておきます。


【問題点】

・アクセスが不便

 冒頭にも述べましたが、自家用車で行きづらいのは難点かもしれません。

 一応旅館の傍には駐車場もあるのですが、無限の面積を持つためどこに車を停めたか分からなくなる可能性がありますので、公共交通機関や送迎バスを利用する事をお勧めします。



・部屋の移動について

 『無限旅館』のサービスはハード面もソフト面もどれも非常に良く、満足という言葉では足らないほどの良さだったのですが、ただ1つ改善を要求したい点があるとすれば、時に宿泊客が部屋の移動を余儀なくされると言うものでしょう。

 名前の通り数えきれないほど大量の部屋が存在するこの旅館には、億、兆、京、垓、時にはそれ以上の数の客が一斉に訪れる場合も多く、中には文字通り無限人の団体客がやって来る事もあります。その際無数にやって来る客のために無数の部屋を用意しなければならず、それ以前から宿泊していた客は別の部屋へ移動しなければならないのです。


 丁度大型連休中という事もあってか、今回宿泊した際には私を含めて既に旅館は家族連れやカップルなど無数人の予約客で満員になっていました。ところが運悪く、どこからか数えきれないほどのバスに乗ってやって来た無数人の団体客が急遽宿泊を要望した事で、既に泊まっていた私たちは部屋の移動を余儀なくされました。私の場合は泊まっていた部屋番号がおよそ3()0()()もあった事が災いし、地球何周分もありそうな距離にある場所まで移らなければならなくなったのです。

 勿論、女将さんから客全員に対して誠意を込めたお詫びもあり、団体客側からも私たちへ謝罪の気持ちを込めたお菓子が渡されました。それに女将さんの手際の良さのお陰で、私は手ぶらで目的地へ向かうだけで済む形となりました。そして、これは女将さんではなく別の宿泊客の方から教えてもらったのですが、『無限』の客を泊めることができる『無限旅館』と言う構造上、例え数えきれないほどの客を収容出来たとしても、どうしても部屋の移動が必要になる場合があるそうです。特に今回のケース――無限人の客で満員になっている状態で更に無限人の客を招き入れる場合、元の数を2倍した部屋番号へ移動させないといけないようで。


 『数』という概念が存在する以上、これはどうしても避けられない問題だ――そのお客さんはそう教えてくれたのですが、折角のんびりと良い気分を味わっているのに、いちいち部屋の移動を強制させられる事に対して嫌悪感を抱く人もいるでしょう。それに、『無限人』なのに部屋を新たに用意しないといけないというのは、数学に詳しくない人にとっては納得出来ない話かもしれません。現に私も若干そういう気分になってしまいました。

 難しいかもしれないですが、次に訪れる時まで何かしらの改善策を取ってほしいものです。

  


【女将さんについて】

 上記の『総評』で容姿端麗、接客も完璧、と紹介した無限旅館の女将さんですが、もう1つ紹介しなければならない事実があります。

 それは、この『昼辺・瑠斗無限旅館』の従業員は、全員『女将さん』である、と言う事です。


 女将さんが1人で切り盛りしていると言う事ではなく、旅館で働く従業員――仲居さんは勿論、料亭にいる料理人も掃除担当の人も、カワウソの飼育を手掛ける人も、果ては送迎バスの運転手まで、揃って同じ顔、同じ姿、同じ声、同じ服、そして同じ名前を持つ()()()()その人。しかも数千や数万、数億単位を遥かに超え、目視しただけでも()()()以上の数に膨れ上がった女将さんが、無限旅館全体に溢れかえっているのです。

 合計で何人いるのか、と念のため女将さんたちに尋ねてみたのですが、本人も全く把握しておらず、それどころか無限旅館の全体を管理するが故に『数』と言う概念自体が通用しないかもしれないとのこと。最早私の頭で理解できる範疇を超えているかもしれません。


 ただ、そんな無限人の女将さん同士では意識や記憶がかなりの割合で共有されているらしく、どんな異常事態が起きても女将さんたちが素早く対応出来る体制が整っているというのはちょっぴり羨ましいと思いました。クラウドサービスや人工知能に負ける気はしませんわ、と女将さんも自慢げに語っていたのが印象に残っています。


 とは言え、どこまで行っても同じ顔、同じ姿、同じ声をした美人が無限に溢れると言う異様な光景が苦手な人も多いでしょう。そういった人にはあまりお勧め致しません。

 流石の私も、山肌は勿論地平線の果てまでびっしりと覆いつくしながら笑顔で見送ってくれた、()()()の女将さんのインパクトが未だに頭から離れていませんので……。



<追伸>

 ここだけの話、女将さんはかなりの巨乳です。勿論、全員揃って。

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