勇者が来る
「これで終わりっ!」
ルナは腕を伸ばし、快活に声をあげる。
「あ、もうすぐアレクが来る時間だ。迎えに行かないと………」
書類をまとめ、提出するように部下に頼む。
そのまま彼女は街へおりた。
街にはいろんな店が並び、賑わっている。
この中から知り合いを探すのは普通なら至難の技だろう。しかし………
(アレクがいたら、一際騒がしくなるからなぁ)
彼女が探しているのは勇者、魔王を倒すと言われる存在である。彼がいるならばそこは大騒ぎになること間違いない。
そこに若い女性たちの声が響く。
『きゃあぁぁ!!アレク様ぁぁ!!』
ルナはビクリと体を震わせる。
声のした方を見ると、そこには絵本の王子様のような金髪のイケメンが立っていた。その青年は顔に合わない粗野な口調で話す。
『おいアレク!また魔王様に会いにきたのか!シスコンもほどほどにしておけ!』
「うるせぇ!ほっときやがれ!」
『がはは!ほら、うちの串焼き食べていきやがれ!』
「ありがとよ!ほら、金だ!」
『まいどー!ルナちゃんならさっきそっちに向かってたぞ!』
「まじか!ありがとよ!じゃあな、親父さん!」
串焼きを食べながらアレクはこっちに向かって来る。が、そこにすぐさま女性陣が駆けつける。
アレクは苦笑いを浮かべながらも、どうやって逃れるか、悩んでいる。仕方なくルナはアレクの元へ向かった。
「すみません、ちょっといいですか?」
「え?って、る、ルナさん?」
「はい、ちょっと予定があるので、すみません、そのくらいで」
ルナがそういうと、女性陣はすんなりと離れてくれる。そのことに感謝しながら、アレクに話しかける。
「遅かったね、アレク。城の前で待ち合わせだったのに、屋台にいるなんて………」
「あ、あー、悪い、串焼きやるから許してくれ!」
「ふふっ、しょうがないなぁ、こんなこともあろうかと、アレクには早めの時間教えてたし、許してあげる。」
「さすが、よくわかっていらっしゃいます……」
「ほら、早く行こう?ユーリ様もまっているわ」
「ああ!」
魔王城の前に着くと、ユーリが待ち構えていた。その隣には、ユーリと同じ色合いの髪と瞳を持つ可愛らしい少女が並んでいた。その少女の存在に気づいた瞬間、アレクは顔を青くする。
「え、あ、ゆ、ユリア?」
その言葉を聞いた瞬間、とてつもないスピードでアレクにぶつかっていくのが見えた。
「アレク様!お久しぶりだね!どうして僕に連絡入れてくれなかったの?お兄様が教えてくれなかったら、僕、出かけちゃうところだったの!」
「離れろユリア!あ、い、変わらずの馬鹿力だな!!」
「えー?僕褒められてる?照れちゃうなぁ。」
「褒めてねぇ!」
話が通じてるようで通じていない2人を見ながら、ユーリはほくそ笑む。
(せっかく仕事を早く終えて、ルナとゆっくり話せるはずだったのに、まさか屋台の方に向かっているなんてね………)
八つ当たりであった。
このよくわからない状況に、ルナは頭を痛めるのであった。