表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

獲物

 高スペックの転生者がいてもいいと思うんですよ。でも、現実的に乙女ゲームやってる男性とか、私ならドン引き。じゃあ、彼は乙女ゲームなんか知る筈がない、というスタンスから始まった妄想です。

 3話なのに、実は、一番彼がキャラ的に理想かもしれない。

 レイローズが記憶が一部飛んでいる理由も明かします。

 

 リオンが宰相になったのは、約1年前だ。前任のメイオス宰相が65歳で病で臥せり、後任が必要となった。宰相の利権にしがみつきたくてたまらない野心家たちが蠢く中、前任から指名されたのは、若干26歳。もうすぐ27歳というグラート侯爵家長男、リオンだった。

 もちろん、若すぎる起用に、異論が噴出した。しかし、リオンには前任メイオス宰相の補佐をしていた実績と、メイオスからの強い支持があった。それでも宰相職を希望する者(もちろん、ある程度の家格と本人の実績、推薦を踏まえて選ばれた者)に、実際の仕事量の説明を受けに来てもらい、見習いよろしく、期限付きの宰相業務をやらせてみたら、あまりの激務に宰相の任を引き受けようという者は皆、辞退という状況に相成った。元々、前任宰相の補佐といいながら、実際、病気がちだった宰相の決裁を行っていたのはすでにリオンであったのだが、内情は外部の者は知らない。

 横で黙々と業務をこなしていくリオンの優秀さに、恐れをなす者、自分の力不足を実感する者など様々だったが、何より、家格だけが高い馬鹿であった某公爵家三男が、家の権威を振りかざしてリオンに喧嘩を売った挙げ句、返り討ちにあい、公爵家が格下の侯爵家に陳謝するまでとなった話は、事の詳細が不明なものの、貴族社会には一気に広まった。


 さて、宰相になって何か変わったということは、仕事上でも特段なかったのだが、濃紺の官吏の制服ではおかしいと指摘があり私服となった。そうなると、毎日の衣装選びすら時間の無駄でしかないと考えたリオンは、官吏の制服を納入する業者を呼び出し、デザインは全く同じで、色は黒、金糸の刺繍を施した制服を特注し、それを着用することとした。

 それから、彼の黒の宰相というあだ名と、裏で言われる腹黒宰相が誕生したのだ。


 リオンは6歳までは腕白でやんちゃな、まあ利発な普通の子供だった。同じ侯爵家の友人、カイウスとよく遊び、剣の稽古をした。その彼が6歳の時、大人の目を盗んで、木づたいに屋根に上がり、ちょうど4階ぐらいの高さらか転がり落ちた。途中、木がクッションになったものの、頭部を強打し腕も足も骨折しており、治癒師による治療を受けたものの、回復に1ヶ月はかかった。因みに、一緒に落ちたカイウスは、かすり傷だけ、だったという。

 落ちた後、リオンは時折、妙な夢を見、約1ヶ月かけて自らの前世を思い出すこととなった。





 幼児期より、塾へ通っていた。まあまあ、裕福な家庭だった。両親ともに、一流大学の出身。父親は医師。別に、医師になれと言われていたわけではないが、大手塾に通い、塾の小学部では全国模試で常に上位をキープ。日本の最難関私立中・高と進学し、日本で最も偏差値の高い大学に入り、官僚となった。

 小学生の時点ですでに、小学校、塾の往復で自宅はただ、朝食を取る場所、寝る場所だった。中学校からは寮に入り、大学では一人暮らしをした。一人っ子で、兄弟はいない。

 今、親の顔すら思い出せない。仕事は嫌いではなかった。ただ、幼少期より勉強ばかりしていた体は体力が無く、ある時、胸の苦しさを感じた所までしか記憶がない。心不全でも起こして死んだのだろうか。

 今まで外で遊びまくっていた6歳児の体は、ケガをしても元気そのもので、思い出した知識を総動員して生き抜くことを決めた。前世を反省し、程よく運動して身体を鍛えた。

 この世界の勉強は楽だった。

 魔法という今までにないものもあり、便利だ。


 親にも誰にも教えていないが、実は珍しい全属性持ちである。この世界では、光・闇・炎・水・風・土の6属性に分かれる。

全属性ゆえに、当初、内部で、属性同士が邪魔しあい、上手く操れなかった。

 早くに自身でそのことに気がついたリオンは、自分の魔法属性を偽ることとした。なにより、魔力は中程度であり、何かに特化して強くなることは出来なかったのである。

 光の治癒魔法師は稀少だ。だが、そのため、治癒魔法使いは治癒師協会で管理される。制限なんて、ごめんだ。自宅の宝物庫から空の魔力石を見つけたリオンは、日々、光の力は石に貯め込み、闇や炎、風などを繰れると話して自身を偽った。

 魔力量が中程度でも、やりようによっては、強力な魔法も使える。

 カイウスは、代々、騎士の家庭で、彼自身の適正も騎士であった。一緒に遊んでいても、体力では全くかなわない。カイウスは一緒に遊びたがったが、リオンは、カイウスとの遊び時間はセーブし、ひたすら勉学に励むのである。

数年後、学院入学試験をもちろんトップ合格し、ひたすら首位を走り続けた。


 どこの世界も一緒だ。ほとんどの女達は、稼ぎのある男に媚びる。学生の内から将来を見据えて、強い媚薬入りの香水をつけてしなだれかかって来るような女が嫌いだった。まぁ、ものは使いようなので、上手くあしらい、コネとツテは、沢山作った。

 寝込みを襲おうと、薬を盛ろうとしてきた女だけは許さなかった。



 空虚なのだ。



 日々、過ぎていくが、何かに執着することはない。

 前世と同じで、仕事は嫌いではないが、執着することはない。

 別に、この国でなくてもいい。


 卒業後、学院時代の友がどんどん結婚して、子供が出来たと世間話する。祝いを送る。


 自分だけは変わらない。


 宰相補佐となって、さらに仕事に打ち込んだ。そのうち、宰相になった。

 他に宰相の仕事を出来る人間がいなかったので、まあやってみるか、ぐらいの気持ちだ。能力が無いのに、うるさい奴らは黙らせた。

 宰相になって、1年と少しが過ぎた夜会で、第3王子や多数の貴族が昏倒する騒ぎとなった。

情報収集とともに、解決を図る。原因を探る。犯人を捜す。


 風の魔力で伝わる音を聞き、会場にいる者たちの会話を聞く。全く、これと言って手がかりになりそうなものが無い。


「こういう時ばかりは、ヒロインがいれば、サクッと解決したでしょうに。」


「帰りたいわ。チートで無双とか、所詮モブには夢のまた夢ね。」


 変わった事を話している者がいる。どういう事だ?同じ日本人の記憶持ちなのだろうか。

 ヒロインがいれば解決するとは、どういう意味なのだろう。


 発言したものの位置を確認する。

 急いで向かうと、バルコニーにて気だるげに頬杖をつき、幾度となく溜息をつく令嬢がいた。ファシエ家か。名は確かレイローズ。今年の社交会では、人気のある令嬢だ。学院での成績も優秀で、控えめな所が、我が儘な貴族家の子息達には高評価らしい。


「こんばんは、ファシエ家レイローズ嬢。ご気分が優れないようにお見受けしました。別室を用意致しましょう」

「お気遣いありがとうござます。本当に助かります。」

 少し、驚いた様子だが、素直に従った。取り調べ室に近い客間を指定して、メイド案内させる。


 さて。気になる者は捕らえた。

 後は、事後処理。

 聴取は順調に終わり、昏倒した者も、治癒師により、順に回復した為、解散となった。ただ、捕らえた令嬢はソファで寝入ってしまっているとメイドから連絡があり、ファシエ家に連絡を入れさせて、そのまま休ませる事とした。


 王城内に持つ自室から、そっと抜け出す。

 ファシエ家の令嬢が休んでいる客間に入る。


 彼女の向かいのソファで、仮眠を取りながら、覚醒を待つ。


 半刻ほど過ぎただろうか。身じろぎをする気配がする。

「起きましたね。」

「ひっ!」

 まあ、起き抜けに声をかけられたのだ。混乱しているだろう。もちろん、わざとやっているが。

「驚かせてすみません。レイローズ嬢、分かりますか?」

「さっ。宰相様・・・?」

「はい。」

 ニッコリと微笑んでみる。防音の結界は張ったが、ここで叫ばれても面倒だ。

「あの?休ませて頂いて、ありがとうございます?・・・聴取??」

「ええ。ちょっと、貴女に個人的にお尋ねしたい事がありまして。」

 軽度に圧をかけてみよう。

「ヒロインがいれば、解決とは、どういう事ですか?」

「チートで無双とか、所詮モブには夢のまた夢、とおっしゃっていたようなのですが。用語の解説を。」

 途端に、狼狽えて涙目になる令嬢。正直に話すか逡巡している、という事か。


「貴女は『時の旅人』ですか?」

「時の、旅人?」

「ええ。違う世界の記憶を持った者、もしくは違う世界から、迷い込んだ者。ならば、この国と違う用語を知っていても、おかしくはない。」


 宰相になって知った事だ。この世界には、時折、異なる世界の記憶持ちが生まれる。

 中途半端な発展は、その影響もある。王家は、影響を考え、いつの時代もその者達を囲っていた。


「・・・その、時の旅人だった場合、どうなるんですか?」

「王家より保護されます。一般には秘されます。」


「一般には秘される?そんな人がいるって、知った私は??」

「貴女は、私の予測では、他国の記憶持ちの『時の旅人』でしょう?貴女の知っている国名と、性別、どういう生活をしていたのか聞きたいんですよ。話したからといって、貴女に不利にはならない事を約束しましょう。」


 まあ、ここ80年はそんな者が確認されていない。王家もその者の存在を忘れつつあるし、自分の事も申告してはいない。


「・・・日本、です。日本に住んでました。」

 やはり。

「日本という国ですね。地方は?」

「千葉です。」

 以外と近くか。

「性別は?」

「女性です。」

「おいくつで、何をなさってた方ですか?」

「23歳で。普通の事務職でした。」

「ご結婚は?」

「独身でした。」

「では、婚約者は?」

「いませんでした。」

「こちらにいらっしゃるという事は、何かの原因で、前の生を終えられたという事でしょうが。覚えておいでですか?」

「多分、事故です。」

「事故?」

「はい。車の。ええと。馬車のような鉄の乗り物で、トラックが突っ込んで。「すみません、無理に思い出さなくて結構です。配慮が足りませんでした。申し訳ない。」


 事故か。この世界に車は無いが、前世の記憶からPTSDのようになる事があるだろうか?


「はぁ。でも、大丈夫です。それからよく覚えてなくて。」

「いつ頃からその記憶はあるんですか?」

「14歳の時です。」

「何か思い出すきっかけは?」

「・・・階段で足を踏み外して、頭を打ってから思い出しました。」

「なるほど。」


 私が屋根から落ちた時と似たような状況だな。さて。どうするか。


「そうですね。それでは、今後の話をしましょう。国に知らせたら、王家は貴女を保護するため、王族との婚姻を考えるでしょう。貴女の場合は、同じ学院の第3王子が筆頭に上がるでしょうか。」

「はっ?えっ?・・・いや、困ります!駄目です。絶対にあり得ません。」


 途端に狼狽える令嬢。涙目になっている。


「どうして?第3王子がお嫌いですか?まあ、決まった訳ではありませんが。あくまで、可能性ですよ。」

「そうじゃなくて。静かに暮らしたいんです。そんな華やかな生活や人付き合いは無理です。」

「そうですか。でも、私は責務として、国に報告しなければなりません。」

「秘密にして頂けませんか?」

「 面白い事を言われる。秘密にして、私に何の得が?」


 なるだけ、冷たく言い放つ。

「そんな・・・。」


 何を隠していて、何を知っているのか。さあ、吐いてもらおう。


「何か他に理由があるんですね?その理由を聞かせてもらいましょうか。」


 少しの迷いの後、

「あぁ。もぅ。私の知ってるゲーム。ゲームっていうのは、お話のある遊戯で、その中の話と、というか、この世界が一緒なんです!」

 言い切って、ポロポロと涙を流す。


 ゲーム?予想外な答えだな。

「おやおや。泣かすつもりではありませんでした。申し訳ありません。」

 両手で頰を包んで、自分の方を向かせる。さて。ゲームか。彼女の言い方では、テレビゲームだか、スマホゲームかはわからないが。ゲームなら、クリアまでのストーリーが、存在するはず。このまま。聴き終わる情報量とも思えないな。


 まあ、いい。宰相という立場しか見ていない女より余程よい。この令嬢は、そのまま、私が囲っておこう。よく知って我慢出来ない事があれば、どうにかして返せばいい。

 ジッと目を合わせて言う。


「貴女からはもっと、お話を聞かないといけませんね。でも、何の理由も無く貴女と接触し続けるのは無理があります。…どうでしょう。私の婚約者という立場でお会いするというのは?」

「こん、やくしゃ?」

「ええ。貴女が国に対して無害であれば良いのです。貴女を手元に置いて、私の監視下に置きます。その間、貴女が『時の旅人』である話は私が心に留め置きましょう。貴女が無害であると判れば、貴女の望む静かな暮らしをお約束します。でも、怪しまれないように、しっかり婚約者の役は勤めてくださいね。王族と婚約は嫌なのでしょう?何か、貴女の話す遊戯の話に王族と関わると貴女に良くないことがあったと推測しますが?」


 自分も転生者などと、教えずに様子をみる事としよう。禄でもない性格なら、後から面倒だ。


 頭を撫でてやり、リレイ草の入ったハーブティーを飲むように勧める。

 リレイ草は、リラックス効果もあるが、ハーブの組み合わせでは、自白材に似た効果を軽度出す事ができる。

 ゆっくりと、優しくそのストーリーを尋ねる。

 グスグス泣きながら乙女ゲームという、女子向けゲームである事、その中の第3王子ルートのストーリーに今回の夢の花事件があった事は覚えているが、肝心の原因も、解決方法も覚えてない事を話す。



「では、貴女の立場は?」


 それを聞いた瞬間、蒼白になって震えだす。一体、何があるのか。

「悪役令嬢の取り巻きで。…ヒロインに嫌がらせをして、断罪されて、最悪、処刑されて、死ぬんです。」

 ハラハラと流される涙。処刑、か。


「誰が悪役令嬢?」

「公爵家の、リリスティール様。」

「ヒロインとは?」

「男爵令嬢、の、ルマリア、さん。」

 顔色が悪い。こんなに怖がって。流石に可愛そうに思える。

「だが、リリスティール様は、身体が弱い。悪役も何も、話が違うのではありませんか?」

「なるべく、そのルートには近寄らないようにしていたのに、何故か1組になってしまうの。王子になど近寄りたくない。…怖いの。ゲームのストーリー通りに進めようとする強制力が働いたら。リリスティール様も回復に向かわれているって。まだ、時間が…」


「貴女が言った通りとして、断罪されて、処刑される話なら、いつ断罪されるんです?」

「学院の、卒業、パーティ。」

「卒業までに、リリスティールが学院に来なければ、取り巻きになることはない?」

「多分。でも、分からない。無実でも、何か言われたら、反論できるかもわからない。」

「貴女は、それが怖くて、なるべく目立たないようにしている?」

「そう。」

「怖いんですね。」


「怖い、わ。」

「誰かに相談は?」


「誰が信じてくれるの?それに…」

「それに?」

「ゲームから派生する、転生小説では、複数の転生者がいる。…このストーリーの変化は、リリスティール様も、転生者の可能性が、高い。」

 泣きながら話すため、言葉につまる。

「なるほど。」

「他にも、いるかも。」

「誰を、信じたらいいのか、わからない。どうしたら、いいのか。破滅フラグを折るには?どうしたら?」



「・・・誰か。」

 震える手が、ドレスをきつく握りしめる。


「助けて、ほしい?」

 泣きながら、頷く。


 彼女なら、ずっと自分の側に側にいてもいいかも知れない。何より、庇護欲がそそられるというのは、初めてだ。


「私が助けてあげようか?」

 私の言葉に、泣き腫らした目で、見上げてくる。

 強く握りこんだせいで、蒼白になった手を取る。





「助けて。」





 ほろりとまた、涙が流れる。


 小さく掠れた声で、囁かれたその言葉に、満足する自分がいた。


「大丈夫。直ぐに片をつけてあげるよ。」

 抱きしめると、声を押し殺しながら、静かに泣いていた。


 さて、どう動こう。

 レイローズを婚約者にする。が、この様子では、リレイ草が効きすぎだ。

 リラックス効果のあるハーブティーと混ぜたからといって、普通はこうはならない。

 余程薬剤耐性が無いか、疲れやストレスで、本人の限界に来ていたか。それとも、昨夜の昏倒事件の影響が彼女にも、多少あるのか?

 明日の朝には。すべて忘れているかも知れない。ならば、自分の部屋に連れて行ってしまえばいい。貴族は体面を重んじる。既成事実として周囲が認識すれば、逃げようもあるまい。


 レイローズを膝に乗せ、自分の首に腕を回させると、立ち上がる。

 これで、泣いている事はわかるまい。このまま、自分が部屋に連れ込めば、さも親密に見えるに違いない。


 今は夜半だが、明日の朝、私の部屋にいる彼女を見たら、王城の勤務者を通じて、噂はあっという間に貴族に流れるだろう。


 レイローズを抱いて出てきたのを見て、警備騎士が、一瞬、驚いた表情をうかべる。

「今日はもう、この部屋は使わん。片付けるよう、メイドに指示しておけ。」

 騎士は静かに礼をとった。


 自分の部屋に戻るまでも、すれ違った者は、一様に驚いていた。


 部屋に連れ帰り、自分のベッドに寝かせる。

 仮眠用で置いてあるので、いわゆる、シングルベッド。広さは無い。


 リレイ草が効きすぎだな。

 ぼんやりと自分を眺めているが、目が虚ろだ。ベッドに腰掛けて、頭を撫でてやる。無意識に手に頰を寄せて、両手でぎゅっと握りしめる。


 夜会用のドレスで、肩が出ており、少し乱れた髪が艶めかしい。

 レイローズが自分の手を離す様子が無いので、足元から毛布を引っ張りあげて、横に入り込む。力が緩んだところで、少し、彼女を奥に寄せて毛布を被りながら、抱きしめた。程なくして、彼女の静かな寝息が聞こえてくる。涙の跡の残るその泣き疲れた顔を見ながら、一緒に眠った。


 3時間ほど経ったか。よく眠った。

 元々、眠りは浅い。やけにスッキリした頭で考える。

 さて。今日は、朝から事件の影響を考慮して、騎士団以外、王城は午後から業務開始としよう。朝食をレイローズと取って、屋敷まで送り、そのまま、伯爵に婚約をする旨伝えよう。


 ああ。あと、あれ程怖がっているのだ、第3王子のアーサーには、レイローズに近寄らないようしっかり釘を刺しておこう。


 静かに眠っているレイローズを起こさないようにベッドを降りる。

 まだ、その温もりに触れていたい。夜明け前の薄暗い室内で、彼女の青銀の髪が鈍く光る。だが。まだだな。

 決着は早い方がいい。次の大きな夜会は8月。2ヶ月後には、もう逃げられないように、囲いこむ。


 昨夜、出来なかった残務処理を行い、早朝の掃除番のメイドが廊下に出ているタイミングで、朝食を2人分自室に用意する事、後程、着付けの出来るメイドを1名寄越すように指示する。


 なかなか、彼女は起きなかった。やっと目が覚めたのは朝7時半。

 気配を感じて寝室に行く。


「おはよう、婚約者殿。」

 目を見開いて、驚く彼女。


「いや、あの、役でしたよね?」

 やはり、リレイ草は効きすぎたか。

 だが、婚約者の件を覚えているだけ、良しとしよう。

「もう、メイドが来るから、朝の支度をしてもらってね。呼んでおいたから。それから、朝食を、食べよう。」

「えっ?」

「ちゃんとやってね。」

「・・・はい。」


 押しに弱いな。

表現を間違えていた所、修正しました。

ご指摘ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ