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とある悪役王女様のおはなし

しあわせってなんだろう


―大切なもののためなら、そのほかの何がどうなっても構いやしないわ―


これは、そんな悪役王女様のおはなし。



むかしむかしある国に、それはそれはやさしく美しい王女様がおったそうな。

王女様は困っている人に手をさしのべずにはいられない性格で、ある貴族が平民を罰しているのをみて、

「そんなに鞭で打ったらかわいそう。こんなことはもうやめにしましょう。」

といいました。

それからのこと、この国では鞭打ちや処刑はなくなりましたとさ。


王女様は大変慈悲深い性格で、貧民街の人々が日々の暮らしに困っているのをみて、

「彼らはあれほど困っているのに、どうして誰も助けてあげないの? みんなで手を取り合って幸せになりましょう。」

といいました。

それからのこと、貴族も王族も例外なく、困っている人には手助けをするようになりました。


王女様がいくら素晴らしい行いをしても、今日もどこかで民は自らの不幸せを嘆きます。

大変純粋な王女様はこのことにひどく心を痛めます。

「どうしたら皆を幸せにできるのかしら。」

そうため息をついた王女様に国一番の賢者があるものを差し出しました。


「これを水源に投げ入れてください。そうすれば、その水を飲んだ全ての民は、これから先不幸せを嘆くことは無いでしょう。」

王都やその周辺の都市の水源はもとをたどればあるひとつの湖からのものでした。


それを聞いた王女様。

「それはすばらしいわ! すぐに行きましょう。これで少なくとも王都の民は救われるのね!」


そして民は全ての不幸せを忘れましたとさ。


そんな賢い王女様は王都の近くに住む悪しき魔女を討伐しに来た隣国の王子様を夫に迎え、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。






これが民に伝わっているおはなし。しかしあなたが知りたいのはこの話ではないのでしょう?なら教えてあげましょう。すでにわたし以外知ることはない本当の王女様のおはなし。


ちょうどよかったと思います。わたしがいなくなって、彼女のことが忘れ去られるのはとてもつらいと思っていたから。えぇ、えぇ、ちゃんと話してあげますからそう焦らないで。もうわたしも年でね。あまり長く起きているのがつらいのです。

しかし今日明日死ぬというわけでもなし、続きは明日にしましょうかね。今日はここに泊まっていきなさい。今さらですがあなたのお名前は……、そうですか。ではジル。ふふふ、なにを驚いているのですか。名無しは不便ですからね。適当につけたまでですよ。ジル、二階の客間が空いていますからそこを使ってくださいな。掃除は普段からしてありますからね。泊まるに不都合は無いでしょう。お付きのかたもどうぞこちらに。ジルのとなりの部屋でよろしいかな?ふふふ、ではまた明日。そうですね。朝食後でも続きを話してあげましょう。


皆様お疲れかと思います。今日はゆっくり休んで…。ええ、どうしてもです。どんなに頼まれても今日は続きは話しませんよ? だからゆっくり御休みなさいな。えぇ、えぇ、お休みなさい。………ジルフィード殿下。




お早うございます。ジル。いい天気ですね。おはなしの続きですか? 朝食後と言ったでしょう。さぁ、粗末な食事でごめんなさいね。でも量だけは作ったからお腹いっぱい食べてくださいね。食べないとおはなしは無しですよ。えぇ、無しです。さぁ、たんとお食べ。

……今更どうなることでも無いでしょう。急がなくても大丈夫ですよ。あら、顔色が悪いわ。気分が優れないようだったら明日にしてもいいのよ? …そう? じゃあお茶をいれましょうか。長くなると思うので、飲みながらにしましょうね。あら、お手伝いしてくれるの? ふふ、嬉しいわね。こうしていると息子が出来たみたいで…あらあら、いいのよ。…そう? じゃあ茶葉はここにあるからね。……ありがとう。おいしいわ。じゃあ約束通り、続きを話しましょうね。悪役王女のほんとうのものがたり。



この国の王女様はね、二人いたの。姉のテレスティア様と妹のレティシア様。ふふ、知らないのも無理はないわ。今ではもう、辺境にいる古い貴族しか覚えていないことですもの。王都の近くの貴族も民もみーんな知らない王女様。テレスティア様はね、とっても賢くて優しかったの。一周回ってとても愚かで無慈悲に思えるくらい。


そのころの王さまはね、愚王ではなかったけれども賢王でもなかったわ。平和な世であればなにも問題なく、テレスティア様が王になり、王配を迎えて国を繋いでいったでしょう。しかしあのときは、隣国の帝国が力をつけてきて、豊かな国土を抱える我が国を狙っていつ戦争になってもおかしくなかった。そして戦争になれば必ず負けるであろうことを彼女は知っていたのです。


ある意味で、彼女はとてもわがままだったのね。彼女が目指したのは、戦争も、略奪も起こさず、民に一人の犠牲も出さずに王国を帝国に組み込むこと。彼女は始めに、自分だけの手駒を手にいれようとした。簡単ではなかったわ。第一王女とはいえ、まだ王女ですもの。貴族に頭ごなしにいうことを聞かせることはできないし、王に気づかれるわけにもいかなかった。なぜ王に気づかれたくなかったのって? 後々話すわ。今はその疑問は置いておいてね。


そこで彼女は平民のなかから手駒を見繕うことにした。貴族の理不尽な懲罰はあの時代にもあったからね。無邪気な王女様を装って平民を助けて彼らの忠誠をつかもうとした。


そしてそれは成功したわ。貴族から無知で純粋な王女様だっていう印象を持たれるというおまけつきでね。


そうして手駒を増やしていった。相手の貴族にはお礼に自らの装身具を贈ったりして適度に機嫌をとりながらね。そうして彼女は次の手を打った。


集めた手駒を王都に放ち、人助けを始めたの。ふふふ、意味がわからないという顔をしているわ。そうね、これだけだとあまり意味はないかもしれない。でもね、彼女にとっては大切なことだったの。人助けをすると同時に、彼女は手駒たちに“これは王女レティシア様のご意向である”という噂を広めさせたの。ええ、そう。そうしてどんどんレティシア様は有名になっていったわ。民はレティシア様がまだ7歳の少女でこんなことをできるはずがないなんて気がつきもしないで、彼らのレティシア様に対する好感度はどんどん上がっていったわ。


レティシア様は民のことを思いやる素晴らしい方! 彼女が女王になれば、この国はますます繁栄するでしょう! レティシア様万歳!


そんな言葉がそこかしこで囁かれるようになったとき、テレスティア様は最後の大仕事に取りかかりました。


テレスティア様は自らの存在を消し、王を廃して妹に帝国の第三皇子をあてがい、皇子を国王とし妹を王妃に据えようとしたのです。


あら、一気に色々起こりすぎて混乱したかしら。え? そんなことができるはずがないだろうって? そうね、普通なら無理ね。でも彼女はなにを犠牲にしても戦争を食い止めたかったの。そのためなら悪魔にでも神にでも魂を売り渡したわ。彼女の願いを叶えたのは、彼女をこよなく愛した幼なじみの作ったある薬。童話にもあったでしょう? 国一番の賢者がもたらしたものを水源に投げ込んだら王都の民は幸せになったって。…そんなに震えてどうしたの? 聞きたくないなら無理に聞かなくても……、ええ、続きを話しましょうね。大丈夫。もうすぐこの物語も終わりますからね。


まぁ、もうこんな時間。たくさん話して疲れてしまったわ。あなた方もずうっと座っていてつかれたでしょう。お昼ご飯にしましょうね。支度してくるから、庭の空気でも吸ってきなさいな。とっても顔色が悪いわ。……大丈夫よ、ここまで来たら続きは明日なんて言わないから。さあ、行っていらっしゃい。


…あら、今度はあなたが手伝ってくれるの? ジルについていなくて大丈夫? そう、ならお願いするわ。この年になると水をくむのも一苦労でね。手伝いはありがたく受け取らせてもらうよ。そうだ、あなたも名無しは不便だねぇ…サムでどうだい? えぇ、じゃあサム、桶一杯に水をくんで、火をおこして湯を沸かしてくれな。それが終わったらうらの野菜を適当に持ってきて洗ってきて、ああ、薪ももうなかったね。それが終わったらいくらか足しといてくれないか。…人使いが荒いって? お前さんにゃそのくらい苦でもないだろう? そうそう、おねがいね。じゃあ続きはお昼を食べて、昼寝をしてからにしようかね。ジルもサムもそのころにはくたくたになってるだろうて。ほっほっほっ。


お帰り、ジル。お昼はお前さんの好きなトマトスープだよ。…なぜ知っているかって? 何となくさ。婆さんには相手の好みをそれとなく察するって特技があるんでねぇ。伊達に長いこと生きちゃいないよ。さぁ、お食べ。慣れないことをして疲れたろ? ふふ、ありがとうねぇ。これで少しは野菜が食い潰されることも少なくなるよ。血抜きもしてある、いい肉だ。晩御飯にはこれでちょっとしたご馳走をつくろうね。


さぁ、少し休むといい。一刻後にはおこしてあげるよ。よく食べ、よく動き、よく眠る。立派に育つための三原則さね。シーツも午前の間干しておいたから心地よく眠れるはずさ。サム、あんたもお眠りよ。ここには害のあるものなんて来るもんかね。大丈夫だからお休みな。


ふふ、昨日と違ってずいぶん素直に言うことを聞くじゃあないか。子供は大人の言うことを聞くものだぁよ。…私から見たら子供のようなものさ。成人だのなんだの関係無いね、ほら、行った行った!


いいねぇ、でも苦労も多いだろうね。純粋さは時には致命的な弱さになるからねぇ…。

テレスティア様のご加護がありますように。…もう全部終わったことなんだよ。






あらあら、起こしに行こうと思ったら。ちゃんと眠ったの? そう、サムはすごいのねぇ。護衛なら当然?嘘ばっかり。ふふふ、おばあちゃんはなんでも知ってるのよ。だからここに来たのでしょう? だてに魔女なんて呼ばれてないわ。村の人も、本当にいるなんて信じてないと思うけれど。わたしはちゃあんとここにいるよ。


さて、続きだね。テレスティア様が到底不可能に思えることをなそうとしたところから。そして彼女の幼なじみの話だね。


彼女の幼なじみはね、薬師見習いだったのさ。中流貴族の出だけれども、その家は代々優秀な国王付き薬師を排出していた名家だったからね。父について王宮に通ううち、王女様の遊び相手として召し上げられたのさ。彼は優秀だった。十の時には父と並ぶほどの知識と腕を持ち、十五の時には過去に失われた薬のレシピをいくつも復活させていた。


しかし彼は薬のこと以外にはめっぽう弱くてね。あの完璧な頭脳も他のこととなるとまるで働かない。だからだろうね。彼は幼なじみに頼まれて、ある薬を作り上げたのさ。その薬は少し特殊な自白剤のようなもの。正しく使えば後遺症も残さず知りたいことをしゃべらせるとても便利な薬さ。外国の要人に使うにはもってこいだね。しかし別の使い方をすれば…。当然彼もその事に気づいていた。しかし特に問題ないだろうと気にもとめずに王女に献上したよ。彼にとっての王女はまさに純粋で優しく、美しい。初恋の人だったから。きっと従来の自白剤の後遺症を何とかしたいと思ったんだろう。そう一人納得してね。


その薬の別名はね。洗脳薬。常用するとぼうっとして、容易く常識やら記憶やらを上書きできてしまう悪魔の薬。ほんのちょっとを毎日摂取させれば、一週間もしないうちに衆愚の出来上がりさ。そしてこれこそが彼女が必要とした最後のもの。ここまでいったらわかるだろう?…彼女はそれを王都の水源に投げ込んだ。毎日毎日、一瓶投げ込んだ。そして自分と手の者はあらかじめ用意してあった水を飲んだ。少しずつ、少しずつ王都の者は狂っていった。あまりに緩やかだったものだから、幼なじみも気づかずに狂っていった。そうして全ての準備が整ったら、彼女は幕引きをはじめたのさ。


手駒たちはテレスティア様のことを忘れるように王都のものにすりこんでいった。ただ忘れさせるのでは違和感に気づくものがでてしまうかもしれない。だからある作り話を流すことにした。


“魔女テレスティアが王を殺し、水源に悪さをした! 井戸の水を飲んではいけない。飲み続けると王のように死んでしまうぞ! これを憂いた王女レティシア様は隣国に助けを求めた。そして安全な水を施してくれるそうだ! レティシア王女万歳!”


魔女とその手下はレティシア王女に恋をした隣国の第三皇子に討たれ、この国は平和になりました。レティシア王女は勇敢な皇子に恋をし、そうして二人は結ばれて、皇子はこの国の新しい王となりましたとさ。めでたしめでたし。


こうして表向きは王国はかわりなく続きます。だんだんと法律も文化も帝国風になっていくでしょうが、平和が一番ですものね? それもこれもレティシア様のおかげでしょう? レティシア様がいなければ、隣国の皇子は助けに来てくれなかったのですもの。ははは、レティシア王妃陛下万歳! 元帝国の第三皇子、オルテッド国王陛下万歳! 王国万歳! 帝国万歳!


さぁ、これで悪役王女のおはなしはおわり。あら、泣いているの? 泣くほどのことではないのよ? 彼女は国民を薬漬けにして、国王を殺して、妹を政略の道具にしたのだから。国民は誰も死ななかったわ。ただ悪い魔女とその一味が処刑されただけ。盗賊を縛り首にするのとなんの違いがあって?王が殺されたのは仕方ないわ。王だもの。ねぇ、そう思わない?


……落ち着いた? ……ええ、そうよ。わたしは魔女の一味。かしこく優しいレティシア王女の敵。ねぇぼうや、あなたがもし、この事を公表しようとするのなら、わたしはあなたを殺さないといけないわ。せっかく平和になったのよ。このままゆっくりと帝国に併吞されていけばいいじゃない。この国を治めているのは帝国の血筋。酷いことにはならないわ。あなたのその下らない正義感で彼女の努力をふいにする気? …あなたもあなたよ、サム。無意識にでもここにたどり着いたその忠誠心は見上げたものね。けれども、あなたの行動はじゃまでしかないの。全部忘れてしまいなさい。そして取り返しがつかなくなった頃にでも思い出せばいい。そうすれば、彼女のことは忘れられずに彼女の願いは叶う。ああ、テレス。私の美しい人。僕は今度こそ君を守ってみせるよ。君はもういないから、君の望んだことを、望んだままに叶えてあげる。ふふ、この年になると男女の区別がつきにくくなるだろう? 今度は一週間と言わず、一日で効果が現れるのさ。素敵だねぇ? きっとテレスも喜ぶぞ。君たちはそうだな、こういうシナリオにすればいい。あのね___



今日はこの僕、ジルフィードがこの国の王になり、そしてこの国を帝国に帰化させるめでたい日だ。私の母は帝国の侯爵令嬢だった女性で、父はこの国の王女と帝国の第三皇子の長男だ。だから私の容姿は瞳を除いてほぼ帝国風の容姿だ。瞳だけはこの国の王族の特徴である深い金色をしている。小さい頃私はこの瞳が好きではなかった…。この瞳は王族の特徴であると同時にあの悪名高き魔女テレスティアの色でもあるから。しかし、ある時から急にその色をみると切なくなって…。そういえば金の瞳の魔女について調べたことがあったような……いや、なんだったか。そうそう、帝国に帰化するのだったな。これからは帝国の一領地となり、帝国とともにますます発展していくのだ。さぁ、戴冠と宣言の時だ。しっかりとこなさなくては。


なんということだ! なんということだ! あぁ、あわれなテレスティア王女! 王族としての名誉すら与えられず、平和に尽力したにもかかわらず、感謝どころか嫌悪を向けられ語られる。そして何よりおろかなのは、もうこの事実を発表することなどできないということだ!


当時を知るものはもうだれもいない! わたしが一人主張したとて、証明することは愚か、誰も信じやしないだろう! 私が統治者としてふさわしくないとして、弟が繰り上げるだけに決まっている!


それだけはできない。国のためでも自分のためでもなく、彼女のことを語り継ぐために。ああ、彼は今度こそ完璧にこなしたのだ。彼女の願いは叶えられ、しかし忘れ去られはしない。いいだろう。彼女のことを語り継ぎ、彼女の意思を継いで平和のために尽力しよう。


幸運なことに、私は皇帝の覚えは悪くない。戦争の気配を感じたら、武力を使わなくてもすむように誘導しよう。力のなかった彼女でさえできたのだ、私ができない道理がない。


願わくば、いつか彼女の汚名がそそがれることを祈って。



○○国最後の国王の日記より抜粋








私は小さい頃死にかけたらしい。…らしいというのは、わたしを含め周りの誰も正確に覚えてはいないからだ。ただおぼろげに、彼女に救われたから私は今ここにあるのだという漠然とした思いがあるのみ。そして私は記憶の中の彼女とよく似た瞳の王子に仕えている。魔女と聖女レティシア様の物語がお気に入りの、正義感の強い王子様だった。


…だったというのは、今日王子はこの国の王となり、帝国の公爵になるからだ。位置関係からすると、辺境公とでもなるのか。まぁなんてことはない。今まで続いてきた帝国との関係に明確な名前がつくだけだ。そう、思っていた。



ああ、テレスティア様、私はあなたに救われたからここにいられるのに! これまでの数々のご無礼をお許しください! 彼女の流した血によってこの地は栄える、永遠に!帝国さえなければあなたが犠牲になる必要はなかったのに! しかしあなたはこの地が帝国の領土となって栄えていくのをお望みになった!


ああ、テレスティア様。真の聖女、平和の使徒。しかしこれを公表することはできない。私の贖罪の機会は永久に失われた。…いや、薄くでも彼女の血を引く彼を守ろう。彼女によく似た瞳のあの方を。もう幼すぎて彼女の力になれなかった私ではない。騎士団長として彼に仕え、そして守ろう。


テレスティア様、例えあなたがわたしを救ったのに下心があったとしても、私にとってあなたはかけがえのない恩人でした。こんなことでしか償えないわたしをお許しください。いつの日か。あなたの名が再び誇り高き王族として語られるようになりますように!



とある公爵領の騎士団に伝わる日記より





私は少しおかしいのだと思う。自分のことや、周りのことにまるで執着しないの。どこか物語のなかにいるような、夢を見ているような。そんな中で、妹だけが私の中の唯一の大事なものだった。生まれたての妹が、私の指をきゅっと握った瞬間に、色あせた世界で妹だけに色がついたように思えた。そんな風に育ったからでしょうか。私は年の割にはずいぶんと大人びた内面に育ちました。そしてふいに、この先の未来を見たのです。ええ、あれはおそらく未来の出来事だったわ。この国の王族の中には先読みと呼ばれる力を持つものが時おり生まれてくる。その力をもつものは深い金色の瞳を持っているとされているわ。私や、今は亡き私のお母様みたいに。


隣国と戦争になり、幼なじみには裏切られ、薬を盛られ監禁され。

皇子に子を孕まされ名前ばかりの王妃として即位する。子が生まれたらすぐに譲位させられ、幼い王の父である第2皇子が辣腕をふるい帝国に搾り取られるだけの未来。

妹は幼なじみに下げ渡されたけれど。彼は私が欲しかったみたいでろくな扱いもされずに薬の実験台として酷使された末死んでしまうの。


そんなの絶対に嫌。なにを犠牲にしても、私が死んだとしても、妹だけは守って見せるわ。


まずは、そうね。従順な手駒を揃えましょう。万が一にも裏切らないように。気づかれぬくらい細くしっかりとした忠誠の手綱をつけて。彼らの前では優しく平和のために悲壮な覚悟をした悲劇の王女様を演じましょう。


そして、そうね。私を裏切る幼なじみはきれいな夢のなかにいてもらいましょう。気づかれぬよう必要な薬を用意させるの。彼の前ではほんの少しの好意をみせて、世間を知らない無邪気な王女様でいてあげましょう。


最後に、そうね。かわいいかわいい妹には、私のことを忘れてもらいましょう。白馬の皇子様との幸せな人生を過ごしてもらうの。悲しいけれども接触を減らして、私のことは乳母の子とでも勘違いしてもらいましょう。


そしてそして、お父様。妹をくれてありがとう。でも、こうなったのはあなたのせい。あなたがなにもしなかったから代わりに私が妹を幸せにするの。安心して。眠るように逝けるから。あぁ、幼なじみの薬師様。あなたのことは大嫌いだけど、あなたの薬は大好きよ。


そうして最後に手駒を全部全部消せば出来上がり。




…でも駄目ね。あの子だけは消せなかった。てれすてぃあさま、てれすてぃあさまって私を慕う様子が妹と重なってしまう。ずっと妹を遠ざけていたこともあって、まるで身代わりのように可愛がりすぎてしまった自覚はあるわ。完璧を目指すなら彼も処分してしまうべき。でも…すこしくらいならいいかしら。もちろん完璧に洗脳はするけれども。もし、…もし彼に恨まれても仕方がないわ。


これは私のわがままね。あなたには生きて、忘れていても覚えていてほしいわ。……どうしましょう。今更すこしだけ怖くなってきたわ。そうね、彼のことは薬で忘れてしまいましょう。最後の時、迷わないように。彼に家族を見つけて、彼の記憶を上書きして。そして私も忘れるの。うん、それがいいわ。さよなら。私のもうひとつの大事なもの。ふふふ、妹以外にも大事に思えるものがあったのね。彼のためにもこの国を平和にしましょう。


レティシア目線も書こうと思っていましたが書けませんでした。彼女はなにも考えず周りのすすめ通りに生き、人並みに恋をして子供をつくって死んだだけなので。幸せでしたよ。テレスティアの願い通りに。穏やかで暖かい人生でした。


第三皇子目線を書くか悩み中。なんで彼がテレスティアの計画通りに動いたのかとか、皇帝からの密命とか第二皇子関連とかもろもろ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こう、上手く表現できませんが、何か好きです。この作品。 もしできるのならば、第三皇子目線とかはご褒美です!!
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