第一話:出会い 一部
眠気を払ってくれる肌を刺すような冷たい風が吹く早朝。
時刻は六時二十五分。
築三年の新築二階建ての一軒家、一階にはリビングと風呂と押入れ代わりの個室が一つ。二回には四部屋がそれぞれ向かい側に扉が顔を合わせている。
奥の右側の部屋、扉には部屋の主の名がローマ字で刻まれた札がかけられている。
室内は朝日が差し込む白いレースのカーテンがかけられた東側の窓が一つ、参考書が綺麗に並べられた勉強机、ワックスのかけられたフローリングの床。
全体的に白が並んだ部屋には暖かい雰囲気が漂う。
東側の窓から差し込む朝日が部屋の隅に置かれたベッドでナマケモノのように寝そべる部屋の主に降りかかる。
瞼を痙攣させて、もう一押しで夢の世界から脱出寸前であることを教えてくれる。
トドメとばかりに枕元に置かれたアナログ目覚まし時計の大音量のベルの音。
静かな朝には付き物の目覚ましの声、ベットの上で毛布に包まる物体は奇妙な唸り声を上げてニョキと軽度の日焼けを負った手を伸ばして耳障りに白の壁紙で彩られた部屋の中を響き渡る音を止めようと振り上げる。
「うる……せ…ぇ」
薄い意識を振り絞って握り締めた拳で音源である目覚まし時計を叩きつける。
しかし、その時計は停止するどころかベルの音には黒板を掻くような軋む音が混じる。
「あ――――――ぁっ! うるせぇって言ってんだろうが!」
半破損した奇天烈な音の音源を今度は殴るだけじゃなく、その後に壁に投げつけるという二連コンボをかます。
中の部品が飛び散るほどに完全分解した目覚まし時計であったはずの金属の塊が床に散乱する。
同時に部屋の扉が高い怒声とともに開かれる。
「またぶっ壊したの? いったい何回目覚まし時計買い換えれば気が済むのよ。毎回毎回壊すたびに人の眠気を邪魔するのやめてくれる!?」
「うるせぇっ! 未だにそんなダサい熊柄のパジャマ着てる単細胞女に言われたくないわ」
指摘されたパジャマは確かに今時の小学生でも喜ぶかどうか不明なクマさんの刺繍が十数箇所施されている。
これではそう罵られるのも無理はない。
「あんたみたいなヘタレに人の趣味を罵倒する筋合いないわ! 未だに彼女の一人もいないくせにぃ!」
さきほどの目覚まし時計にも負けない高い声。
「誰がヘタレだぁ! おまえみたいに何股もかけてる奴と一緒にすんな! 言っとくが俺は彼女はいないんじゃなくて作ってないだけと何回言わせればわかんだよ」
「ふん! たしかに毎日下駄箱に溢れるほどのラブレターが詰め込まれてるみたいだけど、所詮顔だけのあんたなんかすぐに飽きられるわよ。それがわかってて誰とも付き合わないんでしょ?」
「ったくこの話蒸し返すといつもそう言う。おまえはもう少し語彙力増やしてから俺に話しかけろ。このミジンコ女」
「だ、誰が―――――ミジ……」
今日一番の金切り声を発しようと一拍の間が置かれる。
「あんたたちぃ! また朝っぱらから兄弟喧嘩? ご近所迷惑だから止めなさいって何回言わせるの?」
その前に違う場所からの大音声が言い争っていた二人の体をビクつかせる。
部屋の外から廊下を荒く踏み鳴らす音。
金髪のカールがかかったウェーブヘアを揺らし、黒いブラが透ける白いTシャツに下は黒のパンティだけというなんとも大胆な姿の女性。
鋭い鷹のような眼光を二人に向け、開けっ放しだった扉の前を塞ぐように仁王立ちで立っている。
「ほらぁ、母さんまで起きちゃったじゃないっ! 颯太あんたのせいよ」
「姉ちゃんのその蝉みたいな声が原因だろ?」
「誰が蝉……」
「颯太! 奈々! あんたたちの今日の朝飯抜きっ!」
そんなどこでもあるような静かな朝に一つまみの塩を加えたようなちょっと騒々しい朝の光景。
「えぇ〜〜!」
ため息に不満が混じった二つの声が清楚な早朝の住宅地を山びこのように木霊した。
更新は色々な都合で遅れますが、長い目でごらん下さい。ご意見ご感想などお待ちしております。